2022/8/5
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兄弟姉妹が相続人になる場合の注意点 |
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実際に財産を受け取るかどうかにかかわらず、民法の規定により相続する権利をもつ人を「法定相続人」といい、被相続人(亡くなった人)が遺言を残していない場合、相続人になる人の範囲と順位は法律に基づいて決まります。 被相続人に配偶者がいるときには、配偶者は常に相続人になり、配偶者以外の相続人には、三つの順位が決められています。この順位を「相続順位」といい、以下のように決められています。 第1順位・・・子供(直系卑属) 第2順位・・・親(直系尊属) 第3順位・・・兄弟姉妹 第1順位、第2順位の相続人が全員いない場合、あるいは、相続放棄をした場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人となりますが、兄弟姉妹が相続人になるケースでは、先順位の相続人とは少し取扱いが異なる部分があります。 兄弟姉妹が相続人になる場合の注意点
1.遺留分 遺留分とは、一定の法定相続人に対して、法律上保障された最低限度の相続分の割合のことをいいます。 遺留分を侵害された場合、その分を請求できる権利がありますが、遺留分が認められている相続人は①配偶者②子(代襲相続人を含む)③直系尊属(父母・祖父母など)です。 したがって、法定相続人のうち兄弟姉妹には遺留分が認められておらず、例えば、ある人が亡くなり、その配偶者と兄弟姉妹が相続人となるようなケースにおいて、「全財産を配偶者に相続させる」というような遺言があった場合に兄弟姉妹は遺留分を請求することはできません。 もし、被相続人が兄弟姉妹へ相続財産を渡したくなければ、遺言書を作成して、他の人に全財産を相続あるいは遺贈する旨を記載するだけで目的を達することができるというわけです。 ただ、遺留分が認められていないものの、①遺言書の無効を主張する②寄与分を主張するといった方法で、兄弟姉妹が遺産を受け取ることができる可能性はあります(「寄与分」とは、相続財産の維持・増加について特別の寄与があった相続人につき、寄与度に応じて認められる相続分の増額分のことです。寄与分の金額は、原則として、相続人同士の協議により決定されますが、協議がまとまらない場合には、家庭裁判所が様々な事情などを総合的に考慮して、寄与分の金額を定めることになります)。しかし、これらはあくまでも可能性があるというだけで確実ではありません。 兄弟姉妹が被相続人の財産を確実に受け取りたい場合は、生前に被相続人だけでなく、その配偶者や子などの関係者と良好な人間関係を構築して、自分に遺産を遺す内容の遺言を作ってもらうなどの対策が必要でしょう。 2.全血の兄弟姉妹と半血の兄弟姉妹 被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合において兄弟姉妹が複数いたとき、基本的に各自の相続分は均等となりますが、父母の双方が同じかそうでないかによって相続分が変わることもあります。 法定相続分を定めた民法900条は次のようになっています。
ここで、父母の双方を同じくする兄弟姉妹のことを「全血の兄弟姉妹」、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹のことを「半血の兄弟姉妹」といいますが、全血か半血かによって相続する順位に差はなく、いずれも同じ第三順位の相続人となるものの、相続分については、半血の兄弟姉妹の相続分は、全血の兄弟姉妹の相続分の2分の1となります。 例えば、被相続人Aの相続人が、兄弟姉妹BとCの2人だった場合、どちらも父母を同じくする全血の兄弟姉妹であれば相続分は2分の1ずつとなりますが、もしBが全血の兄弟姉妹で、Cが半血の兄弟姉妹である場合、Bの相続分は3分の2、Cの相続分は3分の1となります。 ところで、「全血の兄弟姉妹と半血の兄弟姉妹の相続分」と混同しやすいものに「嫡出子と非嫡出子の相続分」があります。 かつては、全血の兄弟姉妹と半血の兄弟姉妹の相続分と同じく、「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1」と定められていましたが、最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定によりその区別が違憲であると判断され、その後の法改正により、非嫡出子に関しては嫡出子と同じ相続分となりました。しかし、全血と兄弟姉妹と半血の兄弟姉妹に関しては、現在でも半血の兄弟姉妹の相続分は全血の兄弟姉妹の2分の1となっています。この点は誤解しないように注意しましょう。 3.代襲相続 「代襲相続」とは、本来相続人となる被相続人の子又は兄弟姉妹がすでに亡くなっていた場合などに、その者の子が代わって相続することを言い、代襲相続をする人のことを、代襲相続人と言います。また、代襲相続人も被相続人より先に亡くなっていた場合に、代襲相続人の子が相続人になることを「再代襲相続」と言い、例えば、被相続人である親よりも先に、相続人である子と代襲相続人である孫が亡くなっている場合において、孫の子(ひ孫)がいたら、そのひ孫が再代襲をして相続人となります。 再代襲相続は、子や孫といった直系卑属の場合には、要件さえ満たしていれば制限なく行われます。これに対し、兄弟姉妹が相続人となる場合の再代襲相続は、”現在では”認められていません。つまり、兄弟姉妹についての代襲相続は一代限り(甥・姪まで)ということです。 かつては、民法に兄弟姉妹が相続人となる場合であっても再代襲相続されるという規定がありましたが、昭和55年の民法改正によって、その規定は削除されています。 もっとも、その規定が削除される前、具体的にいうと昭和23年1月1日から昭和55年12月31日の間に開始した相続については、兄弟姉妹が相続人となる場合であっても再代襲相続が認められていますので、もし何代も前に発生した相続について、さかのぼって相続手続を行う場合には注意が必要です。 4.戸籍集めが大変 民法では相続する順位が定められており、第1順位が子、第2順位が直系尊属、そして、第3順位が兄弟姉妹となっています。なお、配偶者は常に相続人となります。 相続手続を行う際には、原則として被相続人の相続関係を証明する全ての戸籍謄本等が必要になります。兄弟姉妹が相続人となる場合は、先順位である子や直系尊属がいないことを証明することになりますが、その際、一般的に必要となる戸籍は以下のとおりです。 ・被相続人(亡くなった兄弟姉妹)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等 ・被相続人の父母(場合によっては祖父母も)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等 ・相続人となる兄弟姉妹の現在の戸籍謄本 このほか、相続人となる兄弟姉妹が既に亡くなっていた場合には、その兄弟姉妹の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等が必要になるなど、場合によって必要な戸籍は膨大な量になることもあるため、戸籍を集めるだけでも大変です。 5.相続税の2割加算 相続によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の人である場合には、相続税の負担の均衡を図る目的で、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます。したがって、被相続人の兄弟姉妹が遺産を相続したときは、相続税が2割加算されることになります。 6.相続人となる兄弟姉妹全員が相続放棄した場合は相続人不存在となる 現行の民法では、相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者がその相続財産の管理を始めることができるまで、自分の財産と同じように注意を払ってその相続財産の管理を継続する義務を負うとされています。 兄弟姉妹が全員相続放棄した場合、その子が代襲相続することはなく、また、次順位の相続人もいないため、相続人が誰もいない「相続人不存在」という状態になりますが、この場合には、相続放棄をした兄弟姉妹に相続財産の管理義務が残ると考えられています。 このような場合に相続放棄者が相続財産の管理義務を免れるためには、家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任を申し立てる必要がありますので、例えば、相続財産の中に不動産などの積極財産がある場合に相続放棄をするときは注意が必要です。 なお、この点については令和3年の民法改正により、相続放棄者は、相続の放棄の時に現に占有している相続財産につき、相続人(法定相続人全員が放棄した場合は、相続財産の清算人)に対して当該財産を引き渡すまでの間、その財産を自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならないとされました。つまり「現に占有」していることが管理(保存)義務の要件となるため、相続人が実際に占有(=事実上の支配)していない相続財産については、管理(保存)義務の対象外になります。この改正は令和5年4月1日の施行となっています。 |
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