2022/9/14

遺産分割協議って絶対に必要?期限はある?誰がやる?どうやるの?協議書ってどう作る?

 
被相続人が遺言を残さないまま相続が発生すると、遺産は、原則として法律で定められた相続分で相続人全員が共有することになります。その共有状態となった遺産を具体的に分配するための話し合いを遺産分割協議といいます。本コラムでは、遺産分割協議について、必要か否か、期限の有無、協議の当事者や方法、遺産分割協議書の作り方とその注意点を解説します。
 
 
 
 
 
遺産分割協議って絶対に必要?期限はある?誰がやる?どうやるの?~
  
 
目次
1.遺産分割協議とは?
2.遺産分割協議は必ず行わなければならない?
3.遺産分割協議に期限はある?
4.遺産分割協議は誰がするの?
5.遺産分割協議の方法に決まりはある?
6.遺産分割協議書の作り方と注意点
7.おわりに
 
 
1.遺産分割協議とは?
 
 
遺産分割協議とは、相続が発生した際に、誰がどのような割合で遺産を引き継ぐのかといった遺産の分割方法について共同相続人全員で行う話し合いのことをいい、その話し合った結果を書面にまとめたものが遺産分割協議書です。
 
 
 
2.遺産分割協議は必ず行わなければならない?
 
 
遺産分割協議書がないと、金融資産や不動産などの名義変更ができない場合が多く、相続手続を進められないため、相続が発生したら遺産分割協議をすることが当たり前だと思うかもしれませんが、実は必ずしも遺産分割協議を行う必要はありません。
 
そもそも遺産分割協議をするのは、遺産の分け方を明確に決めるためであり、遺産分割協議をしなくても遺産の分け方が決まっているような場合、例えば、被相続人(亡くなった人)が遺言を作成しており、その内容のとおりに遺産分割する場合や、遺言がなくても、法律で定められた相続割合(法定相続分)どおりに遺産を分割する場合は、遺産分割協議を行う必要はないわけです。
 
つまり、遺産分割協議を行うのは、遺産の分け方が明確に決まっていない場合であり、例えば、次のような場合が該当します。
 
・遺言がなく、かつ、法定相続分とは異なる割合で遺産分割を行う場合
 
・遺言はあるものの、そこに記載されていない財産がある場合
 
 
 
3.遺産分割協議に期限はある?
 
 
民法上、遺産分割協議そのものには期限が設けられていません。しかし、このことが所有者不明土地の発生の要因ともなっていると考えられていることから、令和3年の民法改正により遺産分割に関する見直しがされ、「特別受益」と「寄与分」という相続人間の不平等を調整するための制度を主張することについて、10年の期間制限が設けられました。この改正は令和5年4月1日から施行されていますが、改正法の施行日より前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても適用があることには注意が必要です(ただし、経過措置により少なくとも5年の猶予期間があります)。
 
特別受益とは、被相続人からの生前贈与や遺言によって相続人の一部が特別な利益を得ていた場合に、その利益の分は相続分の前渡しと考えて、他の相続人よりも相続する遺産を少なくする制度です。一方、寄与分とは、被相続人の生前にその財産の維持や増加に貢献した相続人に対し、その貢献の程度に応じて、他の相続人よりも多く遺産を相続できるための制度です。
 
したがって、特別受益及び寄与分については、相続開始後10年を経過すると主張することができなくなり、法定相続分又は遺言によって指定された相続分(指定相続分)によって遺産分割を行うことになります。とはいえ、相続人の合意に基づく遺産分割を否定するものではなく、10年が経過しても相続人全員の合意があれば必ずしも法定相続分どおりにする必要はないとされています。
 
 
 
4.遺産分割協議は誰がするの?
 
 
遺産分割協議が有効に成立するためには、共同相続人全員の参加と合意を必要とし、一部の相続人を除いて行われた遺産分割協議は、原則として無効です。そのため、協議に参加すべき当事者は全員参加をしなければならないのですが、その際には次のような点に注意が必要です。
 
① 包括受遺者がいる場合
例えば「相続財産の3分の1を○○に遺贈する」というように、財産の全部又は一定の割合を包括的に指定した人に遺贈することを包括遺贈といい、包括遺贈を受ける人のことを包括受遺者といいます。包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有しますので(民法第990条)、遺産分割協議の当事者となり、包括受遺者が参加せずにした遺産分割協議は無効です。なお、特定受遺者(特定された財産の遺贈を受ける人)は遺産分割協議の当事者とはなりません。
 
 
② 未成年者がいる場合
相続人が未成年者である場合、その法定代理人である親権者等が、未成年者に代わって遺産分割協議に参加することになります。ただし、例えば、親権者である親とその親権に服する未成年の子が共同相続人となる場合は、子と親権者が利益相反の関係(親権者にとっての利益が、子にとっての不利益になる関係のこと)にあることから、親権者は子のために、 家庭裁判所に対して、特別代理人(親権者に代わって未成年者を代理する人)の選任の申立てをする必要があります。
 
 
③ 不在者がいる場合
不在者とは、従来の住所又は居所を去って容易に帰ってくる見込みのない者をいいます(民法第25条)が、共同相続人の中に不在者がいる場合でも、その者を除いて行われた遺産分割協議は無効となります。この場合、家庭裁判所に不在者の財産管理人の選任を申し立てたうえで、その不在者財産管理人を含めて遺産分割協議を行うことになります。
 
 
④ 相続放棄をした者がいる場合
相続放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされますので(民法第939条)、遺産分割協議の当事者とはなりません。
 
 
⑤ 法定相続分以上の特別受益を受けた者がいる場合
複数の相続人がいる場合において、被相続人から生前贈与や遺贈等を受けた一部の相続人のことを特別受益者といいますが、特別受益者の受けた生前贈与や遺贈等が法定相続分よりも多い場合、その特別受益者は相続分を受けることができません。このような法定相続分以上の特別受益を受けた者がいる場合、その特別受益者が作成した「相続分がないことの証明書」及び「その者を除く共同相続人間の遺産分割協議」を添付して相続登記を申請できるという実務上の取扱いがありますが、その特別受益者が遺産分割協議に参加することは可能です。なお、法定相続分を超える特別受益があったとしても、基本的にはその超過分を他の相続人に返還する必要はないものとされています。
 
 
⑥ 嫡出でない子がいる場合
被相続人に認知された嫡出でない子(民法第779条)も相続人であるため、その者を除いて遺産分割協議をすることはできません。ただし、遺産分割協議が成立した後に被相続人に認知された場合は、遺産分割協議は無効とはならず、その者は、他の相続人に対し、自己の具体的相続分に応じた価格賠償のみを請求できるにすぎません。
 
 
⑦ 共同相続人の1人又は数人から相続分の譲渡を受けた第三者がいる場合
相続人は、相続開始後から遺産分割が成立するまでの間、自分の相続分をほかの人に譲渡することができます(民法905条)。譲渡する相手は共同相続人でもそれ以外の第三者でも構いませんが、第三者が相続分の譲渡を受けた場合、その第三者は共同相続人と同一の権利義務を有することとなりますので、遺産分割協議の当事者となります。つまり、相続分の譲渡を受けた第三者を除いて行われた遺産分割協議は無効となるということです。なお、第三者が相続人となって遺産分割協議に入ると、紛争の原因となるおそれもあるため、他の相続人には、相続分の譲渡を受けた第三者から相続分を取り戻すことが認められています(民法905条1項)。また、自己の相続分の全部を譲渡した相続人は遺産分割の当事者とはならないため、遺産分割協議に参加することはできないとされています。
 
 
 
5.遺産分割協議の方法に決まりはある?
 
 
遺産分割協議の方式については、民法上、特に決まったものはありません。共同相続人全員が一堂に会して協議するのが望ましいとはいえ、必ずしも一堂に会する必要はなく、例えば、相続人の1人が遺産分割協議の原案を作成して持ち回り、全員の承諾を得る方法でも問題はありません。
 
また、遺産分割協議は、共同相続人全員が口頭で合意すれば有効に成立し、協議の内容をまとめた遺産分割協議書がなければならないというわけでもありません。ただ、そうはいっても、預貯金や不動産といった遺産の相続手続を行うためには遺産分割協議書が必要になる場面もあることや、後になって協議を蒸し返されることを防ぐためにも遺産分割協議書は作成しておくべきです。
 
 
 
6.遺産分割協議書の作り方と注意点
 
 
遺産分割協議書は、一般的に、1通の書面に共同相続人全員が署名押印をしたものが作成されますが、必ずしも1通の書面に全員が署名押印をしなければならないわけではなく、例えば共同相続人A、B、C及びDの4人がいる場合において、内容を同じくするAとBの遺産分割協議書とCとDの遺産分割協議書の計2通の遺産分割協議書で相続登記を申請することも可能です。また、遺産分割の内容を記載した同一の書面を、相続人の数だけ作成し、各自が署名押印したそれぞれの書面をもって遺産分割協議の成立を証する書面(「遺産分割証明書」などと言われています)とすることも可能です。
 
そのほか、遺産分割協議書を作成する際には以下の点に注意が必要です。
 
① 誰がどの遺産を取得するのか明記する
取得する遺産については、それを特定するのに十分な項目をできるだけ詳細に記載します。特に、不動産については、法務局で交付を受けられる登記事項証明書(登記簿)どおりに正確に書く必要があることに注意しましょう。もっとも、特定の相続人が全財産を取得するような場合には、「全ての財産」という包括的な記載で足り、個々の遺産を特定して列挙する必要はありません。
 
 
② 遺産分割協議の成立後に新たな遺産が判明する場合に備えておく
遺産分割協議が成立した後に新たな遺産の存在が判明した場合に備え、以下のいずれかの合意内容を記載しておく
 
・新たな遺産につき改めて分割の協議をする。
 
・新たな財産は特定の相続人が取得する。
 
・新たな財産について取得の割合を定めておく。
 
 
③ 住所、本籍地、氏名の記載は、住民票や印鑑証明書、戸籍の記載どおりに記載する
遺産分割協議書の様式については、特に法律で決められたものはありませんが、住所などは都道府県名を含めて記載し、番地などもハイフンで省略をしないほうが望ましいでしょう。
 
また、一般的に、遺産分割協議書には相続人の「署名」と捺印が行われますが、これは、相続人が遺産分割協議書の内容に合意していることを裏付けるためです。パソコンで印字した氏名に捺印をしたものでも法律上の効力に問題はありませんが、遺産分割協議書は、遺産分割協議が成立したことを示す客観的な証拠であるとともに、相続登記や預金の解約手続など、相続手続の際に必要となる書類です。その際に、第三者から見ても遺産分割協議が真正に成立したことを証明する目的から、できる限り署名と捺印をするのが望ましいというのが遺産分割協議の実務上の取り扱いです。
 
 
④ 実印で捺印する
法律上は、遺産分割協議書に実印を押さなければならないという規定はありません。ただ、遺産分割協議に相続人本人が参加したうえで合意したことを裏付けるためには、実印の捺印と印鑑証明書の添付があったほうが有効です。また、預貯金や不動産といった遺産の相続手続を行うためには、相続人全員の実印が押された遺産分割協議書と印鑑証明書を求められることがほとんどです。
 
 
⑤ 遺産分割協議書が複数枚にわたる場合は契印をする
協議する内容が多いなどの理由で、遺産分割協議書が複数枚にわたる場合は、ホチキスなどで綴じて各用紙に相続人全員が契印をするか、袋とじにして、表と裏の袋とじ部分に重なるように契印をする。なお、契印は署名捺印の際に用いた印鑑と同じものを使用することに注意しましょう。
 
 
⑥ 遺産分割協議書の作成通数
遺産分割協議の当事者全員が1通ずつ原本を所持できるよう、相続人の人数と同じ通数を作成するのが望ましいでしょう。
 
 
 
7.おわりに
 
以上のように、遺産分割協議には様々なルールや細かい注意点が存在します。
 
せっかくまとまった遺産分割協議が後で無効となってしまったり、遺産分割協議書に誤字や脱字が見つかって作り直す必要が生じると、大きな負担となってしまいますので、遺産分割協議には慎重な姿勢で臨むことが大切だと思います。遺産分割協議の中で判断に迷ったり、書類作成に不安があるような場合には、専門家に相談してみることをお勧めします。