2022/7/23
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特別の寄与 |
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平成30年に改正された民法で「特別の寄与」の制度が創設され、相続人ではない被相続人の親族が、被相続人に対して介護などの労務を無償で提供していたなどの要件を満たす場合に、その貢献の度合いに応じて遺産を請求することができるようになりました。 特別の寄与とは?
1.「寄与分」と「特別の寄与」 被相続人に対して特別に貢献した人に報いる制度として、民法には以前から「寄与分」の制度があります。しかし、寄与分が認められるのは相続人だけで、相続人でない人には認められません。 例えば、被相続人の相続人として子が2人(長男と二男)いたとして、被相続人が亡くなるまで、長男の妻が長年その介護に努めていた場合、長男の妻は相続人ではないため、いくら被相続人のために尽くしてきたとしても、寄与分を主張して相続財産の分配を請求することはできません。 長男の妻の貢献を、相続人である長男の寄与分として考慮することによって解決を図ることができる場合もあるかもしれませんが、もし長男が被相続人より先に亡くなっている場合には、このような考え方によっても相続財産の分配にはあずかれません。 その一方で、次男は、たとえ被相続人の介護を全く行っていなかったとしても、相続財産を取得することができますが、それではあまりにも不公平ではないかという指摘が従来からなされていました。 そこで、相続人ではなくても、被相続人の療養看護をし、その財産の維持・増加に寄与した者については、その貢献が報われることが実質的公平に適うという観点から、相続人に対して寄与に応じた額の金銭の支払を請求ができる制度が設けられました。 この新しい制度を「特別の寄与」といい、相続人ではない被相続人の親族で、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者を「特別寄与者」、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭のことを「特別寄与料」といいます。 この制度は令和元年7月1日から施行されており、同日以降に相続が開始した、つまり同日以降に被相続人が亡くなった場合に適用されます。 2.特別の寄与が認められるための要件 特別寄与者として、相続人に対する特別寄与料の支払請求権が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。 (1)被相続人の親族であること 特別寄与者の範囲は、被相続人の親族に限られています。つまり、被相続人からみて、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族に認められているということです。 ただし、親族であっても相続人や相続放棄や相続欠格、廃除によって相続人の資格を失った人は含まれません。 (2)被相続人に対して療養看護その他の労務の提供をしたこと 特別寄与料の請求が認められるには、被相続人に対する療養看護などの「労務の提供」が必要とされています。相続人に認められている「寄与分」と異なり、被相続人に対する財産上の給付では認められません。 例えば、被相続人が行っている事業に出資をした場合、寄与分が認められることはあっても、特別寄与料は認められません。 (3)被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと 被相続人に対する労務の提供によって被相続人の財産が維持又は増加したという関係性を必要としています。 そもそも、この制度は、貢献の度合いに応じて遺産を請求することができるようにすることが実質的公平に資するという考えに基づいていますから、貢献によって遺産の維持又は増加という効果が発生していない場合には、特別寄与料を認める必要はないということです。 また、「特別の寄与」の意味についてですが、「寄与分」を請求する場合にも、被相続人と相続人との身分関係によっては扶養義務や協力扶助義務といった法律上の義務があるため、通常期待されるような貢献では寄与分を認めるには足りないという意味で「特別の寄与」が必要だとされています。 しかし、特別寄与者は相続人ではないのでこれと同じように考える必要はなく、ここでの「特別の寄与」とは、一定程度以上の寄与、つまりその者の貢献に報いるのが適当だといえる程度に顕著な貢献があることを意味するとされています。 (4)無償であること 被相続人に対する労務の提供が「無償で」行われたものであることが必要です。ただし、被相続人から何らかの財産給付を受けていた場合であっても、その財産給付が労務の提供の対価とはいえない場合には、寄与料の請求が認められる可能性はあります。 3.特別寄与料の請求方法 上記の要件をすべて満たす場合、特別寄与者は相続人に対して特別寄与料の支払を請求することができます。その方法ですが、まずは特別寄与者と相続人との間の協議で、特別寄与者の請求を認めるのかどうか、また認めるとしてその金額をいくらにするかについて決めることになります。なお、特別寄与料の額については、法律上、相続財産の価額から遺贈の価額を差し引いた残額以内にしなければならないことには注意が必要です。 もし、特別寄与者と相続人との間で協議ができない、あるいは協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます。
4.特別寄与料を請求できる期間 特別寄与料の支払については、まず相続人と協議をすることが前提となっており、協議ができない、あるいは協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます。ただし、相続の開始及び相続人を知った日から6ヶ月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときには、この請求はできなくなってしまいます。もし、特別寄与料の支払を請求する場合には、相続が開始してからの期間の経過にも十分注意を払う必要があります。 5.特別寄与料の計算 特別寄与料の算定については、まずは協議によって決めるものとされていますので、当事者同士で話し合うことが想定されています。 協議ができない、あるいは協議がまとまらず、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求した場合、家庭裁判所では、寄与の時期・方法及び程度・相続財産の額・相続債務の額・被相続人による遺言の内容・各相続人の遺留分・特別寄与者が生前に受けた利益などの事情を総合的に考慮して特別寄与料の額を決めることになります。 最も典型的なケースになると思われる療養看護型については、「介護報酬」が一つの目安となり、以下の計算式で考えます。 特別寄与料=介護日数×介護報酬相当額×裁量割合 「介護報酬基準額」は、介護等の専門家への報酬を前提とした金額ですので、親族が介護をした場合との調整のために「裁量割合」を掛けます。家庭裁判所の判断によることになりますが、元々、親族には扶養義務があり、介護等の専門家ではないことから、0.5〜0.7の割合にすることが多いと言われています。 例えば、介護日数が300日、介護報酬相当額が1日5000円、裁量割合が0.7の場合、寄与料は105万円になります。 ただし、家庭裁判所で介護などの貢献による特別寄与料を認めてもらうためには、実際に行った介護の日数や内容を具体的に主張し、裏付けとなる証拠を提出したほうが有効でしょう。そのため、要介護認定通知書や診断書などの客観的な資料はもちろん、日頃から介護日記をつけたり、介護などのために支出した費用があればその領収書など保管しておくなど、介護の記録を残しておくことが大切です。 6.特別寄与料と相続税との関係 特別寄与料は相続税の課税対象になります。特別寄与料をもらった人だけでなく、請求に応じて支払った相続人も手続が必要になる場合があります。 (1)特別寄与者について 特別寄与者は、特別寄与料に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなされます。したがって、相続税の課税対象となるとともに、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外となることから、相続税額の2割加算に該当しますので注意が必要です。 (2)相続人について 特別寄与料を相続人が支払った場合、その金額は債務控除の対象となるため、相続財産から控除することができます。 7.おわりに 「特別の寄与」の制度は、被相続人のために尽くしたのにもかかわらず、相続人ではないという理由で遺産の分配にあずかれないといった不公平な結論になることを回避するために創設された制度です。 しかし、相続人からみれば、特別寄与者の出現は自らが受け取る遺産の減少につながるものであることや、この制度が比較的新しく十分に周知されていないことなどから、すんなりと受け入れてくれるとは限りません。 親族間で不要な争いが発生するのを避けるためにも、特別寄与料を請求することを考える場合には、被相続人に対する労務の提供の記録を残しておくことや、そのことを相続人に十分に理解してもらうことが大切です。 また、被相続人が、特別寄与者になる人に対して財産を遺贈する内容の遺言を作成したり、特別寄与者になる人を受取人とする生命保険に加入するなど、特別寄与者となる人が、特別寄与料の請求をしなくても確実に財産を受け取れるようにするための生前対策も有効だと考えられます。 そのほか、特別寄与料について不安なことや疑問があるときには、専門家に相談して助言を受けてみるのもよいでしょう。 |
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