2022/6/19

相続した不要な土地を手放すことができる?相続土地国庫帰属制度とは?

土地利用の需要が低下したことなどにより、土地を相続したもののその土地を手放したいと考える人が増加したことや、相続を契機として望まない土地を取得した人の負担感が増加して管理の不全化を招いていることなどを受けて、「相続土地国庫帰属制度」という新しい制度が定められました。これにより、一定の要件を満たす場合には、相続によって取得した不要な土地の所有権を国に帰属させることができるようになります。
 
 
 
 
相続した不要な土地を手放すことができる?相続土地国庫帰属制度とは?
 
 
目次
1.相続土地国庫帰属制度とは
2.申請することができる者
3.土地の要件
4.手続の流れ
5.その他の留意事項
6.おわりに
 
 
1.相続土地国庫帰属制度とは
 
 
令和3年4月21日に「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下「相続土地国庫帰属法」と言います)が成立し、所有者不明土地の発生の抑制を図るため、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限ります。以下「相続等」といいます。)により土地の所有権又は共有持分を取得した者等がその土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度が創設されました。
 
 
(2)施行時期
 
相続土地国庫帰属法の施行日についてですが、同法の中に「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定められています。令和3年4月21日に成立した後、4月28日に公布されましたので、令和5年4月頃の施行が予定されていましたが、令和3年12月14の閣議決定により令和5年4月27日から施行されることになりました。
 
 
 
2.申請することができる者
 
 
法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請することができる者は、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により土地の所有権又は共有持分を取得した者等とされており、具体的には以下の者が該当します。
 
 
(1)単独所有の土地の場合
 
相続等により土地の全部又は一部を取得した者が申請することができます。例えば、父から相続により土地を取得した子が該当します。
 
 
(2)共有に属する土地の場合
 
相続等により土地の共有持分の全部又は一部を取得した共有者が申請することができます。例えば、第三者から父Xと子Aが土地を購入し、その後父Xの持分を子Aと子Bが相続により取得した場合の子A及び子Bが該当します。ここで、子Aの持分のうち、第三者から購入したときの持分は売買によるものであるため、これだけでは申請できる者の要件には該当しませんが、ほかに父Xから相続により取得した持分があるため申請が可能となります。
 
また、土地の共有持分の全部を相続等以外の原因により取得した共有者であっても、相続等により共有持分の全部又は一部を取得した者と共同して行うときに限り、申請が可能となります。例えば、第三者から父Xと法人Zが土地を購入し、その後父Xの持分を子Aが相続により取得した場合の法人Zは、本来であれば申請権限はないものの、子Aと共同すれば申請が可能となります。
 
 
 
3.土地の要件
 
 
土地の管理コストの国への不当な転嫁や土地の管理をおろそかにするモラルハザードの発生を防止する必要から、「通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地」に該当しないことを国庫帰属の要件として定めており、具体的には次のような要件があります。なお、あくまでも帰属対象となるのは「土地」であって「建物」が含まれていないことには注意が必要です。
 
 
(1)却下要件
 
承認申請は、その土地が次のいずれかに該当するときは、することができないこととされました。
 
・建物の存する土地
 
・担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
 
・通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
 
・土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限ります。)により汚染されている土地
 
・境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
 
 
(2)不承認要件
 
法務大臣は、承認申請に係る土地が次のいずれかに該当する場合には、その土地の所有権の国庫への帰属について不承認処分をすることとされました。
 
・崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限ります。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
 
・土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
 
・除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
 
・隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
 
・上記4つのほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
 
 
 
4.手続の流れ
 
 
相続等により取得した土地を手放して国庫に帰属させる手続きは大まかに次のとおりです。
 
 
① 承認申請
法務局に申請書と添付書類を提出し、その際申請手数料を納付します。申請書や添付書類の詳細はこれから定められる予定です。また、審査手数料も現時点では決まっていません。
 
 
② 審査
申請をしたら必ず承認されるわけではありません。前述のとおり、国庫に帰属させることができる土地には一定の要件が設定されており、法務大臣が審査を行います。
 
また、申請を受け付けた法務局には、事例によって職員による現地調査を行う権限が与えられており、さらに、国有財産の管理担当部局等に調査への協力を求めることができます。加えて、運用に当たっては国や地方公共団体に対して承認申請があった旨を情報提供し、土地の寄附受けや地域での有効活用の機会を確保しています。
 
 
③ 負担金の納付
法務大臣の審査を受けた人は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付します。負担金については地目、面積、周辺環境等の実情に応じて対応できるよう、詳細は政令で定められます。
 
10年分の管理費用の参考として、市街地の宅地(200㎡)であれば約80万円、粗放的な管理で足りる原野であれば約20万円と考えられているようです。
 
 
④ 国庫帰属
申請者が負担金を納付した時点でその土地は国庫に帰属し、以後、普通財産として国が管理・処分を行います。国庫への名義変更ですが、手続きは国が行いますので、申請者側から登記を申請する必要はありません。
 
 
 
5.その他の留意事項
 
 
ここまでに述べた内容についての補足として以下のようなものがあります。
 
 
(1)相続土地国庫帰属制度は山林、原野、農地でも利用は可能
 
帰属対象となる土地の種類については「宅地」に限られず、山林や原野、田・畑などの農地も含まれますが、前述の要件を満たす必要がありますので、例えば、境界が明確でなかったり、相続登記未了により所有権の帰属に争いがあるような場合には、制度を利用することが難しいと考えられています。
 
 
(2)売買により取得した土地については利用が不可能
 
売買により取得した土地が不要になったからと言って、この制度を利用して国に引き取ってもらうことはできませんが、その土地を相続によって取得した相続人であれば、この制度を利用することは可能です。ただし、国庫に帰属させるためには前述の要件を満たす必要があります。
 
 
(3)虚偽の申請に対しては損害賠償責任を問われる可能性がある
 
相続した不要な土地をどうしても手放したいからといって、虚偽の申請をしたり、前述の要件に該当することを知りながら、そのことを隠して承認を受けた場合、国に対して損害を賠償する責任を負う可能性があるため注意が必要です。
 
 
 
6.おわりに
 
 
不要な土地を相続した場合に、国庫に帰属させることができれば相続人の負担は軽減されますが、その要件はかなり厳しいため、施行後にどれだけ利用されるかは現時点では分かりません。すでに分かっている部分だけ見ても、適用される土地が限定的であるうえに、申請者の金銭的負担も大きく、あまり使い勝手の良い制度とはいえない可能性もあります。
 
相続した不要な土地を手放す方法としては、新しい選択肢ができたことになりますが、ほかにも相続放棄や売却などの方法があるため、司法書士や不動産業者などに相談し、十分に比較検討して決めることが望ましいでしょう。