2021/5/16
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債務整理の方法とその特徴・注意点 |
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消費者金融からの借入、カードローンや住宅ローンなどの借金問題を解決する方法の一つに「債務整理」があります。 「債務」とは、特定の人に対して何らかの行為をしなければならない法的な義務のことをいいますが、借金をすることは借りた側(債務者)が貸した側(債権者)に対して返済の義務を負うことになりますので、これも債務ということです。つまり「債務整理」とは、借金という債務を、日常生活を維持したまま支払いが可能となるように、または、支払いを免除してもらえるように整理して、経済的な生活の立て直しを図るための手続というわけです。 今回は、この債務整理の方法やその特徴、注意点について説明します。 債務整理の方法やその特徴、注意点について
1.債務整理の方法 債務整理には、いくつかの方法がありますが、主なものとしては「任意整理」「特定調停」「自己破産」「個人再生(個人民事再生)」の4つがあります。このうち、「任意整理」は裁判所を介さずに行う債務整理の方法ですが、残りの3つは裁判所を介して行う債務整理の方法であるという点に違いがあります。 2.任意整理 任意整理とは、弁護士や司法書士などの専門家が、任意の債権者との間で返済方法や返済条件について交渉を行い、無理なく支払いができるような条件での合意を成立させる手続です。 一般的には、合意成立後3~5年の期間で返済することになりますが、その間の利息は免除されることが多いため、最終的な返済総額には大きな差が出てきます。 借金総額が比較的少額な場合や、多額の借金があっても利息制限法による引き直し計算で借金の減額や過払い金の回収が見込まれる場合には適している手続だといえるでしょう。 (1)任意整理の特徴 任意整理には以下のような特徴があります。 ① 業者ごとに個別の依頼が可能 必ずしもすべての債権者に対して手続をしなければならないわけではありませんので、勤務先からの借入や、保証人、不動産担保がついている借入などを手続の対象から外す、といった柔軟な対応が可能です。 ② 将来利息がカットされる 合意が成立した後の返済期間中は、原則として無利息となる場合が多いため、完済までの見通しが立ちます。(取引期間が非常に短い、といった事情により利息のカットが困難な場合もあります。) (3)任意整理をする場合の注意点 任意整理をする場合には以下のような点に注意する必要があります。 ① 信用情報機関への登録 信用情報機関に登録され、その後一定の期間(約5年程度)は、借入やクレジットカード契約ができなくなる。(いわゆる「ブラックリスト」に載ってしまう状態です。) ② 借金減額の効果は高くない 特に最近では和解の条件が厳しくなっている業者もいるため、借金の総額を減額してもらうのはなかなか難しいのが現状です(ただし、利息制限法に基づいて引き直し計算をした結果、減額または完済となる場合はあります)。 ③ 債権者の合意が必要 任意整理は、あくまでも話し合いによる解決方法ですので、債権者の合意が必要となります。また、任意の話し合いに応じない債権者に対する強制力もないため、任意整理に非協力的な債権者に対しては、手続そのものが頓挫してしまうこともあり得ます。 ④ 合意前の訴訟・強制執行は止められない 弁護士や司法書士から受任通知が届いた後は、債権者は直接本人あてに取立てを行うことが禁止されていますので、任意整理の依頼後、いったんは督促が止まるものの、裁判や差押えなどの強制執行をすることまで禁止されているわけではありません。 実際のところ、債権者は受任通知が届いたら一定期間は裁判せずに待ってくれることが多いですが、もし裁判を起こされた場合には裁判所から自宅に書類が届くことがあるため、家族に秘密にしている場合は注意が必要です。 3.特定調停 特定調停とは、簡易裁判所の調停委員が仲裁役となって債務者と各債権者との和解の成立を支援する手続です。任意整理では弁護士・司法書士といった専門家が債務者の代理人となって各債権者との和解交渉を行いますが、特定調停では必ずしも専門家に依頼する必要はなく、自分で裁判所を通じて貸金業者と話し合いをすることが可能です。 (1)特定調停の特徴 特定調停には以下のような特徴があります。 ① 費用が安く抑えられる 特定調停は、原則として、自分で手続を進めていく債務整理の方法です。つまり、弁護士や司法書士に依頼しなくても手続が可能なため、その分、借金整理のための費用を安く済ませることができます。 ③ 業者ごとに個別の依頼が可能 任意整理と同様、任意の債権者と交渉を行うことが可能なため、例えば住宅ローンの借入先や自動車のローンの債権者を対象から外して、住宅や自動車等の財産を維持することができます。 ④ 将来利息がカットされる この点も任意整理と同様に、原則として調停成立後の返済期間中の利息はカットされるため、完済までの見通しが立てやすいと言えます。ただし、後述するように調停委員の資質に左右されることもあるため、合意の内容が必ずしも債務者にとって有利なものにならない場合もあります。 ⑤ 任意整理に非協力的な債権者を交渉の場に立たせることができる 債権者が裁判所からの呼び出しに応じない場合は5万円以下の罰金刑に処せられるため、相手方が出頭せず交渉ができない状況を避けることが期待できます。 (3)特定調停をする際の注意点 特定調停をする際には以下のような点に注意する必要があります。 ① 信用情報機関への登録 信用情報機関に登録され、その後一定の期間(約5年程度)は、借入やクレジットカード契約ができなくなる。(いわゆる「ブラックリスト」に載ってしまう状態です。) ② 借金減額の効果は高くない 特定調停は、裁判所を通じた手続ではありますが、あくまで当事者間の合意をもとにした手続です。利息制限法に基づいて引き直し計算をした結果、減額または完済となる場合はありますが、そうでないような場合には、あまり減額を期待することはできません。なお、引き直し計算をした結果、過払い金が発生していたとしても、裁判所はその回収までは行ってはくれないため、特定調停とは別に過払い金を取り戻すための手続を行う必要があります。 ③ 債務名義がとられてしまう 特定調停が成立すると調停調書を作成しますが、これは債務名義という大きな力をもつものです。特定調停の後に、業者への支払いを怠った場合、業者は調停調書をもとに給料や不動産といった財産を差押えることができます。なお、任意整理の場合も、債権者との合意後に和解書という書面を作成しますが、これには債務名義と同じ効力はありません。 ④ 自分でやらなければならない分、負担が大きい 特定調停は、申立てを行う人が手続を進めていく方法です。申立書類を作成して裁判所に提出することや、期日に裁判所へ出頭するのも原則はすべてご自身でやらなければなりません。 ⑤ 必ずしも有利な内容で調停が成立するとは限らない 調停委員は債務整理が専門と言うわけではなく、内容によっては債務者に不利な調停内容になってしまうことも考えられます。さらには、特定調停は、あくまで話し合いをする場なので、相手との交渉が折り合わず、不調に終わる場合もあります。 4.自己破産 「自己破産」とは、現在持っている財産や今後得られる収入などから総合的に判断して、借金返済の見込みがないことなど(これを「支払不能」といいます)を裁判所に認めてもらい、養育費や税金など、一部を除いた借金の支払い義務を免除してもらう手続です。 自己破産は「破産手続」と「免責手続」に分かれており、通常これらは並行して進められます。破産手続では裁判所の関与のもとで債務者の財産を処分して得た金銭を債権者に公平に配当します。ここで、破産者の財産が借金の額よりも少なければ、配当しても支払いきれない部分がでてきますが、破産手続では、この支払いきれなかった部分については特に何もなされません。破産者の財産を処分しても支払いきれない借金の支払い義務については、免責手続という破産手続とは別個の手続のなかで免除してよいかどうかを判断することになります。 つまり、破産手続において財産を処分しても、なお支払いきれない借金については、免責手続において免責許可決定を受けることによって、はじめて支払義務を免除してもらえるということです。また、「破産手続」についても「管財事件」と「同時廃止事件」の2つに分かれます。破産手続の原則は「管財事件」であり、裁判所から選任された破産管財人が、破産者の財産や後述する免責不許可事由の有無などを調査したり、破産者の財産を管理・換価処分して、それによって得た金銭を各債権者に弁済または配当を行います。しかし、破産手続開始の時点ですでに破産手続の費用に充てるだけの財産が無いことが明らかな場合や、免責不許可事由が無いことが明らかな場合もあり、そのような場合にまで破産管財人を選任するのは無駄になります。そこで破産手続においては例外的手続として、破産管財人を選任せず、破産手続開始と同時に破産手続が廃止される「同時廃止事件」があります。同時廃止事件では破産管財人が選任されないため、管財手続の場合に比べて破産手続の期間が短く、また、費用も安く済みます。 (1)自己破産の特徴 ① 原則としてすべての債務の支払い義務を免除される 自己破産の最大のメリットは、原則としてすべての債務について法的な支払義務が免除されることです。後述するようなデメリットを伴うことにはなりますが、生活を立て直すうえで借金の返済義務を免れることは、経済的な面で非常に効果的です。 ただし、養育費や税金など免責されない債務もありますので、その点には注意が必要です。 (2)自己破産をする際の注意点 ① 信用情報機関への登録 信用情報機関に登録され、その後一定の期間(約5~10年程度)は、借入やクレジットカード契約ができなくなる。(いわゆる「ブラックリスト」に載ってしまう状態です。) ② すべての債務が対象となる 自己破産では、特定の借入先だけを選んで手続をすることはできません。そのため、保証人がついている借金がある場合には、保証人に対して一括請求されることになります。 ③ 住所と氏名が官報に掲載される 手続の段階に応じて官報に住所と氏名が掲載されます。ただし、一般の人が官報を目にする機会はあまり多くないため、官報に掲載されることで周りの人に自己破産の手続をしたことを知られる可能性は低いと思われます。 ④ 破産手続中は一定の資格制限がある 自己破産の手続が開始されると、警備員や保険外交員など一定の資格が制限されます。そのため、資格を利用しなければできない仕事を失ってしまうということになります。 ⑤ 一定の財産を処分しなければならない 一定以上の価値のある財産は金銭に換えて債権者に配当されることになるため、手放すことになります。ただし、裁判所で定める基準を超えない財産(20万円以下の預貯金など)や家具等の最低限の生活に欠くことができないと認められる財産については手元に残すことができます。 ⑥ 免責不許可事由がある場合、免責されない可能性がある ギャンブルによって多額の借金を作ったなど,不誠実な破産者であることを示す事情があるときには,免責されないことがあります。このように,免責が許可されなくなってしまう事情のことを免責不許可事由といい、例えば、以下のようなものがあります。 ・浪費やギャンブルによって多額の借金をしてしまった場合 ・財産を隠したり、壊したり、勝手に他人に贈与したりした場合 ・破産申立てをする前の1年間に、住所、氏名、年齢、年収等の経済的な信用に関わる情報について嘘をついた上で、お金を借りたり、クレジットカードで買物をしたりしたような場合 ・ローンやクレジットカードで商品を買った上で、その商品を非常に安い値段で売ってお金に替えた場合 ・過去7年以内に免責を受けたことがある場合 ・裁判所や破産管財人が行う調査に協力しなかった場合ただし、免責不許可事由に該当する行為があったとしても、その行為の悪質さの程度や、借金をした理由、現在の破産者の生活や収入の状況等のさまざまな事情を裁判官が総合的に考慮して、破産者の生活再建のために、例外的に免責を認める場合もあります。 ⑦ 高額な予納金の負担(管財事件の場合) 破産手続を申し立てる際には官報公告費用等のために10,000~15,000円の予納金が必要となりますが、管財事件として手続を進めることになる場合、裁判所から選任される破産管財人の報酬等に充てるため予納金を、別途、納めなければなりません。金額は個々の事案や裁判所にもよりますが、最低でも20万円は必要となることが多いです。 ⑧ 郵便物が転送される、転居・旅行などの制限がある(管財事件の場合) 管財事件となった場合、破産者あての郵便物は破産管財人あてに転送され、管財人のチェックを受けることになります。これは、隠している財産がないか、申告した債権者に漏れがないか、といったことを確認するためです。管財人が確認した後、破産手続に必要がないものについては返却されますが、その方法には、破産管財人の事務所に取りに行くことや、郵送での返却、申立代理人経由で返却される場合等があります。なお、郵送で返却を受ける場合には、再度転送されることを防ぐために「破産管財人からの郵便物のため転送不用」と朱筆されて郵送されますが、ご家族に破産手続中であることを秘密にしているような場合には、これによって秘密がばれてしまう可能性がありますので別の方法での返却を依頼する必要があります。 また、破産者は債権者に対して十分な説明義務を尽くす必要があることから、この義務の履行を確保するといった趣旨で、居住地を離れること(引っ越しだけでなく、仕事で宿泊を伴う出張に行くことや旅行など)について、管財人の同意や裁判所の許可を得る必要があります。 5.個人再生 個人再生とは、借金などの返済が困難になった場合に、すべての債権者に対する返済総額を少なくし、その少なくなった後の金額を原則3年間で分割して返済する再生計画を立て、債権者の意見を聞いたうえで裁判所が認めれば、その計画どおりの返済をすることによって、残りの借金の返済が免除されるという手続です。自己破産とは異なり、借金の支払いがすべて免除されるわけではありませんが、必ずしも財産を処分する必要はなく、また、住宅ローンが残っている自宅についても、住宅資金特別条項を利用して住宅ローンの返済を継続することで、自宅を手放さなくて済む点が特徴です。 個人再生の手続には、再生計画が認可される基準の違いから「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類があります。 5-1.小規模個人再生 小規模模個人再生とは、住宅ローン以外の借金の総額が5,000万円以下であり、継続して収入を得る見込みがある個人が利用できる手続です。小規模個人再生の場合には、原則として3年間で、(1)法律で定められた最低弁済額か(2)保有している財産の合計金額(清算価値)のいずれか多い方の金額を最低限返済していく必要があります。(1)の最低弁済額は、次の表にように算出します。
また、再生計画が裁判所に認められるためには、債権者の数の2分の1以上の反対がなく、かつ反対した債権者の債権額の合計が全債権額の2分の1を超えていないこと(債権者の消極的同意)が必要です。 5-2.給与所得者等再生 給与所得者等再生とは、小規模個人再生を利用できる人のうち、給与等の安定した収入があり、収入の変動幅が小さい人が利用できる手続です。給与所得者等再生の場合には、前述の(1)最低弁済額と(2)清算価値のほか、(3)可処分所得(収入から所得税などを控除し、さらに政令で定められた生活費を差し引いた金額)の2年分のうち、いずれか多い方の金額を最低限返済する必要があります。そのため、一般的には小規模個人再生の場合よりも返済額が高額になりますが、小規模個人再生で要求される債権者の消極的同意は必要ありません。ただし、過去7年以内に破産法に基づく免責決定を受けている場合には、給与所得者等再生の申立をすることはできません。(この場合でも小規模個人再生の申立をすることはできます) (1)個人再生の特徴 ① 債務の大幅な減額が可能 最低限の弁済額はありますが、任意整理と比べて大幅な減額が可能です。ただし、自己破産のように借金の支払い義務が免除となるわけではなく、減額された借金の返済を続けていくことが前提となるため、反復・継続して収入を得られる見込みがあることが必要です。 ② 財産を処分する必要がない 自動車ローンなどの担保がついている場合を除いて、基本的には財産を処分する必要がありません。(ただし、それにより最低限の弁済額が多くなる場合があります) ③ 住宅ローンが残っている自宅を保持できる 住宅ローンの残っている自宅不動産について、住宅資金特別条項を利用することができれば、住宅ローンだけはそのまま返済していくことで、自宅不動産を手放さなくて済むようになります。ただし、住宅ローンは減額の対象とはなっておらず、原則としてそれまで通りの支払いをしなければなりません。 ④ 破産における免責不許可事由があっても利用できる 浪費やギャンブルなどで借金を抱えた場合、破産手続では借金の免除が認められない可能性がありますが、個人再生の場合、再生計画を認めるうえで、基本的に借金の理由は問われません。 ⑤ 破産と異なり資格制限がない 破産手続では弁護士や税理士などの士業や警備員、生命保険募集人など一定の資格に制限がありますが、個人再生においてはそのような資格制限はありません。 (2)個人再生をする際の注意点 ① 信用情報機関への登録 信用情報機関に登録され、その後一定の期間(約5~10年程度)は、借入やクレジットカード契約が難しくなります。(いわゆる「ブラックリスト」に載ってしまう状態です。) ② すべての債務が対象となる 個人再生では、特定の借入先だけを選ぶことはできません。そのため、保証人が付いている借金がある場合には、保証人に対して一括請求されることになります。また、車やバイクなど住宅以外で担保がついているローンがあれば、手元に残すことができないこともあります。 ③ 住所と氏名が官報に掲載される 手続の段階に応じて官報に住所と氏名が掲載されます。ただし、一般の人が官報を目にする機会はあまり多くないため、官報に掲載されることで周りの人に個人再生の手続をしたことを知られる可能性は低いと思われます。 ④ 手続が複雑で時間がかかる 個人再生では、借金の大幅な減額が期待できる反面、その手続が複雑で、手間もかかるとされています。裁判所に提出する書類の収集や申立書の作成、再生計画案の作成など法的な知識や経験が求められることも多く、また、手続にも時間がかかるためその間のスケジュール管理もしっかりと行わなければなりません。 ⑤ 高額な予納金の負担(再生委員が選任された場合) 個人再生では、裁判所や案件によって、個人再生委員という監督者のような人が裁判所から選任される場合があり、その報酬等に充てるための予納金を裁判所に納めなければなりません。予納金の額は個々の案件や裁判所にもよりますが、一般的に15〜20万円とされることが多いです。 6.おわりに 主な債務整理の方法として上記の4つをお伝えしましたが、このほかにも、テレビやラジオのCMでよく耳にする「過払金返還請求」も、過払金を取り戻すことによって債務をなくしたり、ほかの債務の支払いに充てることなどができるようになりますので、債務整理の1つと考えることができますし、さらに、状況によっては「消滅時効の援用」や「相続放棄」・「限定承認」なども、債務整理の方法として利用することが可能です。 いずれの手続も一長一短があり、どの手続を選択すべきかは一人ひとりの事情によって異なります。最善の選択をするためには、やはり専門家のアドバイスを受けておくことが大切ではないかと思います。 森山司法書士事務所では、債務整理に関するご相談・ご依頼を承っています。 借金やローンの返済でお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。 |
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