2022/4/26

預貯金の口座が凍結されてしまう理由とは?

口座凍結とは、金融機関の預貯金口座を利用した取引の取り扱いが一時的にできなくなる状態を言います。凍結された口座からは、一切の預貯金の入出金や公共料金やクレジットカードの口座引落による支払い等ができなくなるため、日常生活に多大な影響を及ぼすことになるだけでなく、凍結された理由によっては、その後に新たな口座を作れなくなるなど社会生活に関わるような事態に発展するケースもあります。
 
今回は、口座が凍結されてしまう場合についてケースごとに説明します。
  
 
 
 
 
預貯金の口座が凍結されてしまう理由とは?
 
 
 
目次
1.債務整理
2.口座名義人の死亡
3.不正に譲渡・使用された口座
4.認知症の発症
5.おわりに
 
 
 
1.債務整理
 
 
カードローンや各種ローンといった金融機関(銀行・信用組合・信用金庫など)からの借入について任意整理、自己破産、個人再生などの債務整理をした場合、当該金融機関にある債務者名義の口座が凍結されます。法人の債務整理においては、法人の代表者の口座も凍結される場合があります。
 
債務整理を理由として行われる口座凍結は、預金残高と返済残高を相殺する目的で行われます。口座凍結は、弁護士や司法書士などが送る債務整理の受任通知が届いた時点で行われますが、金融機関は受任通知を受け取ると、返済残高を少しでも減らすために預金残高と相殺しようとします。たとえば、銀行のカードローンで50万円の借金があると同時に、その銀行の口座に10万円の預金残高があったとします。ここで、銀行が債務整理の受任通知を受け取ると、口座を凍結して50万円の借金と10万円の預金を相殺して返済残高を40万円にしようとします。その相殺の処理を行うために口座を凍結するというわけです。なお、受任通知を受け取った後に入金されたお金については相殺することはできませんが、口座が凍結されている間は、基本的に引出ができないため注意が必要です(ただし、銀行によっては窓口での引出に応じてくれる場合もあります)。
 
債務整理に伴う口座凍結は一時的な措置であり、ずっと続くわけではありません。一般的に、金融機関からの借入には、保証会社の保証がついていることが多く、最終的には保証会社が、債務者に代わって金融機関へ返済することになります。これを「代位弁済」と言いますが、この代位弁済が完了した時点で口座凍結も解除されることが多く、その期間は概ね1~3カ月程度です(なお、その後は保証会社から債務者に対して代位弁済を行った分の支払いを求められることになります)。
 
ただ、すべての金融機関が同様であるとは限らず、銀行によっては、任意整理の和解後に、その銀行系列の会社への借金を完済して、そこでようやく口座凍結が解除される場合もあります。このケースでは、口座が長期にわたって凍結されるおそれがあります。
 
いずれにしても、口座が凍結されることによって様々な不利益を被るリスクがあります。特に、凍結対象の口座が給与の振込先口座であったりすると、凍結されることによって給与が引き出せなくなるため、ただちに生活に支障が生じてしまうでしょう。また、公共料金や光熱費、携帯電話料金などの支払いを行っている場合には口座引落ができず、延滞金が発生する可能性もあります。したがって、債務整理を依頼する場合には、事前に給与の振込先口座を変更する、公共料金などの引落口座を変更するか振込用紙による現金払いに変えるなどの対策が必要です。また、口座が凍結される前に預金を全額引き出しておくことも事前に行える対策の1つです。
 
 
 
2.口座名義人の死亡
 
 
親族からの報告や新聞の訃報欄など、何らかのきっかけで金融機関に口座名義人の死亡が伝わると口座が凍結されます。
 
口座に残っている預貯金は相続財産であり、口座名義人である被相続人が亡くなった後に自由に引き出せてしまうと、相続財産の線引きが不透明になってしまうだけでなく、最悪の場合、相続人を含めた親族の誰かが勝手に引き出して自分のものにしてしまうなどの危険性もあります。
 
こうした事態を防ぐために、相続の内容が決定するまでは、その口座における一切の取引を停止しておく必要があるというわけです。そのため、たとえ通帳やキャッシュカードがあり、暗証番号を知っていたとしても、口座が凍結された後は、凍結解除の手続きをしなければ口座から預金を引き出すことができなくなります。
 
口座名義人の死亡による口座凍結を解除するには、必要な書類を取得して金融機関に提出しなければなりません。一般的に必要な書類は以下のとおりですが、金融機関ごとに異なる場合もあるため、事前に確認したうえで取得するようにしましょう。
 
なお、一般的には下記のような書類が必要となります。
 
・金融機関が用意している相続関係届出書
 
・被相続人の出生から死亡までの戸(除)籍謄本や改正原戸籍
 
・相続人全員の戸籍謄本
 
・相続人全員の印鑑証明書
 
・預金通帳、キャッシュカード、証書
 
・遺産分割協議書または相続人全員の同意書、遺言書
 
凍結解除の必要書類を銀行に提出した後、約10営業日ほどで口座凍結が解除されます。
 
 
 
3.不正に譲渡・使用された口座
 
 
犯罪行為などで不正に利用された疑いのある口座は、警察からの申請などにより凍結されます。
 
具体的には、以下のような場合が挙げられます。
 
・健康保険証や運転免許証といった身分証明書の盗難に遭い、不正な口座が開設され犯罪に利用される
 
・新規で口座を開設し、闇金等に譲渡し、その口座が犯罪に利用される
 
・闇金等に既存の口座情報を渡してしまい、その口座が犯罪に利用される
 
身分証明書の盗難によって不正利用を目的として口座が開設された場合のように、たとえ犯罪には全く関係がなくても、ある日突然口座が使えなくなる場合があることには注意が必要です。また、意図的に口座の譲渡や譲渡目的の新規開設をした場合、逮捕され刑事罰に問われるおそれもあるので、このような行為は絶対にしてはいけません。
 
不正利用が疑われた時の口座凍結は、他の理由による口座凍結とは比較にならないほど厄介であり、生活へ及ぼす影響も非常に大きいものになります。まず、預金の引出、公共料金の引落などの口座取引ができなくなってしまうのは他の理由で凍結された場合と同様ですが、債権整理や口座名義人の死亡による口座凍結は、所定の手続きが終わりさえすれば解除できるのに対して、不正利用が疑われて凍結された口座については、解除が困難である上に、何もしないまま一定期間を過ぎると預金債権が消滅してしまいます。
 
また、凍結口座名義人リストに氏名等が載ってしまい、いずれ他の金融機関にある口座なども全て凍結されてしまいます。さらには、一度でも自分名義の口座が犯罪に利用されてしまうと、金融機関同士で情報が共有されてしまうため、今後、一切預貯金口座の開設ができなくなってしまう可能性があります。口座を持てないと、就職の際に給与振込口座を届け出ることができなかったり、給与や年金などの振込を受けられないなど社会生活に大きく支障をきたすことになります。
 
犯罪行為などで不正に利用された、またはその疑いがあることが原因で口座を凍結された場合、解除の手続きは非常に困難となります。
 
まず、口座が凍結されると、預金保険機構のホームページ上で預金口座の権利消滅の公告がなされます。
 
https://furikomesagi.dic.go.jp/sel_pubs.php(振り込め詐欺救済法に基づく公告)
 
ここで、法が定める一定の期間内に、口座の名義人から金融機関に対して、口座の正当な所有者は自分であるということを届け出る「権利行使の届出」を行わないと、口座の権利が消滅し、預金は犯罪被害者への資金分配のために使われてしまいます。
 
ただ、届出をしたからといって必ず解除されるわけではなく、実際には、捜査機関や金融機関との協議や訴訟を通して問題の解決を図ることになります。
 
もし一定の期間を過ぎて権利を失ってしまった場合でも、届出をできなかったやむを得ない理由があり、犯罪口座でないことについて相当の理由があれば、預金相当額の支払を請求することができます。
 
以上のように、預金口座の凍結措置がとられていたとしても、犯罪利用口座でないことを証明できれば、預金相当額についての返金自体を求めることはできます。しかし、これにより直ちに預金口座の凍結措置が解除されるわけではありません。というのは、一度、こうした預金口座の凍結措置が取られた場合に、これを解除する定めがどこにも定められていないためです。
 
いずれにせよ、捜査機関への問い合わせや金融機関との交渉、場合によっては訴訟手続が必要となるので、法的な知識がない人にとっては非常にハードルの高い手段となります。
 
 
 
4.認知症の発症
 
 
認知症の発症による口座凍結の場合、認知症を発症した口座名義人である本人や家族が銀行側へ申請しなくても銀行側の判断で凍結してもいいという法律があります。その理由は、認知症になり判断能力が低下した場合、詐欺、横領、口座の不正使用などの犯罪に巻き込まれ口座名義人が財産を失うリスクを防ぐためです。
 
とはいえ、認知症になったからといって、すぐに口座が凍結されるわけではありません。口座凍結をするタイミングは主に2つあります。
 
1つは家族が銀行へ行き認知症を発症したことを理由に口座凍結を申請したとき、もう1つは金融機関側が口座名義人は「著しく判断能力が低下している」と判断したときです。後者に関しては、手続きの際に本人(口座名義人)が直接銀行へ来ることができるか、名前や生年月日を言えるか、自署ができるかなどが判断基準の1つとされているようです。
 
口座を凍結されると、預金の引出、公共料金の引落など、口座を使った取引は基本的に利用できなくなるため、介護や医療にかかる費用ばかりか生活費でさえ預金から充てることができなくなり、家族に負担が及ぶケースが少なくありません。凍結された口座が年金の振込口座になっていたり、生活費の管理などで日常的に使っている場合や介護費用に充てる予定があるような場合には早めに対処する必要があります。
 
認知症の発症を理由とした口座凍結を解除するには、成年後見制度を利用する方法があります。成年後見制度とは、家庭裁判所から認知症などにより判断能力が著しく低下した人の代わりに、後見人等という財産を守り、管理する人を選任する制度のことです。
 
この制度を利用することで、凍結口座の解約手続きや生活費などの管理ができるようになりますが、成年後見制度を利用するには時間がかかるため早めに金融機関へ必要な書類などの確認をしておくのがよいでしょう。
 
 
全銀協による新指針について

全国銀行協会が、2021年2月18日に新たな指針を示しました。その指針によれば、本人の判断能力が低下・喪失していても、本人の医療費など、本人の利益に適合することが明らかな場合には、親族からの払い戻し(振込)の依頼に応じうることになっています。

ただし、これはあくまでも指針であって、個別の金融機関が応じてくれるかどうかは明らかではないため注意が必要です。
 
 
 
5.おわりに
 
 
預金口座の凍結が生活に及ぼす影響は非常に大きいものです。口座が凍結されても焦らずに済むよう、事前に口座凍結が予想できる場合にはその対策を講じることが大切です。不正利用疑いのある口座の凍結に関しては、現状では巻き込まれてしまった人を救済するためのガイドラインが整っておらず、その解決は困難となることが予想されますが、弁護士などの専門家を通して交渉や訴訟を行うことで、口座凍結によって受ける不利益を抑えられる可能性は高まります。身に覚えのないことで口座が凍結されてしまった場合には、すぐに専門家へ相談しましょう。もし、どうやって専門家を探したらよいか不安な場合は、弁護士会の相談窓口などで相談してみるとよいでしょう(なお、当事務所は不正利用による口座凍結の解除を専門とする事務所ではありません)。