2022/8/16

株主名簿整備の重要性

株主名簿とは

 
株主名簿とは、株式を発行する会社が、自社の株主状況を把握、管理するために作成する名簿です。特段、決まった書式というものはなく、以下の事項が記載されていれば独自の書式を作成しても差し支えありません。
 
株主名簿に記載すべき事項
・株主の氏名または名称および住所
・株主の有する株式の数
・株主が株式を取得した日
・株券の番号(株券が発行されている場合)
・質権者の氏名または名称および住所(質権の設定がある場合)
・質権の目的である株式の数(質権の設定がある場合)
 

株主名簿に関する会社の義務

 
株式会社には、株主名簿に関して、以下のような義務があります。
 
株主名簿の備え置きの義務
株式会社は、一定の法定事項(株主名簿記載事項)を記載し、又は記録した「株主名簿」を作成し(会社法第121条)、これを会社の本店に備え置かなければなりません(同法第125条第1項)。
 
閲覧等の請求に応ずる義務
株主及び債権者は、会社の営業時間内は、いつでも、「株主名簿」の閲覧又は謄写、「株主名簿」が電磁的記録をもって作成されているときは、記録された事項を表示したものの閲覧又は謄写の請求をすることができ、会社は一定の事由に該当する場合を除き、これを拒むことができません(会社法第125条第2項及び第3項)。
 
株主名簿記載事項を記載した書面の交付
定款に株券を発行する旨を定めていない株式会社の株主は、株主名簿に記載され、又は記録された自己についての株主名簿記載事項を記載した書面又は記録した電磁的記録の提供を請求することができ、会社は、当該書面又は電磁的記録に代表者が署名若しくは記名押印、又は電子署名をして交付又は提供しなければなりません(会社法第122条)。
 
義務に違反した場合
上記の義務に違反した場合、(代表)取締役は100万円以下の過料に処せられる旨が会社法に規定されています(会社法第976条第4項、第8項)。こうした過料は、会社に対してではなく、(代表)取締役個人に対して科され、登記されている(代表)取締役の住所に通知がなされます。
 

株主に異動等があった場合の株主名簿の書換

 
次のような理由で、株主に異動等があった場合は、株主は株主名簿への記載又は記録をするよう請求することになります。こうした株主名簿の書換は、株主にとってその権利を行使するために重要な手続ですが、会社としても株主に関する情報を管理するうえで株主名簿を最新の内容に更新しておくことは有意義なことです。ただし、株主名簿の書換を行う場合には、瑕疵のない手続を経ることが、株式に関するトラブルの防止の観点からも望ましいでしょう。
 

株式の譲渡があった場合

 
株主は、その所有する株式を譲渡することができます(会社法第127条)。譲渡による株式の取得について、会社の承認を要する旨を定款に定めることはできますが、譲渡すること自体を禁止する定めを置くことはできません。譲渡による取得について会社の承認を要する旨を定めた場合に、譲渡による取得を承認するよう請求があったときは、一定の手続が必要となります。会社がその請求を承認しないこともできますが、承認を請求する株主又は譲渡人は、請求する際に、承認しない場合は会社自身による買い取り、あるいは、買い取る者を指定するよう請求することができます。こうした手続によって、株式を取得した者(会社自身を除く)は、株主名簿の書換を請求することになります。
 

株主が死亡して相続が発生した場合

 
株式は財産権として、相続の対象となります。株主が死亡して相続が発生した場合、遺言や遺産分割等の手続を経て、死亡した株主の所有していた株式を取得する者が決まります。相続が発生しても、遺産分割協議が成立しないために具体的な相続人が確定しないような場合には、株主の相続人は①いったん相続人全員名義に株主名簿の書換を請求し、具体的な相続人が確定した時点で、改めて当該相続人名義に書換の請求をすることができますし、②具体的な相続人が確定した時点で、死亡した株主から、直接、当該相続人名義に書換を請求することができます。また、具体的な相続人が決まらない間に、株主としての権利行使をする必要がある場合、権利行使者を定めて、会社に通知し、権利を行使する場合もあります。
 

株主の住所等に変更があった場合

 
株主に住所等の変更があった場合、株主は「株主名簿」の記載又は記録を変更するよう請求することになります。会社が行う株主に対する通知等は、「株主名簿」に記載又は記録された住所(通知場所を別に登録している場合はその場所)にすれば足りるため、この記載又は記録を変更しておかないと、会社からの通知等が届かないおそれがあるからです。
 

株主名簿を整備することの意義

 
会社の法務に関する事項を検討するうえで、会社の株主がどこの誰であるのか、どのくらいの株式を保有しているのかを把握しておくことは、非常に重要なことであり、そのためには会社が適切な株主名簿を備えておくことが必要です。ここでは、以下のような場合に、株主名簿を備えておくことの意義を解説します。
 

経営者や後継者以外の方が株主となっている場合

 
会社の中には、経営者や、将来その会社の経営を承継する予定の後継者「以外」の方が株式を保有している場合が少なくありません。しかし、例えば、株式を保有していた役員や従業員が退任、退職した場合、あるいは、株式を保有していた重要な取引先との取引がなくなった場合や、取引が継続しているとしても、その取引先の経営者が変わった場合、そうした株主が以前と変わらずに会社の経営に協力してくれるかどうかは不透明です。また、株式を保有したまま退任した役員や退職した従業員に相続が発生し、会社の株式が相続されたような場合に、その相続人が会社の経営に協力してくれるかどうかについても同様のことが言えるでしょう。こうしたことから、経営者やその後継者以外に株式が分散している場合は、次のようなリスクがあることを留意しておく必要があります。
 
株式分散のリスク~決議要件~
経営者及びその後継者以外の株主が、会社の株式の議決権の過半数を保有している場合、経営者とその後継者のみで株主総会の決議を成立させることができないことになり、円滑な経営を妨げる原因にもなり得ます。また、経営者とその後継者で過半数の議決権を保有していたとしても、経営者とその後継者以外の株主の議決権が3分の1を超えている場合は、経営者とその後継者のみで株主総会の特別決議(会社法第309条第2項)を成立させることができないことになり、株主総会で重要な決定をすることができないこともあり得ます。
 
株式分散のリスク~株主としての権利~
経営者及びその後継者以外の株主が、たとえ1株しか保有しておらず、株主総会の決議の成立には影響しないような場合であっても、株主であれば行使できる権利があります。例えば、グループ会社の組織を見直すため、会社を合併しようとした場合に、1株しか保有していない株主が反対することもあります。この場合、当該株主は、株式を買い取るよう請求することができるだけでなく、一定の場合には、合併自体をやめるよう請求することもできます。もちろん、当該請求により、必ず合併ができなくなるわけではありませんが、会社、経営者及び後継者はそれに対応することが必要となります。それ以外にも、株主総会議事録や取締役会議事録等の閲覧権や、取締役会を設置していない会社では、1株しか保有しない株主であっても、株主総会の議題の提案権もあります。また、保有する株式を会社にとって好ましくない者に譲渡することも可能で、仮に当該株式の譲渡による取得を会社が承認しない場合であっても、当該株式の買取請求に対応しなければならないことも想定されます。
 
上記のようなリスクを回避し、円滑に経営を継続していくためには、必要に応じて会社や経営者あるいはその後継者による株式の買取を検討する場合があるかもしれません。ところが、もし適切な株主名簿を整備されていないとしたら、このようなリスク管理が不十分になってしまうことが考えられます。
 

名義株がある場合

 
名義株とは、真実の所有者と名義上の所有者が異なる株式のことをいいます。たとえば、平成2年の商法改正までは、会社を設立する際に7名以上の発起人が必要でした。しかし、実際に出資者を集めることが難しいケースもあり、親族や従業員等から名義を借用して発起人とする場合もあったようです。こうしたケースで名義株が生じ、そのまま解消されずに現在に至っている会社も存在し、しかも、現在は、そうした名義株主と関わりがなくなっていることも少なくありません。
 
名義株について、最高裁は、実際に出資をした者を株主であるとしています(昭和42年11月17日最高裁第2小法廷判決)。しかし、設立から長い時間が経った会社であれば、実際に出資したことを証明するための資料が廃棄されてしまっていたりして、証明することができない場合もあります。そうした状況の中、当該名義株主が株主として株主総会に参加し、議決権を行使したことが内容に含まれる株主総会議事録が存在していたり、あるいは、剰余金の配当をしたことがあったりすると問題は複雑になります。
 
名義株がある場合、その解消法としては、まず資料を収集するなどして、これまでの経緯を確認することになると思われます。そのうえで、名義株主と交渉し、場合によっては、当該株主から株式を買い取るといった対応をすることになるでしょう。しかし、そうした手段をとるうえで、名義株主がどこの誰であるのか、また、名義株主と連絡をとることができるのか、という点は最初に必要となる情報です。この点、株主名簿を整備しておくことは名義株の解消するための第一歩となるでしょう。
 

所在不明株主がいる場合

 
株主が転居をしたにもかかわらず、会社への届出をしていない場合や、会社の株主に相続が発生したにもかかわらず、亡くなった株主の相続人が、その株式が遺産に含まれていることを把握しておらず、株主名簿の書換の請求をしていないことなどによって、所在が分からない株主(所在不明株主)が生ずることがあります。
 
所在不明株主がいる場合、会社は、必要な通知等は株主名簿上の住所に行えば足りることになっています。しかし、所在不明株主であっても、株主としての権利は他の株主と変わりはありません。通知等は株主名簿上の住所に行わなければなりませんし、会社が剰余金の配当等をした場合、配当金は原則として持参債務とされているため(会社法第457条)、会社が株主に対して提供をしなければならず、株主が取りに来るまで待っているということはできません。場合によっては、供託という方法を検討する必要があることから、所在不明株主の対応には苦慮することがあるかもしれません。
 
なお、株主に対する通知等は、5年以上継続して到達しない場合は、通知等は要しないとされています(同法第196条第1項)。
 
所在不明株主の解消の方法としては、会社法第197条の規定により、当該株主名義の株式を競売や任意売却し、その代金を所在不明株主に交付する方法があります。しかし、この方法は、株主名簿上の住所に5年以上継続して通知等が届かないことや剰余金の配当を受領しないことが要件であり、実際にこの方法をとる場合は、そうした事実を裁判所に疎明しなければならないことから、会社においては、その疎明資料をもれなく収集・保管する必要があります。もし、株主名簿が適切に整備・管理されていなければ、こうした方法をとることが難しくなるかもしれません。
 

おわりに

 
会社の運営や様々な手続の多くは、その会社に株主名簿が整備されていることが前提となって行われます。
 
例えば、事業承継やグループ会社の再編等に関与する際にも、会社の株主の構成等を確認することは重要ですし、株式会社であれば定期的に登記の申請が必要な任期満了に伴う役員改選等に関する株主総会議事録を作成する場合も、株主構成の確認が必要となります。
 
また、平成28年10月1日から、株式会社の登記の申請にあたって、登記すべき事項に株主総会の決議を要する場合等の一定の場合には添付書面として「株主リスト」が必要とされています(商業登記規則第61条第2項・3項)。この「株主リスト」を作成するには、株主の氏名又は名称及び住所、各株主が有する株式の数、議決権数等の情報が必要となるため、これらの情報を網羅した株主名簿があれば、株主リストの作成に役に立つことは言うまでもありません。
 
以上のように、株主についての情報は、会社の法務に関する検討を行う場合において、非常に重要な情報であることを認識し、法律上定められた内容が網羅された株主名簿及び関連書類を整備することが大切です。
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