2022/4/30

【令和6年4月1日施行】相続登記の申請義務化と相続人申告登記

令和6年4月より相続登記が義務化され、正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられることとなります。
 
正当な理由があれば、相続登記の申請を怠ったときに過料に処せられずに済むということですが、義務化の趣旨を考えると相続登記の申請義務を免れる正当な理由は、かなり限定されたものとなるでしょう。
 
しかし、実際には、遺産分割協議が終わっていないなどの事情により、相続登記をすることが難しいこともあります。
 
このような場合に利用できるのが「相続人申告登記」です。
 
 
 
 
 
 
 
【令和6年4月1日施行】相続登記の申請義務化と相続人申告登記
 
 
 
目次
1.相続登記の義務化
2.相続人申告登記
3.相続人申告登記の特徴
4.相続人申告登記の注意点
5.相続登記の義務化に備えて
 
 
 
1.相続登記の義務化
 
 
相続登記の申請義務化が令和6年4月1日から施行されます。これにより、不動産を取得した相続人に対して、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられ、正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられることとなります。
 
正当な理由があれば、相続登記の申請を怠ったときでも過料に処せられることはないということですが、相続登記の申請義務を免れるケースはほとんどなく、「遺産分割の話し合いがまとまっていないから」「原野・山林など価値のない不動産だから」といった理由で相続登記を申請しないことは認められないでしょう。
 
しかし、実際には、遺産分割協議が終わっていないなどの事情により、期限内に相続登記をするのが難しいケースがあることも予想されます。
 
このような場合に相続登記の申請義務を免れる方法として、とりあえず法定相続分の割合でかつ相続人全員名義の登記をする方法があります。相続発生後、遺産分割協議がなければ全ての相続人が法定相続分の割合で不動産を共有した状態になるため、便宜的に法定相続分による相続登記を申請し、その後遺産分割協議がまとまったら、その結果を反映させる別の登記を新たに申請するということです。しかし、法定相続分による相続登記を行うには、法定相続分の割合などを明らかにするために被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍謄本などの書類をそろえる必要があるなど、登記申請にあたっての手続的な負担が大きいものとなります。
 
 
 
2.相続人申告登記
 
 
そこで、相続人が相続登記の申請義務を簡単に履行することができるようにする観点から新たな登記の制度が設けられました。これが、「相続人である旨の申出等による登記(相続人申告登記)」です。
 
この相続人申告登記は、①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と②自らがその相続人である旨を相続登記申請義務の履行期間内(3年以内)に不動産の所在地を管轄する法務局の登記官に対して申し出る、というものです。
 
この申出がされると登記官は所定の審査をしたうえで、申出をした相続人の氏名・住所等を職権で登記され、登記簿に氏名・住所等が記録された相続人の申請義務のみ履行したものとみなされます。
 
 
 
3.相続人申告登記の特徴
 
 
この制度の特徴としては次のような点があります。
 
① 相続人が複数の場合でも、特定の相続人が単独で申し出ることが可能(他の相続人の分を含めた代理申出も可能)
 
② 法定相続人の範囲及び法定相続分の割合を確定させる必要がないため、申出の際の添付書類について収集の負担が軽減される
 
相続人申告登記の具体的な申請方法について詳細は未定ですが、上記のような特徴があるため、正式な相続登記よりずいぶんと負担が軽くなります。すぐに相続登記ができない場合には、相続人申告制度を利用することも検討しましょう。
 
 
 
4.相続人申告登記の注意点
 
 
注意すべき点としては、相続人申告登記は、通常の相続登記のように所有権が故人から相続人へ移転したという旨を公示するものではなく、単に所有者が死亡しているということと、その相続人である蓋然性がある者を公示するというものでしかありません。
 
相続人である旨の申出に際して、法定相続人全員を調査したり、持分を明らかにする必要もなく非常に簡易に登記ができるのは、そのような観点からです。
 
つまり、相続人申告登記をした場合、一時的に相続登記の義務を果たすことにはなりますが、それだけでは本来の相続登記をしたことにはなりません。もし、相続の発生後に不動産を誰かに売却、贈与するような場合、売買や贈与に基づく所有権移転登記の前提として、正式な相続登記を申請しなければなりません。つまり、相続人申告登記をしただけでは、売却や贈与などの処分はできないのです。
 
また、相続人申告登記をした後、遺産分割により不動産の所有権を得た相続人は、遺産分割の日から3年以内に所有権移転登記をしなければならず、これを正当な理由なく怠った場合には過料の罰則に処せられる可能性があります。
 
 
 
5.相続登記の義務化に備えて
 
 
冒頭でも述べましたが、今回の改正は令和6年4月1日に施行されます。法改正があった場合、改正法が施行される前の法律関係については適用されないことが一般的なのですが、今回の改正法は、相続の発生が法律の施行前であるか後であるかを問わず、いずれの相続についても適用されます。つまり、改正法の施行前に発生した相続についても、今回の「相続登記の義務化」は適用され、要件を満たせば過料に処せられるおそれがあるという意味です。
 
ちなみに、改正法の施行前に発生していた相続については施行日である令和6年4月1日から3年以内の相続登記が義務となります。
 
もし、現時点で既に相続が開始しており、相続登記を放置しているような場合には、速やかに相続手続を進める必要があります。基本的には期限までに相続登記をするのが望ましいですが、間に合わない場合にはとりあえず相続人申告登記を行っておくことも効果的でしょう。
 
まだ相続が開始していない場合には、相続開始後は速やかに相続登記を行えるように前もって対策を講じておくことが大切です。例えば、相続に関して相続人同士で揉めそうなことが予見できるのであれば、生前に遺言書を作成しておくことでこれを未然に防ぐことができる場合もあります。
 
相続登記は何も対策をしないままだと、時間が経てば経つほど新たな相続が発生して相続人が増える、相続登記に重要な書類を紛失するなどにより手続きが煩雑になっていくおそれがあります。相続登記の義務化までまだ時間はありますが、相続登記に関しては早めの行動をお勧めします。
 
 

 
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