2021/9/28
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不動産登記の対抗力~第三者の範囲ってどこまでなの?~ |
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民法177条によると、不動産物権変動は、登記がないとこれを「第三者」に対抗(主張)することができません。 しかし、これを反対に解釈すると、不動産物権変動があっても、ある人が民法177条にいう「第三者」に該当しないのであれば、登記がなくても不動産物権変動を対抗できる、つまり、登記を備える必要がないということになります。 そこで、この「第三者」とはどのような人を指すのかが問題となります。 不動産登記の対抗力~第三者の範囲ってどこまでなの?~
1.第三者の範囲 「第三者」を文字どおりに解釈すれば、当事者およびその包括承継人(相続人など)以外のすべての者を指し、かつての判例はこの考え方を採っていました。つまり、登記をしていないと他の誰に対してもその権利を対抗できないとしていたわけです。 しかし、例えば自己の所有する未登記の不動産を不法に占拠する者がいた場合に、そのような者に対しても登記がなければ自己の所有権を対抗することができないとすると、不合理な結果が生じてしまうことになります。 そこで、現在の通説・判例では、「当事者およびその包括承継人(相続人など)以外の者で、不動産物権変動の登記の欠缺(けんけつ)を主張する正当な利益を有する者」を民法177条の第三者として、その範囲を限定しています。 ※登記の欠缺・・・すべき登記がされていないこと 2.登記がなくても権利を対抗できる第三者の例 当事者およびその包括承継人以外の者で、不動産物権変動の登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者に対しては登記なくして権利を対抗することができませんが、以下に該当する者に対しては登記がなくても権利を対抗することができます。 (1)不法行為者、不法占拠者 不動産を不法に占拠している者に対しては、その人たちを保護する必要がないので、登記がなくても自己の権利を対抗することができます。 (2)無権利者 無権利者(例えば勝手に虚偽の登記などをした者)や権利者からの譲受人に対しては、登記がなくても自己の権利を対抗することができます。 (3)詐欺又は強迫によって登記を妨げた者 不動産登記法5条1項は、詐欺、強迫によって登記の申請を妨げた者について、民法177条の適用がないと定めています。つまり、これらの者に対しては、登記がなくても自己の権利を対抗することができます。 形式的には先に登記を得ているものの、実質的には、自身の不当な行為でその登記を得ることができたというようなケースが該当します。 (4)他人のために登記を申請する義務を負う者 不動産登記法5条2項は、他人のために登記を申請する義務を負う者について、民法177条の適用がないと定めており、これらの者に対しては、登記がなくても自己の権利を対抗することができます。 例えば、登記申請の依頼を受けた司法書士や、未成年者の代理人として登記申請を行う立場にある親権者などが該当します。 (5)背信的悪意者 背信的悪意者とは、ある不動産についての物権変動の事実を知っている者(悪意者)が、悪意に加えて権利者を害することを意図しているような者をいい、背信的悪意者は保護するに値しないとして、これに対しては、登記がなくとも自己の権利を対抗することができます。 法律用語には「善意」と「悪意」という言葉がありますが、これらはそれぞれ、ある事実について「知らなかった」「知っていた」ということを意味します。 例えば、Aが自らが所有する土地をBに売り、その後、未だ登記名義がAであったため、さらにCにも売ったというような二重譲渡の場合で、AとBの取引の事実をCが「知っていた」場合、Cは「悪意者」となりますが、原則として二重譲渡においては、第三者が「善意」「悪意」であるかを問わず、登記なくして自己の権利を対抗することはできません。 しかし、これが「背信的悪意者」となれば事情が変わってきます。 つまり、上記の例でCが、AB間の売買を知っていたとしても、単純にAの土地が欲しいという動機でAから買った、というだけであれば、Cは単なる「悪意者」として、C名義の登記を備えることでAに対して自己の所有権を対抗できる可能性がありますが、Cが、AB間の売買を知りながら、それでもAから買ったことについて、Bに対する嫌がらせの目的があるなどの「背信的悪意者」に該当すれば、たとえ先にC名義の登記を備えたとしてもAに対してはその所有権を対抗できないことになります。 余談ですが、ここで理論的には第1売買の時点で売主Aは所有権を失っているので、第2売買の買主Cが権利を得ることはないのではないか、という疑問を持たれる方がいるかもしれません。 これについては、不完全物権変動説(意思表示のみによって当事者間でも第三者に対する関係でも、物権変動の効力を生ずるが、登記を備えないかぎり完全には排他性のある効果を生ぜず、Aも完全には無権利者とならないから、Aがさらに二重譲渡することが可能である)などいろいろな学説がありますが、いずれにしても対抗関係のルールとして先に登記を得たほうが権利を取得するという結論に変わりはありません。 |
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