2022/4/19

公正証書遺言について

遺言の種類には、自筆証書遺言や公正証書遺言、秘密証書遺言などがあります。これらはそれぞれに特徴があり、どの種類の遺言を利用するかは、遺言を残そうとする人の事情によるでしょう。
 
ただ、そうはいっても現実に利用されている遺言としては、確実性や安心の面で公正証書遺言の数が最も多いのではないかと思います。
 
今回は、その公正証書遺言について説明します。
 
 
 
 
 
公正証書遺言について
 
 
目次
1.公正証書遺言とは
2.公正証書遺言のメリット・デメリット
3.公正証書遺言を作成するときの手数料
4.公正証書遺言を作成する際の手続の流れと必要書類
5.完成した遺言書の保管
6.遺言の修正・撤回
7.おわりに
 
 
 
1.公正証書遺言とは
  
  
公正証書遺言とは、公証人の面前で、証人2人の立会いのもとで遺言者本人が公証人に対して遺言の内容を口頭で伝え、公証人がそれを文章にまとめて作成してくれる遺言書です。遺言者が遺言をする際には、あらかじめその内容を決めている場合もあれば、反対にどのような内容の遺言にしようかと悩む場合もあると思いますが、いずれの場合においても、公証人が、親身になって相談を受け、必要に応じた助言をすることで、遺言者の意向に沿った最善と思われる遺言を作成できることが期待できます。
 
元々、公正証書遺言は、遺言者が、「口頭で」、公証人にその意思を伝えなければならず、さらに、遺言公正証書の作成後、これを「読み聞かせ」なければならないとされていました。しかし、民法の改正により、現在では、次のように口がきけない方や耳の聞こえない方でも、公正証書遺言をすることができるようになっています。
 
 
(1)口頭に代わる措置
 
口のきけない方でも、自書のできる方であれば、公証人の面前でその趣旨を自書(筆談)することにより、また、病気等で手が不自由で自書のできない方は、通訳人の通訳を通じて申述することにより、公証人にその意思を伝えれば、公正証書遺言をすることができます。
 
 
(2)読み聞かせに代わる措置
 
公正証書遺言の作成後には、公証人が、遺言者及び証人の前で読み聞かせることにより、その正確性を確認することになっていますが、耳の聞こえない方のために、読み聞かせに代えて、通訳人の通訳又は閲覧により、筆記した内容の正確性を確認することができるようになっています。
 
 
 
2.公正証書遺言のメリット・デメリット
 
 
一般的に利用されている遺言には、「公正証書遺言」のほかに「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」があります。「自筆証書遺言」とは、遺言者が、紙に遺言書の全文、日付と氏名を自書し、署名の下に押印して作成する遺言で、あまり費用をかけず手軽に作成することができます。「秘密証書遺言」は、遺言の内容を誰にも見せずに秘密にしたまま、公証人と証人にその存在だけを証明してもらう遺言です。それぞれに特徴がありますが、以下ではそれぞれの遺言を比較した場合の公正証書遺言のメリット・デメリットを説明します。
 
 
(1)公正証書遺言を作成するメリット
 
① 方式の不備による無効の可能性が低い
遺言の方式は法律で厳格に定められていますが、公証人は、元裁判官や元検察官、元弁護士など長年に渡り法律の実務に携わってきた方です。そのような専門家が作成する公文書であるため、遺言の形式不備により無効になる可能性は非常に低いものとなります。せっかく作成した遺言も無効になってしまっては意味がありませんので、公正証書遺言の安全性、確実性は大きなメリットです。
 
 
② 遺言者の自書が不要

自筆証書遺言は、財産目録以外は全文を自書しなければならないので、体力が弱り、あるいは病気等のために、自書が困難となった場合には、自筆証書遺言をすることはできません。他方、このような場合でも、公証人に依頼すれば、遺言を作成することができます。さらに、遺言者が高齢で体力が弱り、あるいは病気等のために、公証役場に出向くことが困難な場合でも、公証人が、遺言者の自宅、老人ホーム、介護施設、病院等に出張して、遺言公正証書を作成することができます。
 
なお、通常、公正証書遺言には遺言者の署名が必要とされていますが、遺言者が署名できない場合でも、公証人が、遺言公正証書にその旨を記載するとともに、「病気のため」などとその理由を付記し、職印を押捺することによって、遺言者の署名に代えることができることが法律で認められています。
 
 
③ 書き換えられてしまう心配が無い
公正証書遺言は、原本が必ず公証役場に保管されるので、遺言が破棄されたり、隠匿や改ざんをされたりする心配がありません。これに対して、自筆証書遺言は、発見した者が自分に不利なことが書いてあると思ったときなどに、破棄したり、隠匿や改ざんをしたりしてしまう危険性がないとはいえません。
 
 
④ 紛失しても公証役場ですぐに検索できる
公証役場には遺言検索システムがあり、平成元年以降に作成された全国の公正証書遺言を一元管理しています。上述のとおり、公正証書遺言を作成すると遺言者本人は控えをもらうことになりますが、仮にその控えを紛失しても公証役場で遺言書を確認することができます。また、震災等により、遺言公正証書の原本、正本及び謄本が全て滅失しても、その復元ができるようにするため、平成26年以降に作成された全国の遺言公正証書の原本を電子データにして、二重に保存するシステムを構築しているので、保管の点からも安心です。
 
 
ただし、秘密保持のために、検索をすることができるのは、相続人等の利害関係人に限られます。
 
 
⑤ 検認が不要ですぐに手続きができる
自筆証書遺言(法務局で保管されたものを除く)や秘密証書遺言の場合、遺言が見つかったら偽造や変造を防ぐため、家庭裁判所で遺言の存在と内容を確認する検認の手続きをしなければなりません。しかし、公正証書遺言の場合は、この検認の手続きが不要になります。よって、遺言者に相続が開始したら速やかに遺言の内容を実現することができます。
 

(2)公正証書遺言のデメリット
 
① 作成するためには準備と費用が必要

公証役場で公正証書遺言を作成する場合、事前に必要書類を用意し、証人2人を決めたうえで、公証人と会う日時を決めるなど、様々な準備が必要です。そして、遺言の内容に応じた手数料が必要となることや、場合によっては証人への謝礼、専門家へ依頼した場合の手数料も発生します。
 
 
② 証人に遺言の内容が知られてしまう
上述のとおり、公正証書遺言を作成するには証人2人の立会が必要です。そして遺言書の作成後には、公証人が、遺言者及び証人の前で読み聞かせることになるため、遺言書の内容が証人には知られてしまうことになります。
 
なお、推定相続人や利害関係者には証人を頼むことができないため、証人探しに苦労する場合があるかもしれません。また、証人を頼むことができる親族がいる場合であっても、遺言の内容が知られたくない場合には、できるだけ関係のない方に依頼したくなることもあります。
 
そんな場合には、手数料が発生しますが、公証役場で証人を手配してもらうことができますし、ほかにも弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に依頼することもできます。
 
 
 
3.公正証書遺言を作成するときの手数料

  
公正証書遺言を作成するには以下のような費用がかかります。
 
① 公正証書遺言作成手数料(作成時に公証役場に支払うもの)
 公正証書遺言の作成費用一覧
 
目的の価額
手数料
100万円以下5000円
100万円を超え200万円以下7000円
200万円を超え500万円以下11000円
500万円を超え1000万円以下17000円
1000万円を超え3000万円以下23000円
3000万円を超え5000万円以下29000円
5000万円を超え1億円以下43000円
1億円を超え3億円以下
4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額
3億円を超え10億円以下9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額
10億円を超える場合24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額
 
財産を引き継ぐ人ごとにその財産の価額を算出し、これを上記の基準表に当てはめて、その価額に対応する手数料額を求め、これらの手数料額を合算して、公正証書遺言全体の手数料を算出します。
 
また、全体の財産が1億円以下のときは、上記で算出された公正証書遺言全体の手数料に、1万1000円が加算されます(これを「遺言加算」といいます)。
 
さらに、遺言公正証書は、通常、原本、正本及び謄本を各1部作成し、原本は、法律に基づき公証役場で保管し、正本及び謄本は、遺言者に交付するので、その手数料が必要になります。
 
原本については、その枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書きの公正証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円の手数料が加算されます。また、正本及び謄本の交付については、1枚につき250円の割合の手数料が必要となります。
 
 
(例)財産1億円を相続人3人(配偶者・子2人)で相続し、その額が配偶者5000万円、子2人は各2,500万円とする内容の遺言を作成した場合の作成手数料
 
財産を引き継ぐ人ごとの目的の価額
手数料
5,000万円(配偶者)
29000円
2,500万円(子)
23000円
2,500万円(子)
23000円
遺言加算(全体の財産が1億円以下)
11000円
合計
86000円
これに加えて原本の枚数による加算や、正本及び謄本の交付手数料が加算されます。
 
 
② 必要書類の費用
必要書類を取得する際にかかる費用です。必要書類の種類や通数は遺言者の財産内容や誰が財産を引き継ぐかによって異なるため、事前に確認したうえで取得するようにしましょう。必要書類のうち、主なものは以下のとおりです。
 
必要書類(取得できる場所)
費用
住民票(市区町村役場)
300円/通
印鑑証明書(市区町村役場)300円/通
戸籍謄本(市区町村役場)450円/通
除籍・原戸籍謄本(市区町村役場)750円/通
登記事項証明書(法務局)600円/通
固定資産評価証明書(市区町村役場)300円/通(毎年送られてくる納税通知書等を利用すれば費用はかかりません)
※市区町村によっては、上記の費用と異なる場合があります。
 
③ 証人2人分の費用
ご自身で証人を探した場合に謝礼を払う場合や、公証役場に依頼をして証人を紹介してもらう場合、あるいはご自身で弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に証人としての立会を依頼した場合には、その費用が発生します。その金額は一律ではなく公証役場や専門家との契約によって異なりますので、事前に確認しておきましょう。
 
 
④ 公証人の出張費用
遺言者が病気で入院していたり、身体が不自由で公証役場へ出向く事ができない場合、公証人に自宅や病院等に出張してもらうことができますが、その場合、公証役場で作成する手数料に対して1.5倍の手数料を支払うことになります。
 
 
 
4.公正証書遺言を作成する際の手続の流れと必要書類
 
 
公正証書遺言は、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家を通じるなどして、公証人に相談や依頼をすることもできますが、必ずしもその必要はなく、遺言者やその親族等が、公証役場に電話やメールをしたり、予約を取って公証役場を訪れたりするなどして、公証人に直接相談や依頼をしてもまったく問題はありません。
 
公正証書遺言は、一般的に次のような手順で作成されます。
 
 
① 遺言の内容をまとめておく
遺言者がどのような財産を有していて、それを誰にどのような割合で相続させ、又は遺贈したいと考えているのかなど、遺言に記載する内容をまとめておきます。後の公証人との相談に備えて、メモ書き程度でもよいので書面にしておくのがよいでしょう。
 
 
② 証人を決める
公正証書で遺言を作成する場合は証人2名の立会が必要です。財産や遺言の内容を知られることになるため、信頼できる方または専門家に依頼するようにしましょう。適当な証人が見つからない場合は、費用はかかりますが公証役場で紹介してもらうこともできます。
 
 
③ 必要書類の準備
公証役場で遺言を作成するには、財産に関する書類のほか、遺言者本人、財産を引き継ぐ方、証人、遺言執行者といった関係者についての書類も準備が必要です。主な書類は以下のとおりですが、事案に応じて、ほかにも資料が必要となる場合があります。
 
・遺言者本人の3か月以内に発行された印鑑登録証明書
 
・運転免許証、旅券、個人番号カード(マイナンバーカード)等の官公署発行の顔写真付き身分証明書
 
 
・遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
 
・財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票(法人の場合には、その法人の登記事項証明書)
 
・財産の中に不動産がある場合には、その登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書又は固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
 
・財産の中に預貯金・有価証券がある場合には「預貯金通帳の写し」又は「金額を記載したメモ」(手書き可)や証券会社発行の「取引明細書」など
 
・遺言者が証人を手配する場合には、証人となる人の氏名、住所、生年月日及び職業をメモしたもの
 
 
④ 公証人との事前打ち合わせ

メール、FAX、郵送、又は持参などの方法で、上記①でまとめた遺言の内容のメモや上記③の必要書類を公証人に提出します。公証人は、提出されたメモ及び必要資料に基づき、遺言の案を作成した後、メール等の方法で遺言の案を遺言者に提示しますので、修正してほしい箇所(遺言内容・表現方法)があればそれを指摘して、公証人に修正を依頼します。
 
その後、遺言公正証書の案が確定した場合には、遺言者が公証役場に出向くか、又は公証人が出張して打ち合わせを行い、遺言公正証書を作成する日時を確定します。
 
※事案によっては、遺言公正証書の作成日時が、最初に予定されることもあります。
 
※公正証書遺言の案が確定することによって、手数料の金額も確定し、公証人から手数料の金額が事前に伝えられます。
 
 
⑤ 遺言の作成、確認
予約をした日にご自身及び証人2名が公証役場へ行きます(作成した遺言書には遺言者と証人の署名捺印が必要ですので、遺言者は実印を、証人は認印を忘れずに持参してください)。そして、まず遺言者本人から、公証人と証人2名の前で、遺言の内容を改めて口頭で伝え、公証人は、それが判断能力を有する遺言者の真意であることを確認したうえで、既に事前の打ち合わせで確定した遺言の案に基づいてあらかじめ準備した公正証書遺言の原本を、遺言者及び証人2名に読み聞かせ、又は閲覧させて、内容に間違いがないことを確認してもらいます(内容に誤りがあれば、その場で修正することもあります)。
 
 
⑥ 完成(証人と共に署名押印、費用の支払い)
遺言の内容に誤りが無ければ遺言者と証人の2名が署名捺印をし、最後に公証人も署名捺印をして完成です。遺言は合計3通作成され、そのうちの1通は原本として公証役場で保管されます。残りの2通は正本および謄本としてご自身が受け取ります。
最後に公正証書作成手数料を支払えば終了です。
 
 
 
5.完成した遺言書の保管
 
 
公正証書遺言を作成すると公証役場は遺言の原本を保管し、遺言者には控えが渡されます。ところが、公証役場に原本があるとはいえ、遺言者が亡くなった事実は公証人に伝えられることはありませんし、遺言者が亡くなった後に公証役場から遺言書がある旨の通知が来ることもありません。つまり、遺言者が亡くなったときに相続人らに遺言書の存在が知られていないと、遺言者の意思を実現することができない可能性があります。
 
また、相続が発生してからかなり時間が経って遺言が見つかった場合でも、すでにその時には遺産分割が済んでしまっていたりすると、相続人の間で面倒な手続きが生じることもあります。
 
このような事態にならないように完成した公正証書遺言の保管方法にも注意が必要です。相続人が見つけやすい場所に保管する、信頼できる人に預けておくなど、保管の方法はいろいろありますが、何よりも大事なことは、相続が発生した際に遅れることなく遺言が出てきて、速やかに遺言の内容を実現できるようにしておくことです。
 
 
 
6.遺言の修正・撤回
 
 
遺言は一度書けばそれでいい、というものではありません。遺言を作成した後に、状況や気持ちが変化することもありますので、遺言は定期的に内容を確認してその変化にあわせて見直しをすることが大切ですし、場合によっては、遺言の内容を全て撤回したくなることもあります。
 
遺言は、遺言者の意思を尊重する制度ですので、いつでも自由に遺言の内容を修正したり撤回したりすることができます。ただし、修正・撤回にもルールあるため注意が必要です。
 
 
 
7.おわりに
 
 
遺言とは、生涯をかけて築き、守ってきた大切な財産の相続について、遺言者の希望や考えを反映させるために行う遺言者の意思表示です。しかし、世の中には、遺言がないために、相続をめぐって親族間で争いが起こり、遺産相続の手続が円滑に進められないケースが少なからず存在します。このような事態が起こるのを防ぐために、遺言者自らが、自分の残した財産の帰属を決めることは意義のあることであり、そして、そのような遺言だからこそ、確実に有効なものを残すことが大切です。公証人が関与する公正証書遺言は、自筆証書遺言や秘密証書遺言に比べて、内容と形式の正確性は非常に高く、改ざんや変造の危険性が低いため、信頼性と安心感のある遺言だといえます。