2022/7/7
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相続放棄と固定資産税について |
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土地や建物を所有していると、毎年固定資産税を納めることになります。もし、土地や建物を所有する人が亡くなり相続が発生した場合、土地や建物を相続した相続人が固定資産税の納税義務者になりますが、ここで、相続人が相続放棄をした場合には土地や建物の所有者にはならないため、通常であれば固定資産税の納税義務が発生することはないはずです。 ところが、相続放棄をしたにもかかわらず、その後に固定資産税を請求されることがあるというのです。これはどういうことでしょうか。ここでは、相続放棄をしたにもかかわらず固定資産税を請求される理由とその対処法を説明します。 相続放棄と固定資産税の関係について
1.相続放棄したのに固定資産税を請求される理由 固定資産税とは、土地や建物などの固定資産に対して、市町村(東京23区の場合は東京都)から課税される税金です。そして、固定資産税の納税義務者は、その年の1月1日時点で課税対象となる資産を所有する人、具体的には、市町村等が管理している固定資産課税台帳に所有者として登録されている人です。したがって、相続放棄をした場合であっても、固定資産課税台帳に登録されることにより固定資産税の納税通知が送られてきます。
相続放棄とは、相続人が被相続人(亡くなられた方)の権利や義務を一切受け継がないことを言い、家庭裁判所に申述をして相続放棄が認められることで「初めから相続人でなかった」として扱われる法的な手続です。そうであるならば、相続放棄をした場合には相続財産である土地や建物などの固定資産も相続しなかったことになるはずなのに、なぜ、固定資産税課税台帳に登録されてしまうのでしょうか。考えられる理由には次のようなものがあります。 (1)相続人の推定を受けた 土地や建物の所有者(被相続人)が亡くなった年の固定資産税台帳は被相続人名義のままであり、その固定資産税は被相続人の納税義務として相続人が承継することになります。この被相続人の納税義務については、相続放棄をすれば納税する必要はありません(詳細は後述します)。 問題は、被相続人が亡くなった年の翌年度以降の固定資産税です。通常、被相続人の死亡によりその遺産は相続人が承継しますが、土地や建物について前年の12月末日までに相続登記が完了していれば、登記簿上の所有者が翌年度以降の固定資産税の納税義務者となります。しかし、前年の12月末日までに相続登記が完了していない場合には、相続人(相続人が複数の場合は相続人全員)が納税義務者として固定資産課税台帳に登録されてしまうことになります。その際、家庭裁判所から相続放棄が認められていたとしても、市町村等では相続放棄があったことを把握できないため、相続放棄をした人も納税義務を負う相続人として固定資産課税台帳に登録されるというわけです。 なお、相続人が複数いる場合、遺産分割協議がまとまるまでは、遺産は相続人全員で共有している状態ですが、市長村等からの納税通知は「相続人代表者(相続人代表者指定届を出した場合は指定された人、出さなかった場合は役所が指定した人)に対して送られてきます。
(2) 債権者代位登記をされた 固定資産課税台帳に登録された理由の一つとして、債権者代位登記をされた場合が挙げられます。債権者代位登記とは、債権者が自己の債権を保全するため、民法第423条の規定により、債務者の有する登記申請権を代位行使して登記を申請すること、または、そうして行われた登記のことです。例えば、土地や建物の所有者Aが亡くなった場合で、相続人Bが金融機関から借金をしているときに、その貸したお金を回収する手段を確保するために、金融機関が相続人Bに代わって、土地や建物の所有者の名義をAからBへと変える相続登記を法務局に対して申請することがありますが、この相続人Bに代わって金融機関が申請した相続登記が債権者代位登記です。 本来、法務局に対する相続登記は相続人本人から申請することが原則ですが、債権者が自らの債権を保全するために、債務者である相続人の登記申請権を代わりに行使することが認められています。その際、債権者は相続人の同意を得る必要はないことから、相続人が知らない間に勝手に相続登記がされることも少なくありませんし、既に相続放棄をしていたとしても、そのことを知らない債権者によって、土地や建物を相続した新たな所有者として登記されることがあります。このようにして登記記録上の所有者として記録された結果、固定資産課税台帳にも登録されてしまうというわけです。 2.相続放棄後に固定資産税の請求が来た場合の対処法 相続放棄をしたにもかかわらず、自分のものではない固定資産にかかる税金を請求されることには納得がいかないでしょう。しかしながら、固定資産税の課税については、台帳課税主義という原則により、固定資産課税台帳に登録された人が納税義務者として取り扱われることになっています。過去の裁判でも、市町村等は課税台帳に登録されているものに対して請求すれば足りることとされており、請求されたものは仮に真実の所有者でなくとも納税義務を免れることはできないとされています(平成26年9月25日最高裁判決)。 したがって、たとえ相続放棄をしていたとしても、固定資産課税台帳に登録されている以上、固定資産税の納税義務を免れることはできません。もし相続放棄後に納税通知が送られてきた場合に、納得できないからといって何もせずそのままにしておくと、財産の差押えといった滞納処分を受ける可能性も否定できませんので、速やかに何らかの対処をする必要があるでしょう。ここでは、主な対処法を説明します。 (1)いったん自分が立て替えた後に、本来の納税義務者に対して請求する 相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったものとして扱われるため、当然、固定資産を所有することはなかったことになります。それにもかかわらず固定資産税を支払った場合、「本来の納税義務者が支払うべきものを立替払いした」こととなるため、本来の納税義務者に対して、立替払いした分を返すように請求することができます。これを求償権といいますが、それにより事後的に自己の負担部分の回復を図る方法があります。 (2)課税処分に対する不服申し立てを行う 固定資産税の納税義務を負うのは、その年の1月1日時点において、固定資産課税台帳に登録されている者であり、その登録は基本的に法務局に備えられている土地や建物の登記簿の記載に基づくことになります。もし、上記の時点で、本来は別の人が登記名義人であったにもかかわらず、誤って固定資産税の納税通知が届いた場合など、事案によっては、固定資産税の課税処分に対する不服申立てを行う余地があります。ただし、不服申立てには期間制限があるため注意が必要です。 (3)固定資産課税台帳の記載を変更してもらう 家庭裁判所に相続放棄の申述をして認められた場合、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届きますし、または、家庭裁判所に対して相続放棄申述受理証明書の交付を請求することもできます。これを役所に持参し、相続放棄をしたことを証明して固定資産課税台帳の自己の記載を変更してもらう方法があります。ただし、相続放棄を申述しても受理されるのには一定の期間がかかるため、結果的には相続放棄が認められたにもかかわらず、固定資産課税台帳の変更が1月1日までに間に合わないことにより納税義務者とされる場合があるため注意が必要です。そのような場合でも、自治体によっては柔軟に対応してくれることがあるかもしれませんが、原則としては台帳課税主義のルールが適用されるため、あまり期待はできないものと思われます。 3.被相続人が生前に納めていなかった固定資産税を支払う必要はあるか? これまでは、相続放棄をしたにもかかわらず、その後に課税される固定資産税、言い換えると相続放棄をした人自身が納税義務者とされた固定資産税を納付しなければならないか、という点についての説明ですが、以下は、被相続人が亡くなった年、あるいはそれ以前の固定資産税、つまり被相続人が納税義務者となっている固定資産税について、相続放棄をした者に対してその請求や督促があったときにその支払いをしなければならないかどうかという点についての説明です。 民法第896条により、被相続人が死亡時に有していた一切の権利義務は、相続の対象になります。したがって、被相続人が亡くなった年、あるいはそれ以前の固定資産税の納税義務も相続の対象となり、相続人が固定資産税の納税義務を相続することになります。しかし、相続放棄をすれば初めから相続人ではなかったものとして扱われますので、被相続人の固定資産税の納税義務を相続することはなく、納税の必要もありません。ただし、その後にまた請求されることがないように市町村等に相続放棄をしたことを伝えておきましょう。
4.おわりに 相続放棄をしたにもかかわらず、その後に固定資産税の納税通知が届いたら、その通知を放置せず、よく状況を確認したうえで対処する必要があります。ご自身の判断だけでは心もとないと思われる場合には専門家に相談することをお勧めします。
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