2022/2/5

【令和4年度税制改正対応】住宅用家屋証明書

2022年3月31日更新
 
個人の良質な持家の取得を促進し、もって国民の居住水準の向上を図るという住宅政策上から、一定の要件を充たす住宅に対して、登録免許税の軽減措置が受けられるように設けられた住宅用家屋証明という制度があります。
 
新築住宅の所有権保存登記や中古住宅の売買による所有権移転登記、あるいはこれらの住宅を取得する目的で行う住宅ローンを担保するための抵当権設定登記の際に、その建物が住宅用家屋証明の適用対象である場合には、登録免許税が通常の税率よりも軽減されます。
 
 
 
 
 
【令和4年度税制改正対応】住宅用家屋証明書について
  
 
目次
1.登録免許税の税率の軽減
2.適用を受けることができる者
3.適用を受けるための要件
4.登記申請上の問題
5.長期優良住宅に関する特例
6.認定低炭素住宅に関する特例
7.まとめ

 
 
1.登録免許税の税率の軽減
 
 
住宅用家屋証明の法的根拠は、租税特別措置法という法律です。租税特別措置法は一定の有効期間が設けられた、いわゆる「時限立法」ですが、有効期間が満了する直前の国会で法改正され延長されることが通例となっています。おそらく今後、当面の間はこの制度がなくなることはないものと考えられます。
 
住宅用家屋証明書により、以下のとおり登録免許税の軽減を受けることができます。
 
登記の目的
通常(本則)
軽減税率
所有権保存登記
1000分の4
1000分の1.5
所有権移転登記
1000分の20
1000分の3
抵当権設定登記
1000分の4
1000分の1
 
特に中古住宅の売買で融資を受ける場合、所有権の移転や抵当権の設定にかかる登録免許税の軽減により得られる経済的利益は非常に大きいと言えます。もちろん、新築住宅で融資を受ける場合においても大きな経済的利益を得られますので、これらの登記が必要である場合は住宅用家屋証明の取得を検討したほうが良いでしょう。
 
 
 
2.適用を受けることができる者
 
 
 
①個人に限ります。法人は適用が受けられません。
 
②外国人であっても適用可能です。
 
③単独所有に限りませんので、共有の場合にも共有者全員が適用を受けられます。但し、共有者の内の一部に要件(後掲(4)「居住の用の要件」参照)を充たしていない方がいる場合には、その方の持分相当については通常の税率が適用されます。
 
 
 
3.適用を受けるための要件
 
 
(1)自己居住用建物であること
 
自己居住用建物であるかどうかについては、登記記録上の「種類」で判断されます。以下、登記記録上の「種類」について、ケースごとにご説明します。
 
① 専用住宅の場合
登記記録上の「種類」は、原則として「居宅」であることが必要です。住宅用家屋証明は建物所有者自身が居住する目的の建物に適用されるものですので、賃貸目的である「共同住宅」には、適用がありません。
 
なお、登記記録上の「種類」が、「居宅・車庫」あるいは「居宅・物置」等の場合、車庫や物置は居住の目的で住宅に付随して使用される建物であるために専用住宅として扱われ、建物全体について適用が受けられます。
 
② 併用住宅の場合
併用住宅とは、居住を目的とした居住部分と、店舗や事務所・賃貸住宅などとして使用する収益を得るための事業部分とが合わさり、一つの建物となっている住宅のことです。居住部分と事業部分は区分されており、それぞれ独立して利用することができます。なお、住宅部分と店舗部分において、必ずしも行き来できるかどうかは問われません。このような併用住宅として、登記記録上の「種類」が、「居宅・店舗」「居宅・事務所」等となっており、建物全体として住宅の効用を果たしていると評価できない場合については、居宅部分の床面積が総床面積の90%以上(居宅部分以外の床面積が10%未満)であれば、建物全体について適用が受けられます。
 
床面積の内訳は、原則として建築確認書を参考に市町村が判断することとなりますが、表題登記を担当した土地家屋調査士が作成した「床面積の内訳を証する書面」を提出することが実務上の通例です。
 
なお、居宅部分以外の床面積が10%以上である場合には、建物全体について適用が受けられないのであり、居宅部分に限って適用が受けられるわけではありませんので、ご注意ください。
 
③ 附属建物がある場合
附属建物の「種類」が、「居宅」「物置」「車庫」等、主たる建物と一体となって住宅の効用を果たすものの場合、附属建物を合わせて建物全体で適用が受けられます。
 
附属建物の「種類」が、「事務所」「店舗」等の場合、附属建物の床面積が主たる建物の床面積との合計面積の10%未満であれば、附属建物を合わせて建物全体で適用が受けられます。10%を超える場合、主たる建物についても適用が受けられないのは、併用住宅の場合と同様です。
 
 
(2)居住の用に供していること建物であること
 
居住の用に供せられる建物であるかどうかについては、住宅用家屋証明の申請者が、申請しようとする建物に入居済みであることを要します。
 
そして、入居済みか否かの判断は、住民票によって行われることが実務上の慣行です。このため、中古住宅の売買の場合等で住宅用家屋証明書を取得する場合には、不動産の取引に先立って、買主が購入物件所在地へ住民票を異動することが必要となります。
 
なお、この点につき市町村の取り扱いでは「現実に住み始めていない場合には転居届は受け付けない」とするのが一般ですので、本来であれば決済前に住民票の移動をすることはできませんが、そうすると住宅用家屋証明の適用が受けられないという事態が生じるため、便宜、転居届の窓口で「既に引っ越した」等と申告してもらっているのが現実です(単身赴任といったやむを得ない事情がある場合には、例外的に受理されるケースもあるようです)。
 
 
(3)建物の構造・床面積の要件
 
建物そのものの「構造」や「床面積」による制限もあります。これらの点も登記記録上から判断されます。
 
① 構造
戸建住宅の場合、構造(主たる部分の構成材料、屋根の種類、階数等)による制限はありません。
 
区分建物(マンション等)の場合、下記のいずれかの場合に限って適用が受けられます。
 
ⅰ)耐火建築物(建築基準法2条9号の2)
 
ⅱ)簡易耐火建築物(建築基準法2条9号の3)
 
ⅲ)低層集合住宅・・・面積1000㎡以上の一団の土地に集合的に建築された地上階数3以下の1棟の建物で、建築基準法2条9号の3に規定する耐火建築物に準ずる耐火性能を有するものとして国土交通大臣の定める基準に適合するもの
 
② 床面積
床面積は50㎡以上であることを要します。ワンルームマンション等の場合、この下限制限に抵触するために適用が受けられないケースもあるので、ご注意ください。
 
なお、かつては上限200㎡という要件もありましたが、現在は撤廃されていますので、どれだけ大きい建物でも適用が受けられます。
 
 
(4)中古住宅の築年数の要件
 
登記記録上の「構造」が、「木造」「軽量鉄骨造」等、耐火(準耐火)建築物以外の建物は、建築後20年以内、それ以外の耐火(準耐火)建築物(登記記録上の「構造」が、「鉄骨造」「鉄筋コンクリート造」等)の場合は、建築後25年以内であることを要します。
 
中古住宅の取得日を基準として、登記記録上の新築日が20年または25年以内であるか否かで判断することになります。
 
令和4年度の税制改正により、中古住宅の築年数要件を廃止するとともに、新基準に適合している住宅用家屋であることが要件に加えられました。ただし、登記上の建築日付が昭和57年1月1日以降の家屋については、新耐震基準に適合している住宅用家屋とみなすこととされているため、昭和57年1月1日以降に建築された建物については「耐震基準適合証明書」がなくても住宅用家屋証明書の発行を受けることができます。
 
上記の20年または25年が経過している建物であっても、建築士等が「耐震基準適合証明書」を発行している建物であれば、適用が受けられます。
 
令和4年度の税制改正により、昭和57年1月1日以降に建築された建物については、「耐震基準適合証明書は不要ですが、それ以前に建築された建物については、耐震基準適合証明書が必要になるものと思われます。
 
 
(5)登記を申請する時期
 
登記を申請する時期によっても、適用が受けられるケースと受けられないケースとが出てきます。
 
① 所有権保存登記の場合
新築(増築)または取得(未保存登記の建売住宅)後、1年以内に登記を申請しなければいけません。新築後1年以内の付属建物は、主たる建物を保存登記する場合に、主たる建物と同様に適用が受けられます(ただし、前掲「自己居住用建物」よる制限に注意が必要です)。
 
一方、新築後1年を超える付属建物がある場合、主たる建物についてのみ適用が受けられる点にご注意ください。
 
 
② 所有権移転登記の場合
取得後、1年以内に登記を申請しなければいけません。
 
例えば、新築したものの住宅ローンを利用しなかったために登記を留保するような場合、建築から1年を経過すれば、通常の税率で保存登記の登録免許税を納付しなければなりません。
 
 
 
4.登記申請上の問題
 
 
住宅用家屋証明の主な適用要件は以上のとおりですが、このほかにも、登記申請上の細かい要件がいくつかあります。以下、各登記の場面ごとに列挙しますが、案件によっては事前協議を要するようなものもありますので、ご注意ください。
 
 
(1)所有権移転登記の場合
 
①取得原因は「売買」あるいは「競売による買受」に限定されます。
 
②先に仮登記をしている場合、この仮登記を本登記する場合も適用が受けられます。
 
③住宅用家屋証明は建物についての減税ですので、土地建物をまとめて購入する場合も、土地については通常の税率(売買の場合、現行の税率は1000分の15)で登録免許税を納付しなければなりません。
 
 
(2)抵当権設定登記
 
①適用があるのは抵当権だけです。住宅ローンであっても、「根」抵当権が設定される場合には適用が受けられません。
 
②借入原因は、建物の新築、増築、取得のためであることを要します。保証会社が抵当権者となり、将来の求償債権を担保に抵当権設定をする場合にも適用が受けられます。
 
③土地建物を一括購入する場合、土地購入資金と建物購入資金とが一括で融資される場合や、特に内訳が明記されずに融資される場合、土地購入資金を含めた全額について適用が受けられます。
 
④登記上の「債務者」は、建物所有者の全部または一部(共有の場合)と一致していることを要します。債務者がA,所有者がABでも、借入金全額について適用が受けられます。適用を受けられない者が連帯債務者となっている場合でも、差し支えありません。
 
⑤金融機関からの借入れに限りませんので、勤務先、ノンバンク、共済等を利用する場合でも適用が受けられます。
 
⑥建物の底地だけでなく、他の土地建物を共同担保とする場合でも適用が受けられます。購入する土地建物だけでは評価割れするため、親の所有物件にも担保を設定するようなケースがこれに当たります。
 
 
 
5.長期優良住宅に関する特例
 
 
平成21年6月に、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行され、施行日以降に新築された建物の保存登記、または同日以降に取得された建築後使用されていない建物の移転登記(建売住宅で、建築業者名で保存登記が済んでいるようなケース)では、通常の住宅用家屋証明の適用案件よりも、さらに登録免許税の税率が軽減されることになりました。
 
 
(1)税率の軽減
 
登記の目的
通常(本則)
軽減税率
所有権保存登記
1000分の4
1000分の1
所有権移転登記
1000分の20
1000分の2(戸建て)
1000分の1(マンション)
抵当権設定登記
1000分の4
1000分の1

なお、長期優良住宅について、建築後使用されたことがある住宅の場合には適用を受けることができません。
 
 
(2)長期優良住宅の認定
 
申請しようとする住宅が「長期優良住宅」であるか否かは、その住宅に係る認定申請書の副本及び認定通知書によって判断します。
 
 
 
6.認定低炭素住宅に関する特例
 
 
平成24年12月には「都市の低炭素化の促進に関する法律」が施行され、新たに「低炭素建築物認定制度」が始まりました。都道府県または市(区)から低炭素住宅と認定されることで、長期優良住宅と同様に登録免許税の軽減を受けることができるようになりました。
 
 
(1)税率の軽減
 
登記の目的
通常(本則)
軽減税率
所有権保存登記
1000分の4
1000分の1
所有権移転登記
1000分の20
1000分の1
抵当権設定登記
1000分の4
1000分の1
 
なお、認定低炭素住宅について、建築後使用されたことがある住宅の場合には適用を受けることができません。
 
 
(2)認定低炭素住宅の認定
 
申請しようとする住宅が「認定低炭素住宅」であるか否かは、その住宅に係る認定申請書の副本及び認定通知書によって判断します。
 
 
 
7.まとめ
 
 
中古住宅の売買や新築住宅の取得で融資を受ける場合の所有権移転や所有権保存、そして抵当権設定にかかる登録免許税について、住宅用家屋証明を取得することで得られる経済的利益は非常に大きいと言えます。住宅用家屋証明書の取得は、司法書士などの専門家に依頼することも可能ですので、これらの登記が申請する場合は住宅用家屋証明書を取得することを検討してはいかがでしょうか。