2022/8/11
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定款整備の重要性 |
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定款(ていかん)とは、会社の組織や運営に関する基本的なルールを定めたもので「会社の憲法」とも言われています。会社を設立する際には定款を作成する義務があり、設立後の会社運営も定款に従って行われます。 また、会社設立後も、定款は適宜変更することができ、会社の自治法規として働くことになります。 会社の中には設立してから一度も定款の内容を見直したことがない、というケースもありますが、度重なる法改正により、定款自治の範囲も拡大しています。 つまり、定款を現行法に基づいてきちんと整備することで、無用な紛争を防止することや、改正によって定款に定めることができるようになった事項を活用し、経営課題に対処することも考えられます。 今回は、定款を整備することの重要性について解説します。 定款整備の重要性
1.定款とは? 「定款」とは、法人の目的・組織・活動に関する根本的な規則、またはこれを記載した書面・電磁的記録のことをいい、特に、前者を「実質的意義の定款」、後者を「形式的意義の定款」といって区別することもあります。定款は、株式会社だけではなく、公益法人・社団法人・財団法人・各種協同組合などにおいても作成されます。 株式会社には、「定款」を本店及び支店に備え置く義務(会社法第31条第1項)や、株主や債権者からの閲覧等の請求に応じる義務(会社法第31条第2項)があります。この義務に違反した場合、(代表)取締役は100万円以下の過料に処せられる旨が会社法に規定されているのですが、こうした過料は、会社に対してではなく、(代表)取締役個人に対して科され、登記されている(代表)取締役の住所に通知がなされます。義務に違反したからといって必ずしも過料が科せられるというわけではありませんが、「定款」には、必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)のほかにも株主総会・取締役会の招集方法、決議要件、議長の定め、役員の任期等重要な事項が規定されています。したがって、現行の定款が確認できなければ、株主総会・取締役会が適法に開催・運営できていることが確認できないこととなり、これを無視して株主総会・取締役会を行ってしまうと、手続に瑕疵が生じてしまうおそれがあります。
2.定款の内容に関する注意点 いざ、何かが起きた時に、解決の拠りどころになるのが定款です。後述するように、株主や役員、債権者から定款の提示を求められたときに正しい定款を見せることができなければ、さらなるトラブルを招くことになりかねません。「うちの会社にちゃんと定款があるから大丈夫」だと思われる場合でも、次のような点を確認しておくのが望ましいでしょう。 (1)現行法に従った用語が使われているかどうか ① 旧商法時代の用語が使用されている場合 商法とは、会社や個人事業主といった商売を営む主体(商人)及び商人が行う営業や売買などの商行為について定めた法律です。会社法が会社のみを規定しているのに対して、商法は個人事業主など会社以外の形態にも適用される法律です。商法が制定されたのは明治時代であり、その後時代に合わせて何度も改正されながら現在に至っています。そして、平成17年に商法の大きな改正が行われ、この時に会社法が誕生しました。商法にはもともと会社に関する規定も含まれていましたが、平成17年の会社法の施行にともない、会社に関する規定である第2編が削除されています。 平成17年より前の旧商法時代の用語には、次のような用語があり、もし株式会社の定款にこれらの用語が使用されている場合は、現行法に基づいた定款になっていない可能性がありますので、全体的に見直しをした方が良いと考えられます。
② 定款変更決議の必要性 平成18年5月1日会社法改正以後、必ずしも定款変更決議を行って現行法に基づいた用語による定款を作成する必要はありませんが、後述のように株主及び債権者からの閲覧・謄写請求に対する一定の備えは必要となります。また、法令上は旧法に基づいた用語を使用したままでも問題ない場合であっても、現行法に基づいた正しい用語、内容の定款とすることが望ましいということは言うまでもありません。例えば、旧法下に基づく会計処理方法が記載されている場合や旧法下においてのみ認められている制度が記載されている場合には、定款記載事項の内容と法令の要件とどちらも遵守する必要があるのかなど、会社運営に疑義が生じるおそれがあります。 ③ 閲覧等の請求をした者に対し開示しなければならない事項 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」といいます。)では、会社法施行後に株式会社がその株主及び債権者による定款の閲覧、謄写請求(会社法第31条第2項各号)に応じる場合には、当該請求をした者に対し、定款に記載又は記録がないものであっても、整備法の規定により定款に定めがあるものとみなされる事項を示さなければならないとされています(整備法第77条)。 実務的には、日常業務として取締役会の決議により、又は、株主の理解を得られるよう他の変更事項と一緒に定款変更決議を経るか、あるいは報告事項として報告するなどの方法で、整備法のみなし規定に沿って書面としての定款全体を修正したものを備え置くか、定款全体を修正しない場合は、整備法のみなし規定により定款に定めがあるものとみなされる事項を別紙として用意し、現行定款とともに備え置くといった方法が考えられます。なお、別紙については、次のような文書が想定されます。 (別紙の例)
(2)有限会社の定款がそのままになっていないか ① 旧有限会社法に基づく定款になっている場合 平成18年5月1日の会社法施行と同時に有限会社法が廃止され(整備法第1条第3号)有限会社制度は、株式会社制度に統合されています。もっとも、旧有限会社法で設立運用されてきた有限会社は、整備法の経過規定に基づいて会社法上の株式会社として存続しており(整備法第2条第1項)、旧有限会社法時代の用語を用いた定款については、それに対応するみなし規定が置かれています(整備法第2条第2項)。つまり、根拠法が廃止されたとはいえ、全ての有限会社が消滅するわけではなく、旧有限会社法に基づく有限会社は、新たに施行された会社法の株式会社として存続しているというわけです。この会社のことを「特例有限会社」と言います。なお、商号としての「有限会社」は継続して使用することが可能です。 特例有限会社も、上述の「旧商法時代の用語を使用している定款」と同様、必ずしも定款変更決議を行って現行法に基づいた用語による定款を作成する必要はありませんが、やはり株主及び債権者からの閲覧・謄写請求に対する一定の備えは必要であり、また、現行法に基づいた正しい用語、内容の定款とすることが望ましいことは言うまでもありません。 ② 閲覧等の請求をした者に対し開示しなければならない事項 整備法では、会社法施行後に特例有限会社がその株主及び債権者による定款の閲覧、謄写請求(会社法第31条第2項各号)に応じる場合には、当該請求をした者に対し、定款に記載又は記録がないものであっても、整備法の規定により定款に定めがあるものとみなされる事項を示さなければならないとされています(整備法第6条)。実務的には、日常業務として取締役の決定により、又は、株主の理解を得るよう他の変更事項と一緒に定款変更決議を経るか、あるいは報告事項として報告する等して、整備法のみなし規定に沿って書面としての定款全体を修正したものを備え置くか、定款全体を修正しない場合は、整備法のみなし規定により定款に定めがあるものとみなされる事項を別紙として用意し、現行定款とともに備え置くか等が考えられます。別紙としては、次のような文書が想定されます。 (別紙の例)
(3)定款と登記簿謄本の内容が一致しているか ① 定款と履歴事項証明書の内容が一致していない場合 定款変更については、現行法に則った手続を実施したものの、その変更内容が会社の登記記録に反映していない場合や、反対に、登記手続だけを実施し、その変更内容が記載又は記録されているはずの定款の方が変更されていない場合があります。商号、目的、本店所在地、公告方法、発行可能株式総数、株式の譲渡制限に関する規定、機関設計、役員の責任免除に関する規定、監査役の権限等々ありとあらゆる登記事項について、登記記録と定款が合致しているか確認する必要があります。もし、変更事項が反映されていない古い定款を開示してしまうと、虚偽の情報を開示していることとなりますので、提出先によっては大問題となる可能性があるためです。また、定款変更手続きだけを実施して登記していない場合には、登記すべき事項について、第三者に対抗することができませんし(会社法第908条第1項)、申請の時期によっては過料に科せられるおそれがあります。 ② 登記記録の文言と定款の文言とが完全一致しない場合 登記記録の文言と定款の文言は、完全に一致していることが望ましいと考えられますが、定款の文言が登記記録の文言の実質を備えているときは、必ずしもその変更登記を申請する必要はないと考えられています。 (4)役員の任期が何年になっているか ① 役員任期の再検討の要否 平成18年5月1日会社法改正により、発行する株式の全部に譲渡制限がある株式会社(公開会社でない株式会社)においては、定款によって、取締役又は監査役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができるようになりました。 任期を伸長することで、改選手続にかかるコストを削減できるというメリットが考えられる一方で、役員の構成を見直す機会が減少することがデメリットにもなりえることには注意が必要です。例えば、解任したい取締役がいたとして、残りの任期が短期であれば任期満了による退任を待てばよいところ、残りの任期が長い場合には、やむを得ず「解任」の手続をとることを検討する場合もあるでしょう。しかし、解任となった場合に、その解任について正当な理由がない場合には、解任によって生じた損害(例えば、任期中に得られたであろう報酬総額)の損害を請求される可能性もあります(会社法第339条第2項)。 また、役員の任期が満了した場合、たとえ同一の役員が継続する場合でも役員変更(重任)登記をする必要があります。役員の任期が長くなれば、つい任期満了の時期を忘れがちになってしまいますが、それにより役員変更の手続を怠れば、過料の制裁が科されてしまうかもしれません。単純に任期を最長にしておくのではなく、会社の実情を踏まえた任期規定を定めることも大切です。 ② 名前だけの役員の整理 旧商法下では、取締役会と監査役は必ず置くことが求められていましたが、平成18年5月1日会社法改正により、株式会社では様々な機関構成を任意に採用することが可能になり、取締役1名のみの会社も認められています。もし、旧商法時代の機関構成が現在まで続いており、会社の経営にかかわっていない名目上の役員がいるような場合には、機関設計の見直しを検討してみることも必要かもしれません。 3.おわりに 定款を整備する際には、インターネット上で公開されている一般的なひな形を利用することも一つの方法ですが、さらに踏み込んで、会社の実情に合った内容に変えていくことが、円滑に会社を運営するためにも大切なことです。定款の見直しを検討する際には、司法書士などの専門家を活用して、会社独自の定款を作成してみてはいかがでしょうか。 |
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