2022/8/24

相続放棄で受け取れるものと受け取れないもの

相続放棄で受け取れるものと受け取れないもの

 
相続放棄をした人は、初めから相続人とならなかったものとみなされ(民法939条)、相続財産を一切引き継がないことになります。言い換えれば、相続財産に含まれないものや過去の判例により認められているものは相続放棄をしても受け取ることができるということですが、実際にどのような財産であれば相続放棄をしても受け取ることができるのか、ということについては判断に迷うところです。特に、相続放棄の手続をした後に相続財産を受け取ってしまうと、法律上、単純承認をしたとみなされる場合があるため(民法921条3項)、その判断はより慎重に行う必要があります。
 
そこで、今回は相続放棄をしても受け取ることができる財産や受け取ることができる可能性のある財産、そして相続放棄をしたら受け取れない財産について解説します。
 

相続放棄をしても受け取ることができる財産

 
相続放棄をしても受け取ることができる財産のうち主なものに以下の財産があります。
 
香典
香典は、葬儀に関連する費用に充てることを主な目的として、葬儀の主宰者である喪主に対して贈与されるお金です。そのため、被相続人(亡くなった人)の財産ではなく喪主の財産となります。したがって、相続放棄した人が喪主であれば受け取ることができます。
 
仏壇やお墓
仏壇やお墓は、相続財産ではなく祭祀財産とされています。祭祀財産とは、祖先を祀るための財産のことで、一般的に、祭祀承継者(系譜や祭具、墳墓などの祭祀財産を承継する人)に引き継がれます。つまり、祭祀財産を受け継ぐべき人が相続放棄をしたとしても、祭祀財産にはその効果が及ばないため、引き継ぐことができるということです。
 
遺族年金
遺族年金とは、残された家族の生活を保障することを目的に、法律によって受給権者や受給方法が定められている年金です。これも遺族の固有の財産と解されているので、相続財産には該当せず、受給権者が相続放棄をしても受け取ることはできます。ただし、遺族年金を受け取るためには、その遺族年金の種類ごとに定められている要件を満たす必要がありますので、その要件を満たしていなければ受け取ることができない点には注意が必要です。
 
未支給年金
未支給年金とは、年金の支給前に亡くなってしまった被相続人の代わりに遺族に対して支払われる年金です。判例でも、相続とは無関係な遺族の固有の権利だと認められているため相続財産には該当せず、受取人が相続放棄をしていたとしても受け取ることができます。ただし、未支給年金は誰でも受取人となれるわけではなく、一定の範囲の親族で、かつ、年金受給者と「生計を同じくしていた」人でなければなりません。また、基本的に遺族側から請求しないかぎり支払われないため、忘れずに請求する必要があります。
 
葬祭費や埋葬料
葬祭費や埋葬料とは、葬儀費用の一部が国民健康保険や健康保険から支給される費用のことです。加入している健康保険によって「葬祭費」「埋葬料」と呼ばれますが、これらは、喪主や埋葬を行った人などが支給を受けるものであるため、被相続人の財産には該当せず、相続放棄をした人でも受け取ることができます。
 

相続放棄をしても受け取ることができる”可能性のある”財産

 
無条件で受け取ることができるとはいえないものの、受け取ることができる可能性のある財産には以下のものがあります。
 
生命保険金
生命保険金とは、被相続人(亡くなった人)の死亡を条件に支払われる保険金で、死亡保険金と呼ばれることもあります。生命保険金は受取人固有の財産とされているため、被相続人が受取人に指定されているときは、被相続人が死亡と同時に取得した被相続人固有の財産になるため相続財産に該当します。しかし、相続放棄をした人が受取人に指定されているときは、生命保険金は相続放棄をした人の固有の財産となり相続財産には該当しないため、相続放棄をしても問題なく受け取ることができます。
 
なお、被相続人が医療保険に加入している場合、入院給付金や通院給付金が発生する場合があります。一般的には、このような医療保険の給付金は被相続人が受取人となっていることが多く、その場合は相続財産に該当するため、相続放棄をした人が受け取ることはできません。
 
未払いの給与
ここでの未払いの給与とは、被相続人が死亡した時点で、まだ支払われていない給与のことをいい、未払いの給与が相続財産に該当するかどうかは、勤務先の就業規則や賃金規程等で受取人がどのように定められているかによります。もっとも、未払いの給与について就業規則等で受取人を指定しているケースはあまり多くはなく、指定がない場合の未払いの給与は、被相続人の財産として相続財産とみなされます。言い換えれば「死亡時の未払い給与は遺族に支給する」といった就業規則などがあれば遺族固有の財産とされるため、相続放棄をしても受け取ることができるということです。
 
死亡退職金
未払いの給与と同様に、死亡退職金が相続財産に該当するかどうかは、勤務先の就業規則や退職金規定を確認する必要があります。すなわち、死亡退職金の受取人が被相続人となっている場合、もしくは受取人の指定がない場合は、相続財産に該当するものと考えられますが、死亡退職金の受取人を被相続人以外の人と定めている場合は、受取人の固有財産とみなされますので、受取人が相続放棄をしていたとしても死亡退職金を受けとることは可能です。
 
高額医療費の還付金
高額医療費の還付金を請求する権利は、世帯主又は組合員健康保険の被保険者にあるとされています。したがって、被相続人が世帯主又は被保険者であった場合には、還付金は被相続人の財産となるため、相続放棄をした場合は受け取ることはできません。つまり、被相続人以外の人が世帯主又は被保険者であれば、その人の固有の権利として、たとえ相続放棄をしていたとしても還付金を受け取ることができることになります。
 
なお、所得税などの還付金のように、本来の納税額よりも多く税金を支払ってしまったときに返還されるお金については、納税者本人に返還されるべきものであるため、被相続人(亡くなった人)が死亡した時点で既に発生していた被相続人の財産だったと考えられます。つまり、相続財産に該当するため、相続放棄をすれば受け取ることはできないことには注意が必要です。
 
以上のように、保険の契約内容や勤務先の就業規則等、あるいは被相続人が世帯主や被保険者であるか否かによって、相続財産となるかどうかの判断が分かれるため、その取扱いについては、より慎重になる必要があります。ただ、そうは言っても受け取れない財産を間違って、あるいは知らずに受け取ってしまうような場合も実際にはあり得ることだと思います。もし、受け取れない財産を受け取ってしまっても、それだけで直ちに、法律上、相続を単純承認したものとみなされない場合もありますので、絶対に使わずに、そして、ご自身の固有財産と混在しないように適切に保管しておきましょう。
 
~身の回りの品物の処分や形見分けはどこまで認められる?~
 
被相続人の身の回りの品物を処分したり整理したりすることは、被相続人が亡くなった際には一般的に行われることですので、それが直ちに、相続を単純承認したものとみなされて相続放棄に影響を与えると考えることは妥当ではありません。したがって、被相続人の身の回りの品物については、特に高価なものでない限り、処分したとしても問題にはならないとされています。これは、いわゆる「形見分け」についても同様です。形見分けは、それほど経済的な価値の高くないものについて行われるのが一般的ですので、そのような場合にも相続を単純承認したものとみなされることはないと考えられています。もっとも、一定程度の財産的な価値があるものについては形見分けを超える行為として、相続を単純承認したものとみなされる場合があることには注意が必要です。
 
~団体信用生命保険(団信)と相続放棄の関係~
 
住宅ローンの債務者(被保険者)が死亡したときに保険会社から住宅ローンが完済される団体信用生命保険(団信)については、保険会社からお金を受け取るのは金融機関等の債権者であるとされています。つまり、団信の保険金は債権者が受け取るものであり、相続財産には該当しないため、すでに相続放棄をした、あるいは、これから相続放棄をすることを検討している遺族が保険金の申請手続をしても相続放棄に影響はありません。なお、団信に加入している住宅ローンについては、上記のとおり、保険金によって住宅ローンが完済されるため、相続の際に、被相続人の債務(借金)として考慮する必要はありません。したがって、住宅ローンが支払えないという理由で相続放棄を検討する場合には、まず団信の加入の有無について確認をしておくことが非常に重要です。
 

おわりに

 
相続放棄に関する問題については判断に迷うことも多く、もし誤った判断をしてしまうと思わぬ不利益を被ってしまう可能性もあります。相続放棄を検討するのであれば、何らかの行動を起こす前に弁護士や司法書士といった法律の専門家に相談することが望ましいでしょう。
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