2022/9/17

遺言とは異なる内容の遺産分割協議をすることの可否

 
亡くなった方が遺言書を残していた場合、原則として、その内容のとおりに遺産を分割することになります。たとえ一部の相続人にとって納得がいかない内容であったとりしても、遺言というのが亡くなった方の最後の意思表示であり、その意思を尊重するのあれば、やはり遺言のとおりに遺産を分割すべきであると思います。
 
しかし、中にはどうしても遺言書の内容とは異なる内容で遺産分割がしたい、という事情があるかもしれません。その場合でも、やはり遺言書のとおりに遺産分割をしなければならないのでしょうか?
 
今回は、遺言と異なる遺産分割ができるのかどうか解説します。
 
 
 
 
 
遺言とは異なる内容で遺産分割協議をすることはできるの?
 
 
目次
1.遺言とは異なる内容の遺産分割協議をすることはできる!でも・・・
2.遺言と異なる内容の遺産分割協議をする場合の注意点
 
 
  
1.遺言とは異なる内容の遺産分割協議をすることはできる!でも・・・
 
 
遺言がある場合、原則として、その遺言の内容のとおりに被相続人の遺産は相続されることになります。ただ、遺言は被相続人の考えに基づいて作成されるものですので、その内容が相続人にとって望ましいものではない場合も当然にありえることです。
 
 
また、そもそも遺言を作成する目的は相続人間の紛争を避ける点にありますので、相続人全員が同意しているのであれば、遺言の内容に拘束される理由はないとも考えられます。
 
このようなことから、相続人全員の同意があれば、遺言とは異なる内容の遺産分割協議をすることも可能とされています。
 
ただし、次のような条件があることには注意が必要です。
 
① 被相続人が、遺言で遺産分割協議を禁止していないこと
民法では、被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができると定められています。
 
したがって、遺言で遺産分割協議が禁止されている場合には、たとえ相続人全員の同意があったとしても、それに反して遺産分割協議をすることはできないことになります。
 
なお、被相続人は、遺言によって、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができるとされており、もし、遺言による遺産分割禁止の期間が5年を超えている場合には、5年間の分割を禁止するものとして効力が認められます。
 
② 相続人全員が遺言の存在と内容を知ったうえで、遺言と異なる遺産分割協議をしていること
相続人の全員が遺言の存在や内容を知らずに遺産分割協議を行った後に、遺言の存在とその内容を知った場合、遺産分割協議の結果が遺言の内容よりも有利な結果になる相続人もいれば、反対に、不利な結果になる相続人もいることもあるでしょう。不利な結果になる相続人にとって、その程度があまりにも大きい場合には、「遺言があることを知っていれば、このような遺産分割協議はしなかった」ことを理由に、遺産分割協議の無効が認められる場合があります。その場合、遺言の内容とおりの相続がされるか、遺言があることを確認したうえで再度、遺産分割協議をすることになることが考えられます。
 
③ 相続人以外の受遺者がいる場合は、その受遺者の同意を得ていること
相続人「以外」の人が、受遺者(遺言により財産を受け取る人)に指定されている場合は、遺言とは異なる内容の遺産分割協議をすることについて、その受遺者の同意を得る必要があります。
 
④ 相続人以外の人が遺言執行者に指定されている場合は、遺言執行者の同意があること
遺言では遺言執行者を指定することができますが、遺言執行者が相続人でない場合は、遺言執行者の同意を得ることも必要です。
 
遺言執行者とは、相続が遺言書どおりに実行されるように必要な手続きを行う人のことをいいます。遺言とは異なる内容の遺産分割協議をする場合に、遺言執行者の同意が必要であることは、法律上、求められているわけではありません。しかし、遺言執行者がいるときには相続人は遺言の執行を妨げてはならないと法律で定められていることから、遺言執行者の同意を得ておくことは必要と考えられています。
 
 
 
2.遺言と異なる内容の遺産分割協議をする場合の注意点
 
 
また、上記の条件を満たしていたとしても、遺言とは異なる内容の遺産分割協議をする場合には、遺産分割協議書の書き方や、遺産に不動産が含まれる場合の登記の方法、税務上の問題などにも注意が必要です。
 
① 遺産分割協議書を作成する際の注意点
遺言と異なる内容の遺産分割を行い、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成する場合は、相続人(遺言執行者、受遺者がいる場合にはその人を含む)の全員が遺言の存在とその内容を確認したうえで、それとは異なる遺産分割協議をすることに同意している旨を記載します。
 
② 不動産の登記の方法
不動産について遺言とは異なる内容の遺産分割協議をした場合は、名義変更の登記(相続登記)の際に注意が必要です。
 
特定遺贈があったものの、それとは異なる遺産分割をした場合は、原則ではまず遺言にしたがって相続登記を行った上で、次に贈与または交換による所有権移転の登記を行う必要があります。
 
もっとも、実務においては、遺産分割協議にしたがって、被相続人から直接、不動産を取得した人の名義に相続登記をする場合もあります。
 
③ 相続税の考え方
遺言とは異なる内容の遺産分割をするときの相続税の考え方については、次の2つの場合に分けて考える必要があります。
 
・遺言によって財産を受け取るのが相続人だけの場合
遺言によって財産を受け取るのが相続人だけの場合において、遺言とは異なる内容の遺産分割協議がされたときは、遺言と異なる部分について贈与や交換などがあったものと考える必要はなく、相続税は、最終的な遺産分割協議の内容に基づいて課税されることとされています。
 
・遺言で相続人以外の受遺者に対する特定遺贈があった場合
遺言によって相続人以外の人が特定の財産を受け取ることになっていたときに、その受遺者の同意のうえで遺言とは異なる内容の遺産分割協議をした結果、遺贈を受けた財産の代わりに受遺者が何らかの財産を取得した場合には注意が必要です。この場合は、遺贈された財産に相続税が課税されたうえで、その後財産を交換したとして、譲渡益に所得税が課税される可能性があります。
 
 
遺言の内容のとおりに既に遺産分割を行っていた場合には・・・
 
遺言の内容のとおりに既に遺産分割を行っている場合で、遺言とは異なる内容の遺産分割協議を行ったときは、遺産の再分割として、遺言により財産を取得した人から遺産分割協議により財産を取得した人への財産の移転と考えられるため、相続税だけでなく、贈与税または所得税が課税される可能性があります。
 
特に、遺産の中に不動産がある場合において、既に遺言の内容とおりに不動産の相続登記を行った後、遺産分割協議によって所有者が変わる場合は、名義変更の登記を行う際の登録免許税や、不動産取得税が発生することにも注意が必要です。