2021/5/8

遺言の種類とその特徴、作成時の注意点

 
人が亡くなった後の財産は、遺言がなかったとしても、法定相続によって相続されますが、もし「法定相続人以外の人にも財産を残したい」「自宅を特定の相続人に相続させたい」「遺産分割がまとまらずに円滑な相続手続ができなくなるのを避けたい」など、特別な意思や想いがある場合には、遺言が有効です。
 
 
 
 
遺言の種類とその特徴、作成時の注意点
 
 
目次
1.遺言とは
2.遺言を作成することで得られる効果
3.遺言の種類
4.まとめ
 
 
 
1.遺言とは
 
 
遺言とは、自分の死後における財産の行方や家族の在り方を、法律で定められた方式に従って行う最終の意思表示です。
 
人は死亡すれば権利義務の帰属主体ではなくなるため、本来であれば、自分の死後に生じる法律関係に影響を及ぼすことはできないはずですが、遺言者の生前に認められる財産処分の自由や身分行為の自由などについて、遺言者の死後もなるべくその意思を尊重しようとしたものが遺言という制度です。しかし、遺言がその効力を生じるのは遺言者の死後であるため、遺言の内容が本当にその意思に基づくものなのかどうか、もはや本人に確認することはできません。そこで、遺言者の真意を確保するために、遺言には厳格な要式性が求められ、民法の定める要式を満たさなければ、法律上の効力が生じないこととされています。
 
 
 
2.遺言を作成することで得られる効果
 
 
(1)無用な相続トラブルの回避を期待できる
 
相続開始時に遺言書が残されておらず相続人が2人以上いる場合、相続人同士で遺産の分け方を決めるための話し合い(遺産分割協議)が必要です。協議がまとまる一方で、残念ながら意見が対立して協議がまとまらないケースも少なからずあります。自分の死後、相続人にどのように遺産分けをして欲しいかを遺言で明確にしておくことは、こうした遺産相続争いを防ぐために意義のあることだと思います。
 
 
(2)相続人が行う手続きの負担を軽減できる
 
遺言書がない場合には、そもそもどのような遺産があるのかが分からず、相続人が相続財産調査で苦労することが少なくありません。しかし、被相続人が生前に遺言書や財産目録を作成していれば、相続人は遺産に何があるのかをすぐに把握することができます。また、相続人が複数いる場合、遺言書を作って遺産の分け方を決めておき、そのとおりに相続人が遺産を引き継げば遺産分割協議が必要ありませんし、相続手続きのために集める書類が少なくて済む場合もあります。相続が開始すると相続人はさまざまな手続きで忙しくなるだけに、遺言書を作成しておくことで相続人の行う手続きの負担を軽減できる点は大きなメリットと言えます。
 
 
(3)財産を渡したい人に渡せる
 
遺言書を作成すれば誰にどれくらいの財産を渡すのかを自分で決めることができ、相続人以外の人に財産を渡すことや企業や慈善団体に寄付をすることも可能です。もし遺言書がなかった場合には、遺産は相続人が相続するため、それ以外の第三者は財産を受け取れません。遺言書を活用することで、例えば内縁の妻や、身の回りの世話をしてくれた息子の妻など相続人以外の人でも財産を渡すことができます。
 
 
 
3.遺言の種類
 
 
ひと言に「遺言書」と言ってもいくつかの種類があり、民法では、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言、危急時遺言、隔絶地遺言の5種類が定められています。
 
この中で、自筆証書・公正証書・秘密証書の3つは普通方式の遺言と言われ、通常はこちらの遺言が用いられます。ここでは、こちらの遺言を解説します。
 
なお、危急時遺言、隔絶地遺言は特別方式の遺言と言われており、死が差し迫り、普通方式の遺言をする余裕がない場合に用いられる遺言です。特別方式遺言はあくまで例外的な方式の遺言であり、法律で決められた一定の状況下で作成された場合のみ有効であり、また、特別方式遺言を残した場合でも、その後普通方式で遺言をできるようになったときから6ヶ月間生存すると、特別方式遺言は効力を生じません。
 
 
(1)自筆証書遺言
 
自筆証書遺言とは、遺言者が相続財産の目録以外の全文、作成日付および氏名を自書し、押印することによって作成する遺言のことです。
 
紙とペンさえあれば遺言書をいつでも作成できるので、3種類ある普通方式遺言の中で最も手軽に作成できます。また、証人を必要としないため、遺言の存在や内容をすべての第三者に秘密にしておくことができるという長所があります。
 
他方で、遺言書を自身で保管する場合は、紛失、改ざん、破棄、隠匿、未発見のリスクがあることや、方式の不備により無効となったり、表現が不適切で文言の解釈に争いが生じるおそれがあること、家庭裁判所での検認手続きが必要なことなどの短所があります。
 
この点に関して、令和2年7月10日から、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が始まりました。費用はかかるものの、法務局に遺言書を保管することで紛失、改ざん、破棄を防止することができ、申請時には自筆証書遺言の形式的な適合性の確認がなされるため、要式が整っていない無効な遺言作成を防止することができます。また、法務局に保管した自筆証書遺言書については検認の手続きも不要となります。ただし、遺言の内容が適正なものかどうかまでの確認はされないこと、遺言書の存在を知らせておかないと未発見のリスクがあることには注意が必要です。
 
 
 
自筆証書遺言の作成時に注意すべき点としては、遺言者が相続財産の目録以外の本文はもちろん、日付も自書されている必要がありますし、署名も自筆であることが必要です。したがって、自書する能力のない人は自筆証書遺言を利用することができません。押印については実印である必要はなく、認印でもよいとされています。また、自筆証書遺言は、自分の死後、相続人にしっかり読んでもらう必要があるわけですから、読みやすい字で、内容や表現を明確にし、相続財産について遺漏なく記載することが求められます。
 
なお、以前は財産目録を含め、全文自筆によるものとされていましたが、相続財産の目録については、自書の必要はなくなりました。相続財産の目録は登記簿謄本や通帳の写しでもかまいませんが、すべてのページに署名をして印鑑を押印する必要がありますし、目録の作成も適切に行う必要があります。
 
 
(2)秘密証書遺言
 
秘密証書遺言とは、遺言が存在すること自体は明らかにしつつ、その内容を秘密にしたい場合に使う遺言書です。
 
自分で遺言書を作成して封印した状態で公証役場に持ち込み、公証人が日付などを記載して遺言者および証人が署名・押印します。遺言書を自分で作成する点は自筆証書遺言と同じですが、自筆証書遺言と違って秘密証書遺言の場合は本文をパソコンなどで作成しても良く、自筆証書遺言のように自書する必要はありません(ただし、署名は自書する必要があります)。
 
秘密証書遺言には、遺言の内容を他者に秘密にできる、偽造や改ざんを防止できると言った長所があります。
 
他方、作成手続きには公証人が携わるものの、遺言の内容まで確認することはせず、遺言書の保管も行ってくれません。したがって、方式の不備により無効となる、表現が不適切で文言の解釈に争いが生じるおそれがある、遺言書の破棄、紛失、隠匿のリスクがあるといった短所があります。
 
秘密証書遺言作成時の注意点としては、法律上、遺言を自書する必要はないとはいえ、万が一、秘密証書遺言書としては不備があるという場合でも、自筆証書遺言書としては効果があると判断されれば、自筆証書遺言書として認めてもらえるケースがあるため、可能であれば、自書しておいたほうがよいでしょう。その際には、自筆証書遺言と同様、読みやすい字で、内容や表現を明確にし、相続財産について遺漏なく記載することが求められます。
 
 
(3)公正証書遺言
 
公正証書遺言とは、証人2人以上の立会いのもと、公証人が遺言者から遺言の内容を聞き取って作成する遺言書です。
 
公証人と事前に打ち合わせを行うなど手間はかかりますが、公証人が内容を含めて作成に携わりますので、方式違反による無効のおそれや文言の疑義の発生等を防止できること、自書の必要はなく、出張作成制度を利用すれば病院や家で寝たきりの人でも遺言書を作成できること、作成した公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、紛失や偽造のリスクがほとんどないこと、家庭裁判所での検認手続も不要なことが長所として挙げられます。
 
他方、公正証書作成には費用がかかること、遺言の存在および内容を証人に知られてしまうことなどの短所もあります。
 
作成時の注意点としては、あらかじめ遺言内容を整理しておくとともに、遺言者が持っている財産を明確にしておくことが望ましいでしょう。そうすることで、公正証書遺言の手続きにかかる時間を短くできます。また、公正証書遺言の方式で作成されたから、絶対に有効な遺言であるとは言い切れず、裁判で争われて遺言書が無効となるケースもあることにも留意しましょう。
 
 
 
4.まとめ
 
 
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれもそれぞれに特徴があり、一概にどれがいいとは言い切れません。遺言書を作成するにあたっては、方式だけでなく、その内容にも十分配慮をしなければ遺留分の問題が発生したり、遺言があることによって、却って相続人同士のトラブルを招いてしまうこともあります。遺言を作成するのであれば、ご自身の死後にその内容がきちんと実現されるよう、専門家と相談しながら作成することが望ましいでしょう。