2022/5/12
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遺産分割に期限ってあるの?~令和3年民法改正について~ |
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相続が始まったときに相続人が複数いる場合、相続財産(遺産)は原則として相続人全員が共有することになりますが、この遺産を共有している状態は各相続人の持分権が互いに制約し合う関係に立つことになるため、時として遺産の管理に支障が生じてしまう場合があります。 また、遺産分割がされないまま相続が繰り返されて、多数の相続人による遺産共有状態になると遺産の管理や処分がより困難になります。そして、このような状態の中で、相続人の一部が所在不明になってしまうなどの理由で所有者不明土地が発生することも少なくありません。 そもそも、遺産を共有している状態は暫定的なものであり、本来は遺産分割により速やかに解消されるべきものですし、それが所有者不明土地の発生の予防にもつながります。 このような遺産共有状態を解消する必要性があることから、令和3年4月23日に成立した民法等の一部を改正する法律により、遺産分割について見直しがされ、具体的相続分による遺産分割に期間制限が設けられました。 遺産分割に期限ってあるの?~令和3年民法改正について~
1.遺産分割協議そのものに期限はない 遺産分割協議には法律上の期限はありません。相続が開始して何年が経過していても、遺産分割協議は可能です。 しかし、期限がないからといって遺産分割がされないままでいると、さらに相続が発生して関係が複雑になったり、あるいは相続人の一部が行方不明になるなどの理由で所有者不明土地が生まれてしまうおそれがあります。 そこで、遺産分割協議そのものに期限は決めないものの、協議を行うことを促すために具体的相続分の主張に期間制限が設けられました。 2.具体的相続分による遺産分割の期間制限(令和5年4月1日施行) 具体的相続分とは、法定相続分(民法であらかじめ定められている画一的な割合)・指定相続分(遺言によ被相続人等が指定した割合)を前提に、特別受益及び寄与分などの個別具体的な要素を考慮して修正した相続分のことです。
従来は、具体的相続分による遺産分割、言い換えると、遺産分割の中で特別受益や寄与分が主張できる期限には時間的な制限がなく、長期間放置していても具体的相続分による遺産分割を望む相続人にとって不利益が生じないことから早期に遺産分割をすることのインセンティブが働いていませんでした。 また、遺産分割をしないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する資料が散逸するだけでなく、関係者の記憶も薄れてしまい、具体的相続分の算定が困難となることから遺産分割の支障となるおそれがあります。 ところで、民法では一般的に、所有権以外の権利について、一定期間行使されない場合にその権利が消滅することとされています。 具体的相続分による分割の利益も同様に扱うことにすれば、分割の利益を求める者による早期の遺産分割を期待でき、また、分割の利益が消滅すれば、遺産分割に際して考慮する要素が少なくなるため、協議や裁判において遺産を分割することが容易になります。 このような理由から、令和3年の民法改正によって具体的相続分による遺産分割について期限が設けられ、令和5年4月1日から施行されています。 3.改正内容(改正民法第904条の3) 改正後の内容を簡単に言うと、概ね以下のとおりです。 特別受益と寄与分の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については適用しない、とされています。つまり、原則として、相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)によることになります。 ただし、10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたときや、10年の期間満了前6カ月以内に遺産分割請求をすることができない「やむをえない事由」が相続人にあった場合において、当該事由の消滅時から6カ月を経過する前に当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたときには、例外として引き続き具体的相続分による遺産分割が認められます。 この改正により、具体的相続分による遺産分割を求める相続人に早期の遺産分割請求を促す効果が期待されると同時に、遺産分割をしないまま長期間放置した場合には具体的相続分による遺産分割の利益を喪失させ、画一的な割合である法定相続分を基準として円滑に遺産分割を行うことが可能となります。 4.相続開始から10年経過後の法律関係 具体的相続分による遺産分割がなされないまま、相続開始時から10年を経過した後の法律関係は以下のとおりです。 ①分割方法は、共有物分割ではなく遺産分割の方法による。 共有の法的性質は、遺産共有と物件共有に分けることができ、その分割の手続はそれぞれ「遺産分割」と「共有物分割」とされ、法的な取扱いに違いがあります。
相続開始から10年を経過することによって、分割の基準は法定相続分等となりますが、分割方法は基本的に遺産分割であって共有物分割ではありません。 ②具体的相続分による遺産分割の合意は可能 10年が経過して法定相続分等による分割を求めることができるにもかかわらず、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意した場合には、なお具体的相続分による遺産分割が可能とされています。 5.改正法の施行日より前に相続が開始した場合の取扱 この改正は令和5年4月1日より施行されますが、改正法の施行日より前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても、新法のルールが適用されます。ただし、経過措置により、少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられます。具体的には以下のようになります。 ①「施行時に相続開始から既に10年が経過している」場合 施行時から5年の経過時が基準となり、これ以降は具体的相続分による遺産分割の利益を喪失します。 ②「相続開始時から10年を経過する時が、施行時から5年を経過する時よりも前に来る」場合 ①と同様、施行時から5年の経過時が基準となり、これ以降は具体的相続分による遺産分割の利益を喪失します。 ③「相続開始時から10年を経過する時が、施行時から5年を経過する時よりも後に来る」場合 相続開始時から10年の経過時が基準となり、これ以降は具体的相続分による遺産分割の利益を喪失します。 6.おわりに あくまで今回の改正は、遺産分割において特別受益と寄与分を主張することができる期限を設けることにより、遺産分割を促進して遺産の共有状態を速やかに解消することが狙いであり、遺産分割協議そのものに期限ができたわけではありません。 また、相続開始時から10年を経過しても相続人全員の合意があれば、なお特別受益や寄与分を加味した遺産分割も可能です。とはいえ、特別受益や寄与分の主張がほかの相続人から簡単に受け入れられるとは限りません。特別受益となる利益を受けたのが昔のことだったり、寄与の度合いが図りにくかったりすることから、相続人同士でトラブルになりやすいという面もあります。 いずれにしても、改正により特別受益や寄与分の主張に期限が設定されたわけですので、これらの主張をすることにメリットのある相続人にとっては、自己の権利を否定される危険性が高くなったということも言えます。遺産分割協議の場できちんと権利を主張するとともに、早めに裁判(遺産分割調停・遺産分割審判)の手続を検討する必要があるかもしれません。 |
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