2021/8/25

法務局が遺言書を預かってくれる!自筆証書遺言書保管制度ってどんなもの?

 
「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)という法律が成立し、令和2年7月10日から自筆証書遺言を法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所)で保管してもらうことができるようになりました。
 
従来、自筆証書遺言は遺言者が自宅などで保管するのが一般的でしたが、紛失や隠匿・偽造、未発見のおそれがあるなどの問題点が指摘されていました。自筆証書遺言書保管制度によりこれらの問題点を改善する効果が期待されています。
  
 
 
 
法務局が遺言書を預かってくれる!自筆証書遺言書保管制度ってどんなもの?
 
 
 
目次
1.自筆証書遺言とは
2.自筆証書遺言の問題点
3.自筆証書遺言書保管制度の特徴
4.自筆証書遺言書保管制度の留意点
5.自筆証書遺言書の保管を申請する際の手続 
6.保管申請の撤回
7.相続人等ができること
8.おわりに
 
 
1.自筆証書遺言とは
 
 
自筆証書遺言とは、遺言者が紙とペンを使い自筆で遺言書を作成し、押印することによって作成する方法です。原則として全文を自書しなければなりませんが、財産の内容を示す「財産目録」については、パソコンで作成することが認められています。
 
遺言の方式には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言という3つの普通方式と危急時遺言と隔絶地遺言という2つの特別方式がありますが、自筆証書遺言書保管制度による保管の申請の対象となるのは、その言葉どおり、自筆証書遺言書のみです。
 
 
 
2.自筆証書遺言の問題点
 
 
自筆証書遺言は、遺言の中で最も手軽に利用できる方式ですが、以下の問題点があります。
 
 
(1)遺言書を紛失する可能性がある
 
自筆証書遺言を作成した場合、従来は遺言者やその家族が保管する以外に方法がありませんでした。そのため、自宅や貸金庫などで保管した場合に、紛失したり、あるいは相続人が発見できない可能性があります。
 
 
(2)遺言書が廃棄・隠匿・改ざんされる可能性がある
 
従来の自筆証書遺言は、自宅などに保管しておくため、改ざん・偽造の恐れが避けられません。また、自分に不利な内容となっている相続人が発見した場合に廃棄される可能性も否定できません。
 
 
(3)要件不備により無効となるおそれがある
 
自筆証書遺言には、厳格な要式性が求められており、民法の定める要式を満たしていない場合、遺言が無効となってしまいます。
 
 
 
3.自筆証書遺言書保管制度の特徴
 
 
上記の自筆証書遺言の問題点を改善する狙いで2020年7月10日より運用が開始されたので、法務局での「自筆証書遺言書保管制度」ですが、この制度には次のような特徴があります。
 
 
(1)遺言書の紛失・廃棄・隠匿・改ざんを防げる
 
自筆証書遺言書保管制度を利用すると、遺言書保管所の管理下で自筆証書遺言書の原本が保管されるため、遺言書を紛失したり、相続人などによって遺言書が廃棄・隠匿・改ざんされたりするリスクがなくなります。
 
 
(2)遺言の形式的な要件を満たしているかどうかチェックしてくれる
 
 
自筆証書遺言書保管制度を通じて、遺言書保管所で自筆証書遺言書を預かる際には、民法で定められている自筆証書遺言の形式的な要件を満たしているかどうかがチェックされるため、自筆証書遺言が形式不備によって無効となるリスクを回避できます
 
 
(3)家庭裁判所での検認が不要
 
自筆証書遺言を不動産の名義変更(相続登記)や金融機関での相続手続において利用する場合、家庭裁判所で「検認」の手続を受けなければなりません。しかし、自筆証書遺言保管制度によって遺言書保管所に保管されている自筆証書遺言については、検認を受ける必要がありません。そのため、自筆証書遺言保管制度を利用すれば、検認手続にかかる時間と費用を節約できます。
 
 
(4)遺言書が保管されている旨が相続人に通知される
 
自筆証書遺言保管制度を利用して、遺言書保管所に自筆証書遺言を保管してもらったとしても、そのことを相続人が知らなければ、遺言の内容に沿った相続手続を行うことができません。そこで、自筆証書遺言保管制度を利用する場合には、一定の場合に遺言書保管所から相続人などに対して、自筆証書遺言が保管されている旨の通知が行われます。
 
この通知には,「関係遺言書保管通知」と「死亡時通知」の2種類があります。
 
 
① 関係遺言書保管通知
遺言者の死亡後、関係相続人等(相続人、受遺者、遺言執行者等)が遺言書を閲覧したとき及び後述する「遺言書情報証明書」の交付を受けたときに、その他の全ての関係相続人等に対して通知が行われます。
 
 
② 死亡時通知
あらかじめ遺言者が希望した場合において、遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認したときに、遺言者が指定した1名に対して通知が行われます。
 
このように、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、遺言書の存在が知られることなく相続手続が行われてしまう事態を回避できます。
 
 
 
4.自筆証書遺言書保管制度の留意点
 
 
自筆証書遺言書保管制度は、従来の自筆証書遺言の問題点を解消するうえで、有用な制度ですが、その一方で以下の点に留意しなければなりません。
 
 
(1)遺言書の内容はチェックしてくれない
 
遺言書保管所では、自筆証書遺言の形式的な要件はチェックしてくれるものの、遺言の内容についてはチェックしてくれません。もし、遺言書の内容に問題がある場合、遺言書どおりの相続が実現されないおそれがあります。
 
 
(2)保管の申請は本人が遺言書保管所で行う必要がある
 
自筆証書遺言書保管制度を利用する場合、必ず本人が遺言書保管所に行って手続をしなければならず、郵送や代理ではできません。病気などで行くことができない場合は利用することは困難です。
 
 
 
5.自筆証書遺言書の保管を申請する際の手続


自筆証書遺言書の保管を申請する際の手続の流れは、以下のとおりです。
 
 
(1)自筆証書遺言書の作成
 
あらかじめ自筆証書遺言書を作成したうえで、遺言書保管所に持参する必要があります。遺言書を作成する際には、用紙のサイズや余白の指定、日付の記載や署名・押印など細かい決まりがあるため注意が必要です。
 
 
(2)保管の申請を行う遺言書保管所の決定
 
自筆証書遺言書保管制度の利用を申請できるのは、①遺言者の住所地②遺言者の本籍地③遺言者の所有する不動産の所在地のいずれかを管轄とする遺言書保管所です。基本的には法務局で遺言書保管手続を行っていますが、法務局であればどこでも利用できるわけではないため、事前に法務省ホームページなどで確認しておきましょう。
 
 
(3)遺言書の保管申請書の作成と事前予約
 
保管申請書(申請書の様式は、法務省ホームページからダウンロード可能)に必要事項を記入し、遺言書保管所に申請の予約をします。予約は専用のホームページや予約を取りたい遺言書保管所への電話または窓口で行うことができます。
 
 
(4)保管の申請
 
予約した日時に遺言書保管所へ行って保管の申請をします。保管申請の際に必要な書類は主に以下のとおりです。
 
① 遺言書(ホチキス止めや封入は不要)
 
② 保管申請書
 
③ 住民票の写し等(3カ月以内に発行されたもの)
※ 本籍及び筆頭者の記載があり、マイナンバーや住民票コードの記載がないもの
 
④ 遺言書の日本語による翻訳文(遺言書を外国語で作成した場合)
 
⑤ 顔写真付きの官公署から発行された本人確認資料(運転免許証、マイナンバーカード等)
 
⑥ 手数料(遺言書1通につき、3,900円)
 
 
(5)保管証を受け取る
 
保管申請の手続が終了すると、遺言書保管所から、遺言者の氏名・出生年月日・遺言書保管所の名称・保管番号が記載された保管証が交付されます。保管証は再発行ができませんので、紛失しないように大切に保管しておきましょう。
 
 
 
6.保管申請の撤回
 
 
保管申請を行った遺言書保管所に対し、「撤回書」を提出することにより、撤回をすることができます。ただし、撤回をする際にも、事前に予約をしたうえで、遺言者本人が遺言書保管所へ行く必要があります。
 
 
 
7.相続人等ができること
 
 
自筆証書遺言書保管制度によって、遺言書保管所に自筆証書遺言が保管されている場合、相続人・受遺者・遺言執行者等は、遺言書保管所に対して主に次の3つのことができます。
ただし、いずれの請求についても、遺言者が亡くなった後でなければ行うことができません。
 
 
(1)「遺言書保管事実証明書」の交付の請求
 
この証明書を請求することにより、自分を相続人や受遺者等・遺言執行者等とする遺言書が遺言書保管所へ預けられているかどうかを確認することができます。
 
 
(2)「遺言書情報証明書」の交付の請求
 
この証明書は,遺言書の画像情報が全て印刷されており,遺言書の内容を確認することができます。
 
 
(3)遺言書の閲覧の請求
 
遺言書の内容を確認するため,遺言書保管所に対して,遺言書の閲覧の請求をすることができます。閲覧には,遺言書の原本を見る方法とモニターにより遺言書の画像等を見る方法の2つの方法があります。
 
原本の閲覧は,原本を保管している遺言書保管所でしかできませんが,モニターによる閲覧は全国どこの遺言書保管所でも手続が可能です。
 
 
 
8.おわりに
 
 
自筆証書遺言書保管制度は、遺言書の紛失・改ざん等によるトラブルの防止や家庭裁判所での検認が不要である点など、円滑な相続手続を図るうえで、従来の自筆証書遺言に比べて有用な制度です。
 
しかし、遺言の内容が適切なものか、適正であるかといった点についてはチェックを受けられないなど注意点もあります。
 
遺言を確実に残すためにも、自筆証書遺言書保管制度を活用する前に、遺言の内容について専門家に相談することを検討してはいかがでしょうか。
 
 
 

 
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