2021/6/12

相続登記を放置しておくことのリスク

2022.06.04更新 
 
不動産の所有者の名義を変更する原因には売買や贈与など、いろいろなものがありますが、その中でも被相続人(死亡した人)が所有していた土地や家などの不動産の登記名義を相続人の名義に書き換えることを一般的に「相続登記」と言います。
 
本来、相続により不動産の所有者が変われば、速やかに登記に反映することが望ましいのですが、実際にはそうはならないケースも多数存在します。その理由には、従来、相続登記に義務はなく、登記をしなかったとしても罰則がなかったことや、費用を払ってまで登記をする必要性がないことなど、様々なものがあります
 
このようにして、長年にわたって相続登記がされずに放置されていることで、不動産登記簿を見ても所有者がただちに判明しない、または判明しても連絡がつかない土地が発生し、まちづくりのための公共事業や地震や豪雨などの災害からの復旧や民間の土地取引の妨げになるといった、いわゆる「所有者不明土地問題」が増加している大きな要因の一つであるとの指摘もされています。

 
 
 
 
 相続登記を放置しておくことのリスク
 
 
目次
1.相続登記の義務化
2.不動産の処分・活用に支障が出る
3.次の相続の発生による権利関係の複雑化
4.手続に必要な書類を集めるのに手間がかかる
5.知らない間に相続登記を入れられる
6.まとめ
 
 
 
1.相続登記の義務化
 
 
令和3年4月21日、「所有者不明土地問題」の発生防止や解消に向けて、相続登記を義務化する法案が参議院本会議で成立しました。この改正法は3年以内(※)に施行される予定となっており、相続登記の義務に違反した場合には10万円以下の過料に処せられる可能性があります。
 
追記:令和6年4月1日に施行されることが決定しています。
 
 
2.不動産の処分・活用に支障が出る
 
 
不動産登記は、原則として、その権利変動の過程を忠実に公示することも目的としているため、相続した不動産を売却したり、担保に入れて借入をしようとしたときに、被相続人名義のままではこれらのことはできず、一度相続人名義にする必要があります。売却や借入といった取引を行う時点で併せて相続登記をすればいいと考えられる方もいますが、取引の直前になってすぐに相続登記ができるとは限りません。必要なタイミングで確実に取引ができるよう余裕をもって準備をしておくことが望ましいと言えます。
 
 
 
3.次の相続の発生による権利関係の複雑化
 
 
相続登記をしないまま当初の相続人が亡くなり新たな相続が発生すると、当初の相続人から権利を承継した相続人の協力が必要となります。もし、何世代にもわたって相続が発生したにもかかわらず、相続登記をしていなかったとすると、その分、協力してもらわなければならない相続人の数も多くなり、また、相続人同士の人間関係も薄れていくことから、話し合いで合意をもらうことが困難になることも考えられます。さらに、もしも相続人の中に所在や行方が分からない人がいる場合には、その相続人に代わって話し合いに参加する者を選任するための手続が別途必要になるため、より手間と費用がかかってしまいます。
 
 
 
4.手続に必要な書類を集めるのに手間がかかる
 
 
相続登記を申請するときには、相続があったことなどを証明するために戸籍などの公的書類を集める必要があります。ところが、各公的書類には保存期間が定められているため、長年放置していると、いざ手続をするときに、必要な書類が廃棄されていることもあり得ます。役所によっては保存期間が過ぎても多少の間であれば廃棄せずに保存している場合もありますが、いずれにしても時間が経つにつれて必要書類を取得できないリスクが高まります。
 
もちろん、戸籍等の公的書類が廃棄されてしまったからといって相続登記ができないわけではありませんが、代わりに特殊な書類を用意することになるため非常に手間がかかります。
 
 
 
 
5.知らない間に相続登記を入れられる
 
 
相続人が複数いる場合、遺産分割を放置することによって、不動産を勝手に共有名義で登記されてしまうおそれがあります。遺産分割協議が終わらない間でも、あるいは終わっていても協議に従った登記をするまでは、法定相続人のうちの一人から、法定相続分に基づいた相続登記を申請することができます。この場合に他の相続人の協力などは不要です。
 
また、相続人の一人が借金や税金などを滞納しているような場合に、その債権者が、差し押さえの登記をするためにその前提として、法定相続分による相続登記を代位して申請することもあります(この登記は「(債権者)代位による登記」と呼ばれています)。代位により法定相続分による相続登記が申請された後、債務者たる相続人の持分に対して差し押さえの登記がされます。
 
そして、もし相続人の一人が勝手に法定相続分での登記を済ませた後にその持分を売却したり、差押えを受けている持分が競売等により第三者へ移った場合、たとえ遺産分割協議によって特定の誰かが取得することになっていたとしても、事情を知らない買主や第三者に対してそのことを主張することはできません。
 
 
 
6.まとめ
 
 
たしかに相続登記をしていないからといって、ただちに困るようなことはほとんどありませんので、費用を払ってまで相続登記をするかどうかはとても悩ましい問題です。ですが、相続登記が義務化されることや、手続を放置しておくことが、いずれ自分や自分より後の世代にとって大きな負担になり得ることを考えると、相続が発生した場合にはできる限り早めに相続登記をしておくことが望ましいと言えます。
 
なお、登記の手続を本人ができることは当然ですが、その手続は非常に手間がかかることも少なくありません。典型的な相続であれば、インターネットや書籍等で調べたり、法務局や専門家に相談しながら自分で行うことも十分可能です。とはいえ、手続のための時間を取れない場合や、相続の権利関係が複雑な場合など、自分で手続を行うには少し負担が大きいと感じることもあるでしょう。そのような場合には、代理申請として土地家屋調査士や司法書士などの資格者代理人に依頼することも1つの方法です。土地家屋調査士は、不動産の「物理的現況」についての登記を、司法書士は、不動産の「権利関係」についての登記を、他人からの依頼を受けて行うことができます。 
 
 
 

 
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