2022/1/15

遺産分割協議はいつの時点の遺産を対象とすればよい?

被相続人の相続が開始すると、遺言がない場合、法定相続人全員の遺産分割協議によってその遺産の配分を決めることになります。

ここで、被相続人が亡くなった後、直ちに遺産分割協議が成立することは通常では考えにくく、数か月から場合によっては数年の期間を要する場合もあります。その間、遺産の形状や価値が相続開始時のまま少しも変化がないということは珍しく、むしろ遺産の価値は増減し、時には何らかの理由で無くなってしまうこともあることでしょう。

そのような点を踏まえ、遺産分割の対象とする財産は、いつの時点を基準として確定させ、評価するのかという問題があります。

 
 
 
遺産分割協議はいつの時点の遺産を対象とすればよい? 
 
 
 
目次
1.相続開始時の財産と遺産分割時の財産が必ずしも同じ状態とは限らない
2.相続開始時と遺産分割時のどちらの時点を基準として遺産を確定させるか
3.遺産分割の対象となる財産の価額はいつの時点で評価するか
 
 
 
1.相続開始時の財産と遺産分割時の財産が必ずしも同じ状態とは限らない
 
 
被相続人に相続が開始しても、遺産分割協議を行うまでには相続人が誰なのか、遺産にはどのようなものがあるのかといったことを調べる必要があり、それらが終わってようやく遺産分割を行うことができるようになります。
 
また、遺産分割においては時として相続人同士で争いが起こり、調停や審判、訴訟といった裁判所の関与を求めることもあります。
 
このように、相続が開始してから遺産分割協議が成立するまでには、どうしても時間がかかることが通常です。この間、相続が開始した時の遺産は、通常であればその価値は増減し、場合によっては火災などで滅失したり、相続人によって処分されたりすることがあるかもしれず、全く変化しないで存在し続けることはむしろ稀なことだと思われます。
 
 
 
2.相続開始時と遺産分割時のどちらの時点を基準として遺産を確定させるか
 
 
上記のとおり、相続が開始した時の遺産が、遺産分割の時に必ずしも存在するとは限りません。そこで、遺産分割の対象とする財産は、いつの時点を基準とするか、つまり相続が開始した時に存在していた財産を対象とするか、それとも遺産分割の時に現存する遺産のみを対象とするか、という問題があります。
 
この点につき、家庭裁判所の審判では「相続開始当時存在した遺産たる物件であっても、遺産分割の審判時に現在しないものは分割審判の対象とすることはできない」として遺産分割時説が採用されています。
 
審判や調停によらない遺産分割協議の場合に上記のいずれの説を採用するかは、相続人全員の意思によることになると思われますが、もし、遺産分割協議が成立しない場合は調停や審判によることや、また、一般的に遺産分割の時に存在しない財産を取得することにあまり意味はないため、遺産分割時説に従うほうが遺産分割協議を円滑に進めることができるものと考えられます。
 
 
 
3.遺産分割の対象となる財産の価額はいつの時点で評価するか
 
 
では、遺産分割の対象とする財産をいつの時点を基準にするかが決まったとして、次にその遺産の評価は、いつの時点を基準にして決めればよいでしょうか。
 
この点についても、相続開始時説と遺産分割時説の考えで分かれていますが、裁判例は「遺産分割のための相続財産評価は分割の時を標準としてなされるべきものである」(札幌高決昭和39.11.21)、「遺産の分割は、共同相続人が相続に因りその共有に帰した相続財産を、その後分割の時点において、相続分に応じこれを分割するのを建前としているのであるから、相続財産の評価は相続開始時の価額ではなく、分割当時のそれによるべきものと解するのが相当である」(福岡高決昭和40.5.6)として、多くが遺産分割時説を採用しています。
 
遺産分割協議においては、遺産の確定時期と同じように、相続人全員の意思によっていずれの説を採用することも可能ですが、相続開始時の評価で遺産分割をした場合に、遺産分割時の評価がかなり減少している財産を取得した相続人にとっては不満が残ることも考えられますので、遺産分割時説を採用したほうが無難であると思われます。