2022/9/10

会社の登記義務と過料について

突然、会社の代表者の自宅あてに届く「過料決定」という通知。何のことかまったく身に覚えはないかもしれませんが、実は、会社法に定められている登記義務に違反している、という可能性があります。
 
今回は会社の登記義務と過料について解説します。
  
 
 
 
会社の登記義務と過料について
 
 
目次
1.登記義務に違反すると過料に処せられる
2.過料に処せられるケース~役員変更~
3.過料決定の流れ
4.過料決定の通知を受け取った後の対応
 4-1.過料を支払う
 4-2.裁判所に不服申立て(即時抗告・異議申立)をする
 
 
  
1.登記義務に違反すると過料に処せられる
 
 
商法や会社法で定められている商業登記の制度とは、国が備える登記簿に、商号・名称、所在地、代表者の氏名など会社に関する取引上重要な一定の事項を記録し、一般の方に公開することによって、会社等の信用維持を図るとともに、取引の相手方が安心して取引できるようにすることを目的とするものです。しかし、登記すべき事項に変更が生じたにもかかわらず登記がされていなければ、この公示機能が十分に働きません。そこで、登記すべき事項に変更が生じた場合には、会社に対して登記する義務を課すことで、登記簿の公示機能に対する信頼性を担保しているわけです。
 
上記のことから、商業登記においては法律で定められた一定の期間内に登記する義務が定められており、登記すべき事項に変更が生じたにもかかわらず登記をしないまま(登記懈怠)でいると、会社の代表者個人が100万円以下の過料に処せられる場合があるため、登記懈怠には十分注意する必要があります。
 
もっとも、登記懈怠があったからといって、直ちに、必ず、過料に処せられるというわけではなく、実際には過料に処せられることのほうが少ないかもしれません。事実、過料に処せられているケースの中には、懈怠期間が短くても過料に処せられている場合もあれば、長期間登記懈怠が生じていたにもかかわらず過料に処せられていない場合もあります。このように、現実に過料に処せられるかどうかの基準は不明確ではあるものの、少なくとも登記懈怠があれば、その期間の長短にかかわらず、過料に処せられる可能性があることに変わりはありませんので、登記懈怠の状況が生じることは避けたほうが望ましいでしょう。
 
 
 
2.過料に処せられるケース~役員変更~
 
 
会社法違反により過料に処せられるケースとしては、役員変更に関する懈怠が原因となっているものが多いのですが、その懈怠の内容に応じて次の二つに分けられます。
 
 
① 登記懈怠(会社法976条1号)
登記懈怠とは、役員の再任(重任)や就任、退任などの登記すべき事項が発生したのに、法律で定められた期間内(原則として2週間以内)に登記しない場合です。
 
これらの登記においては、登記すべき事項が発生した日が申請の内容になっているため、登記申請をきっかけとして過料に処せられることになります。
 
 
② 選任懈怠(会社法976条22号)
選任懈怠とは、役員の退任等により後任の役員を選任すべきにもかかわらず、役員の選任手続を行っていない状態をいいます。例えば、株式会社の役員の任期は、最長でも10年となっているところ、最後に申請した役員変更登記から10年以上が経過しているにもかかわらず、何らの役員変更登記もされていなければ、その会社は後任者の選任手続を怠っていることになります。
 
このように、選任懈怠による過料は、会社の登記記録(登記簿)の記載から役員選任を怠っていることが明白な場合に処せられるということになります。
 
選任懈怠による過料決定の場合、その通知書に「法定の員数を欠くに至ったのに」と書かれていることが多いです。
 
 
役員の任期が満了しても、そのまま役員を継続する場合には登記は不要?
 
会社の商号や本店所在地などの登記すべき事項に変更があれば登記しなければならないことは知っていても、任期満了を迎えた役員が再任された場合には、役員に変更が生じるわけではないため、登記は必要ないと思われる方がおられるかもしれません。しかし、たとえ役員全員が任期満了を迎えた後、そのまま再任された場合でも、その再任(重任)の登記をしなければなりません。平成18年の会社法施行により、非公開会社であれば役員の任期を最長10年まで伸長することができるようになった結果、役員の任期満了の時期をつい忘れてしまい、選任懈怠に陥っているケースが少なくありませんので、注意が必要です。
 
 
 
3.過料決定の流れ
 
 
登記懈怠や選任懈怠を法務局が把握した場合には、まず法務局から裁判所に対して通知が行われます。
 
この際、会社の代表者は、取締役・監査役等の選任義務や、登記義務を当然に遵守すべきものとされていることや、法令上の義務について懈怠の事実が認められる以上は過料に処せられるべきであることから、事前に会社等に対して懈怠の事実が通知されることはありません。
 
法務局からの通知を受けた裁判所は懈怠の期間等に応じて過料の金額を決定したうえで、代表者の自宅に過料決定の通知を発送します。
 
過料の金額がどのような基準に基づいて決定されるかは前述のとおり明確にはされていませんが、一般的には懈怠の期間が長くなればなるほど過料の金額も高額になると言われています。
 
なお、過料決定の通知が会社の代表者の自宅あてに送られてくるのは、過料が役員としての任務を怠ったことに対して処せられるものだからです。したがって、過料に処せられる原因によっては、役員を辞めた後であっても過料決定の通知が送られてくる場合もあることには注意が必要です。そして、過料に処せられるのが代表者個人である以上、会社の経費とすることはできません。
 
 
過料とは、行政上の秩序の維持のために違反者に制裁として金銭的負担を課すものです。刑事事件の罰金や科料とは異なり、過料に科せられた事実は、前科にはなりません。
 
 
 
4.過料決定の通知を受け取った後の対応
 
 
過料決定の通知を受け取った後の対応としては、
(1)過料を支払う
(2)裁判所に不服申立て(即時抗告・異議申立)をする
という2つの対応があります。
 
過料を支払わない場合はどうなる?
 
過料を払わない場合、民事執行法その他強制執行の手続きに関する規定に従って処理されます。つまり、民事上の強制執行と同じように財産の差し押さえなどがなされるおそれがあります。
 
 
(1)過料を支払う
 
過料の徴収は、検察庁が行います。後日(通常は、受領されてから2週間~2ヶ月程度)で、管轄の検察庁から通知(納入告知書の送付)がありますので、その指示に従って支払います。
 
 
(2)過料決定への不服申立て(即時抗告・異議申立)
 
正式な手続による過料決定であれば、事前に意見を述べる機会が与えられ、過料決定の告知から2週間は、即時抗告という不服申し立てができます。ところが、略式手続による過料決定の場合、事前に意見を述べる機会が与えられないうえに、異議申立の期間は過料決定の告知から1週間とされています。 会社法違反による過料決定は、ほとんどがこの略式手続ですので、以下は略式手続により過料に処せられたことを前提として解説します。
 
過料の決定は、会社の登記記録(登記簿)に基づいて、しかも意見を述べる機会も与えられないまま行われますが、その裁判所の判断に不服がある場合には、過料決定の通知が到達した日から1週間以内に異議を申し立てることができます。
 
特に、役員の任期に関して過料決定を行う場合には、会社の登記記録だけでなく、会社の定款規定も含めて判断する必要があるところ、裁判所には会社の定款はないため、その判断にも誤りがある場合もあります。もし裁判所の判断に誤りがあり、それにより過大な過料に処せられているのであれば、異議を申し立てることで過料の金額が減額できる場合もありますが、異議の申立てができる期間が1週間という極めて短い期間であるため、速やかに対応する必要があります。
 
異議の申立ては、過料決定の通知を受け取った日から1週間以内に、過料決定をした裁判所あてに、異議申立書を提出して行う必要があります。つまり、1週間以内に裁判所必着でなければなりませんので、郵送で提出する際には注意が必要です。
 
異議申立書には、裁判所のホームページに掲載されている書式を利用し、①事件番号、住所・氏名、電話番号②決定謄本を受け取った日③異議理由を記載のうえ、④証拠書類(写し)を添付します。適法な異議の申立てがあれば、改めて過料についての裁判が行われます。
 
 
異議を申し立てることができる理由
 
一般的には次のような場合には異議を申し立てることができます。
・通知書に記載されている内容が事実と異なっている
・通知書に記載の「退任されたとされる時期」が間違っている(法務局・裁判所ともに貴社定款を保管していないためこの間違いが多いです。)
・登記手続が遅れたことについて特別の理由がある
・過料決定に理由が記載されていない
 
これに対し、「登記の手続を知らなかった」「忘れていた」「忙しかった」「他人に任せていた」等の場合には異議申立に理由があると認められることは、ほとんどありません。
 
 
過料決定に対する異議の申立てはご自身で行うことも可能ですが、1週間以内に裁判所必着という非常に短期間での対応が求められるため、手続に不慣れな場合だと間に合わなくなるかもしれません。司法書士は、裁判所に提出する書類の作成も専門に取り扱っておりますので、異議の申立てを行う際には、司法書士に依頼することを検討するのもよいかもしれません。
 
また、過料を支払ったとしても、過料決定の原因となった登記の申請義務が免除されるわけではありませんので、必要に応じて登記を申請しなければならないことにも注意しましょう。
 
 
 
 

 
森山司法書士事務所では、商業登記や過料決定に対する異議申立に関するご相談・ご依頼を承っております。
 
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