2021/8/6

亡くなった順番が分からない場合~同時死亡の推定~

 
 
交通事故や火災などの事故や災害に遭遇して複数の親族が亡くなってしまった場合、それぞれがどんな順番で亡くなったかによって相続人の範囲が変わってきます。しかし、このような事故や災害では、その死亡時期の前後を立証することは非常に難しいものです。そこで、民法では「同時死亡の推定」という規定を定めています。  
 
 
 
 
 
亡くなった順番が分からない場合~同時死亡の推定~
 
 
目次
1.同時死亡の推定とは
2.同時死亡の推定が認められるための要件
3.同時死亡の推定を受けた場合の相続への影響
4.生存・異時死亡による反証
 
 
 
1.同時死亡の推定とは
 
 
同時死亡の推定とは、複数の人が何らかの原因で死亡し、これらの人の死亡時期の前後が不明な場合に、法律によりこれらの者が同時に死亡したものと推定することです。
 
 
民法第32条の2(同時死亡の推定)

数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
 
 
例えば、Aとその子であるBが何らかの危難に遭って死亡し、その遺族がAの配偶者CとAの親Dである場合のAとBの相続について考えてみます。もし、Aが先に死亡した場合、その相続人はCとBとなり、その後に死亡したBの相続人がCとなるため、結果としてAとBの相続人はCのみとなります。ここで、先に死亡したのがBである場合、Cの相続人はAとCとなり、その後に死亡したAの相続人はCとDとなるため、結果としてAとBの相続人はCとDになります。
 
このように、両者の死亡の順番によって相続関係は大きく変わりますが、例えば、大規模な危難によって複数の人が死亡した場合の死亡の前後を証明することは困難となることが多く、問題を生じさせていました。そこで定められたのがこの制度です。
 
 
 
2.同時死亡の推定が認められるための要件
 
 
死亡した複数の人(失踪宣告を受けた者や認定死亡とされた者を含む)の間の死亡時期の前後が不明で確定できない場合には適用があり、必ずしも同一の原因による死亡であることは要件とされていません。
 
異なる場所で、別々の原因で死亡したがその死亡日時の先後がはっきりしない場合や、片方の死亡日時は確定しているが他方の死亡日時がはっきりしないため両者の死亡の前後関係が不明であるような場合でも、同時に死亡したものと推定されます。
 
 
 
3.同時死亡の推定を受けた場合の相続への影響
 
 
同時死亡の推定により、その相続の場面では次のような効果が生じます。
 
①同時死亡の推定を受けた者の相互間においては相続を生じません。
 
②遺言による遺贈の場面において、遺贈者と受遺者が同時に死亡したと推定される場合には遺贈は効力を生じません。
 
③生命保険において、保険契約者と受取人が同時に死亡したと推定される場合には受取人の保険金請求権は発生しません。
 
 
 
4.生存・異時死亡による反証
 
 
同時死亡の推定は、あくまで「推定」にすぎませんので、生存または同時に死亡したとされた時期と異なる時期に死亡したこと(異時死亡)を反証として挙げることにより、その法的効果を覆すことが可能です。ただし、この場合の反証はよほど明確な反証でなければならないとされています。
 
同時死亡の推定が覆され、死亡の前後が明確になった場合、すでに同時死亡の推定を前提に相続手続が済んでいたときには、真の相続人は、相続回復請求をすることができます。また、保険金や損害賠償が支払われていたときには、真の権利者が受け取るものを不当に取得したことになりますので、給付を受けた人は、不当利得返還請求を受けることになります。