2022/5/25

【令和8年4月1日施行】住所変更登記等の申請義務化と職権登記制度

不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地や、所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地などの、いわゆる所有者不明土地が増加したことにより、公共事業、復旧・復興事業、民間取引などの土地の利用が阻害されているという問題が生じていることは、近年、所有者不明土地問題として報道などで大きく取り上げられています。
 
この所有者不明土地が発生する原因の1つとして、不動産の登記名義人が住所等を変更しても、その登記を行わないことが挙げられています。特に都市部では、住所変更登記等の未了が所有者不明土地の主な原因となっているとの調査もあります。
 
そこで、令和3年の不動産登記法改正により、住所変更登記等の申請が義務化されることになりました。改正法の施行時期は、公布(令和3年4月28日)から5年以内とされていますので、令和8年4月頃の施行となることが予想されています。
 
※令和5年7月28日の閣議で、不動産所有者が住所変更した際の登記を令和8年4月1日から義務付けることが決まりました。
 
 
 
 
【令和8年4月1日施行】住所変更登記等の申請義務化と職権登記制度
 
 
目次
1.住所変更登記と氏名変更登記
2.住所変更登記等の申請の義務化の内容
3.職権による住所等の変更登記
4.施行日前に住所等の変更が生じていた場合の経過措置
5.さいごに
 
 
 
1.住所変更登記と氏名変更登記
 
 
不動産の登記簿には、その不動産の所有者の住所と氏名が記録されています。この住所や氏名が転居や婚姻などの理由で変更した場合、本来であれば変更があった時点で登記を申請するのが望ましいのですが、この登記の申請は義務ではなく、しかも変更登記をしなかった場合に大きな不利益があるわけではありません。さらに、例えば転居のたびに住所変更登記等を行うことは手間や費用がかかることなどから、所有権の登記名義人が住所等を変更しても、その登記がされていないというケースが少なからず存在していました。しかし、それにより多くの所有者不明土地が発生し、冒頭で述べたような様々な問題を引き起こしています。
 
 
 
2.住所変更登記等の申請の義務化の内容
 
 
改正法では、所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内に、その変更登記の申請をすることを義務付けることとされました。そして、正当な理由がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処することとされました。
 
なお、この「正当な理由」については、通達等で明確化することが予定されており、過料を科す具体的な手続についても省令等に明確に規定する予定になっています。
 
 
 
3.職権による住所等の変更登記
 
 
今回の改正により、住所変更登記等の申請が義務化されることになりましたが、同時に、申請義務の実効性を確保するため環境整備策として、手続の簡素化・合理化を図る観点から、法務局が他の公的機関から取得した情報に基づき、職権的に変更登記をする新たな方策が導入されています。
 
具体的な手続は自然人(個人)と法人で次のように異なります。
 
 
(1)自然人の場合
 
①所有権の登記名義人から、あらかじめ氏名や住所のほか、生年月日等の「検索用情報」の提供を受けておく。
「検索用情報」の提供時期ですが、改正法の施行後に新たに所有権の登記名義人となる場合、その登記申請時に検索用情報を提供する必要があります。改正法の施行時に既に所有権の登記名義人である場合は、登記申請時でなくても、任意での検索用情報の提供を可能とする予定とのことです。
 
 
②検索用情報等を検索キーとして、法務局側で定期的に住基ネットに照会をして、住所等の異動情報を取得して住所等の変更の有無を確認する
 
 
③住所等の変更があったときは、法務局側から所有権の登記名義人に対して、住所等の変更登記をすることについて意思確認を行い、了解を得たうえで登記官が職権的に変更登記をする(住所等の変更登記の申請義務は履行済みとなる)
職権で変更登記をすることについて登記名義人に意思確認を行うのは、最新の住所を公示することに支障がある者(DV被害者等)が存在しうることやプライバシー保護の観点から住民基本台帳を閲覧することができる事由を制限している住民基本台帳制度の趣旨等を踏まえた措置です。
 
 
(2)法人の場合
 
①法務省内のシステム間連携により、法人の住所等に変更が生じたときは、商業・法人登記のシステムから不動産登記のシステムにその変更情報を通知することにより、住所等の変更があったことを把握する
商業・法人登記のシステムとの間の情報連携においては「会社法人等番号」を検索キーとすることを想定しており、また、改正法では、ある不動産についてどの法人が所有権の登記名義人として記録されているのかを厳格に特定し、その真正性を確保する観点から所有権の登記名義人が法人である場合には、会社法人等番号を登記事項とすることとしています。
 
 
②取得した情報に基づき、登記官が職権的に変更の登記をする(登記申請義務は履行済みとなる)
なお、法人について職権で変更登記をするにあたって登記名義人に意思確認を行わない点は自然人の場合と異なります。
 
 
 
4.施行日前に住所等の変更が生じていた場合の経過措置
 
 
住所等の変更登記の申請義務化は、改正法の施行日前に住所等の変更が発生していた場合にも適用されることになっています。
 
もっとも、申請義務の履行期間については、施行前から始まることがないように配慮されており、施行日前に住所等の変更が発生している場合は、施行日と住所変更があった日のいずれか遅い日から2年以内に住所等の変更登記をすればよいことになります。
 
 
 
5.さいごに
 
 
住所等の変更があった場合の登記について、今までは不動産を売却したり、抵当権などの権利の設定をするタイミングで一緒に行うことが多かったのですが、義務化以降はそういうわけにもいかなくなることが予想されます。いざというときに慌てないためにも、住所等に変更があったときは速やかにその登記を申請することが望ましいでしょう。
 
 
 
 

 
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