2022/6/3
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夫婦財産契約をご存じですか? |
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法務局で登記をすることができるものには土地の所有権や抵当権などの不動産登記、株式会社や合同会社といった会社や法人の登記などがありますが、その中に「夫婦財産契約」というものがあります。 ただ、近年の登記件数を見ても、年間20件前後というかなり少ない数ですので、なじみのない方のほうが大多数といえるかもしれません。(なお、夫婦財産契約は必ずしも登記が必要ではないため、実際に夫婦財産契約が作成されている件数でいえば、その数はもっと増えるでしょう)。 今回は、その「夫婦財産契約」についての説明です。 夫婦財産契約をご存じですか?
1.夫婦財産契約とは 「夫婦財産契約」とは、これから結婚をしようとする夫婦が婚姻前にする契約のことで、財産の管理方法、離婚する際の財産分与などについて、民法が定めている夫婦の財産関係(法定財産制)と異なる内容を婚姻前に決めておくことができるというものです。このほかにも、家事や育児の負担や不倫があったときの慰謝料の金額、離婚時の親権・養育費などについて決められることもあり、「婚前契約」「プレナップ」と言われることがありますが、両者は厳密な意味では異なるものです。 2.夫婦財産契約のメリット 夫婦財産契約をすることによるメリットには①夫婦や家族に対する価値観や意見のすり合わせができる②結婚生活や離婚時の揉め事や争いが減るなどがあります。 結婚をする前には、当然、結婚後の生活や家庭をイメージしているとは思いますが、それをじっくりと具体的に話し合ったうえでお互いに取り決めをしておくというケースはどれくらいあるでしょうか。もし、お互いに取り決めや約束をしたとしても、あとで内容が覆ったり、なし崩し的に約束がなかったことにされてしまうこともあるでしょう。また、離婚時にはお互いの関係が悪化していることも少なくはありませんので、その段階での話し合いには感情的なもつれから話がこじれることもあるでしょう。 このような場合に備えてあらかじめ夫婦財産契約で決めておけば、円満な結婚生活の維持やの離婚時の無用な争いを回避することが期待できます。 3.夫婦財産契約のデメリット 他方、夫婦財産契約を作成する際のデメリットもあります。例えば、夫婦財産契約に離婚に関する内容を書く場合、婚姻前であるにもかかわらず、すでに離婚のことを考えていることになることから相手から不審がられるかもしれません。また、夫婦の財産関係について事細かに決めておくことは「自分のことを信用していない」と思われてしまうこともあるでしょう。場合によっては、相手との関係が悪化し、破局に至ることも考えられます。 したがって、夫婦財産契約を提案する場合には、理由や目的を十分に説明し相手の理解を得られることが重要です。 4.夫婦財産契約をする際の留意点 夫婦財産契約をするうえでは次のような点に留意する必要もあります。 (1)婚姻前に行っておく 法律上は、夫婦財産契約は婚姻前にしなければならないと定められています(民法755条)。 (2)原則として、婚姻後の変更はできない 法律上、夫婦財産契約は婚姻後には変更できないと定められています(民法758条1項)が、ただし、例外として、「夫婦の一方が、他の一方の財産を管理する場合において、管理が失当であったことによってその財産を危うくしたときは、他の一方は、自らその管理をすることを家庭裁判所に請求することができる。」(民法758条2項)とされています。 (3)公正証書で作ることの要否 夫婦財産契約は、契約書を作成し、お互いに署名押印をすれば成立します(法律上、書面で作成することは求められていませんので、口頭でも契約は可能ですが、後のトラブル防止のための書面で作成することが一般的でしょう)。この点、公正証書ではなく私文書であっても内容や手続きに問題がなければ法的な効力が認められます。もちろん、当事者だけで契約をするよりも公証人の関与があったほうが、有効性の面で一定の効果は期待できるうえ、公正証書の原本が公証役場に保管されることで偽造や紛失を防止することができます。 (4)登記することの要否 民法756条には「夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。」と定められていますが、登記は夫婦財産契約が成立するための要件ではなく、あくまで第三者に主張するための要件です。したがって、登記をしていないからといって無効とされるわけでないことに注意が必要です。そうはいっても、夫婦以外の第三者、例えば相続人や夫婦の債権者などに対して夫婦財産契約の効力を主張してその効力に拘束させなければならない場合が出てくる可能性はあるため、やはり登記をしておくほうが安全でしょう。 (5)夫婦財産契約で税金を課される場合もある 例えば、夫婦財産契約で「婚姻中に夫婦の一方がその名において得た財産については、持分2分の1ずつの共有とする。」というように、得た財産の帰属を夫婦で共有するような取り決めをした場合、税務上の考え方では夫婦の一方が得た収入のうち、半分を他方に無償で移転することになるために贈与税の課税対象となり、思わぬ税金が発生する可能性があります。したがって、夫婦財産契約をする場合には、税理士などの専門家の知識に頼らなければならない場合もあるでしょう。 5.おわりに 夫婦財産契約を結ぶ過程では、これから夫婦になろうとする人が、双方が財産の状況や考え方を婚姻前に明らかにしておくことになります。お互いが隠しごとをしないで話し合いを行い、相互の価値観を確認、理解することができれば、強い信頼関係を築くことにもつながるため、円満な結婚生活の実現に貢献するでしょう。 また、考えたくはないものの、いざ起こってしまった場合に揉めやすい点(借金や離婚など)について、あらかじめ決めておくことで、問題がこじれずに済むことも期待できます。 夫婦財産契約は誰でも結ぶことができますので、財産上のトラブルが起こりやすい、もしくは起こってほしくないと考える方は特に結んでおくことを検討してはいかがでしょうか。
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