2022/8/18

放っておくと思いがけないことに?役員の任期管理を怠ることのリスク

平成18年5月1日に会社法が施行されてから10年以上が経過しました。当事務所で商業登記のご依頼をいただいた際には、その会社の登記簿や定款を確認するのですが、ときどき、すでに役員の任期が満了しているにもかかわらず、その登記がされていないのを見かけます。会社法の施行により、一定の要件を満たす会社は従来よりも任期を伸ばすことが可能となったため、つい忘れがちになるのかもしれませんが、何もせずにいると思いがけない目に遭うかもしれません。
  
 
 
 
放っておくと思いがけないことに?役員の任期管理を怠ることのリスク
 
 
目次
1.株式会社の役員の任期
2.役員の任期管理を怠ることのリスク
3.まとめ
 
 
 
1.株式会社の役員の任期
 
 
会社法では、株式会社の取締役の任期は、選任から2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされており、株式会社の監査役の任期は選任から4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時とされています。
 
ただし、全ての株式に譲渡制限の定めを設けている株式会社の取締役、監査役の任期は、選任されてから10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができるようになっています。
 
 
会社法施行日前後の任期に関する取扱いについて

会社法の施行日、つまり平成18年5月1日に在任していた取締役、監査役または清算人であった人の任期は、何も定款変更をしていなければ、従来の任期で退任していたはずですが、会社法施行後に定款を変更して、役員の任期を10年にしていた場合は、その当時既に在任していた取締役等の任期も定款変更で定めた時まで伸長されます。

~具体例~
4月1日から翌年3月31日が事業年度となっており、定時株主総会が事業年度終了から3カ月以内に開催することになっている会社において、平成16年6月に就任した取締役の任期は、本来2年後の決算期に関する定時株主総会終結の時までなので、平成18年6月末までに開催される定時株主総会で任期満了し退任することになります。しかし、会社法施行後、任期満了までの間に定款変更を行い取締役の任期を10年に伸長していた場合には、この取締役の任期も10年に伸長され、平成26年6月末までに開催される定時株主総会終結の時までとなります。
 
 
 
 
2.役員の任期管理を怠ることのリスク
 
 
役員変更登記にかかるコストの削減を図れる等の理由から、従来の任期規定を変更し、あるいは会社の設立当初から役員の任期を10年に伸長している会社も少なくはありませんが、任期が長いとそれだけ役員の任期管理がおろそかになりがちです。気づいたときには既に任期満了を迎えていたということもあり得ない話ではありません。しかし、役員の任期管理が不十分だと次のようなリスクがあります。
 
 
(1)過料の制裁を受ける可能性がある
 
役員の任期が満了を迎えていながら適切に役員の選任手続を行っていない場合、会社の代表者に対して100万円以下の過料の制裁が科されてしまう可能性があります。また、任期満了に伴い株主総会で同じ役員を改めて選任した結果、登記された内容がそれまでと変わらない場合であったとしても登記手続を省略することはできず、「重任」を理由として登記を申請しなければならず、これを怠れば選任手続を行っていない場合と同様に、会社の代表者に対して100万円以下の過料の制裁が科される可能性があることには注意が必要です。
 
 
(2)「みなし解散」の可能性がある
 
会社法では、何ら登記もしていない状態が12年継続すると、その株式会社は「休眠会社」として、みなし解散による整理の対象となります。法務大臣は、この「休眠会社」に対して、2か月以内に事業を廃止していない旨の届出をするよう公告をすることとされており、また、法務局からも通知が送られてきます。休眠会社がこの期間内にこの届出をしない場合、法律上「休眠会社」は解散したものとみなされ、その解散登記も職権で行われることになります。
 
役員の任期を10年に伸長している会社が、役員の任期管理をおろそかにした結果、任期満了後も役員の選任手続(再選を含む)やそれに基づく役員変更登記をせずにいると、いつのまにか会社が解散していることになってしまうかもしれません。
 
なお、みなし解散による登記がされていたとしても、3年以内であれば、株主総会の決議により会社を継続することはできますが、そのための手続にはかなりの手間と費用がかかることもあります。
 
 
事業を廃止していない旨の届出さえすれば大丈夫?

法務局から通知があった場合に、2か月以内に事業を廃止していない旨の届出をしたからといって、それだけですべてが済むわけではありません。何らの登記もされていない12年の間のどこかの時点で、本来行うべき役員変更登記がされていないことは会社の登記記録(登記簿)上、明らかですので、届出を契機として、会社の代表者に対し100万円以下の過料の制裁が科される可能性があることには注意が必要です。
 
 
 
3.まとめ
 
 
任期管理をおろそかにしていると、場合によっては会社の運営に多大な支障を来たしてしまうおそれもあります。そのような事態を避けるためにも一度、会社の定款及び登記記録(登記簿)から役員の任期を確認してみることをお勧めします。判断に迷うような場合には、司法書士などの専門家に任期の調査を依頼してみることもよいかもしれません。
 
 
 
 

 
森山司法書士事務所では、役員変更登記に関するご相談・ご依頼を承っております。
 
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