2022/9/19
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相続人の資格を失わせる制度~相続欠格~ |
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人が亡くなると、特に遺言を残していない場合には、原則として法律の定めにしたがって相続人が開始します。ところが、ある一定の事由がある場合には、相続人の相続権が失われる制度が定められており、そのうちの一つに「相続欠格」というものがあります。 これは、相続秩序を侵害するほどの不正な行いをした相続人から、相続権を当然に剥奪する制裁措置だと考えられています。 相続人の資格を失わせる制度~相続欠格~
1.相続欠格とは 民法には、民法891条に規定される不正な事由(相続欠格事由)があると、被相続人の意思とは関係なく、法律上、当然に相続する権利を失わせる場合があり、これを「相続欠格」といいます。 相続欠格と同じように相続人が相続する権利を失う制度として、廃除というものがあります。相続人の廃除とは、相続人から虐待を受けたり、重大な侮辱を受けたりしたとき、又はその他の著しい非行が相続人にあったときに、被相続人が家庭裁判所に申立てを行い、虐待などした相続人の相続権を失わせることをいいます。 2.相続欠格の効果 相続欠格に該当すると以下のような効果が発生します。 ①法律上、当然に相続する権利を失う 相続人に相続欠格事由があると、裁判上の手続や特別な意思表示がなくても、その相続人は、法律上、当然に相続する権利を失います。もっとも、相続欠格については、それを公示する方法がないので、特定の相続人の行為が相続欠格事由に該当するか否かが争いになったときは、裁判によって判断を仰ぐことになります。 また、相続欠格事由がある人(欠格者)は遺贈を受けることもできず、特に、欠格者が兄弟姉妹以外の法定相続人であれば、最低限の遺産取得割合として保障されている遺留分ですら認められなくなってしまいます。 なお、欠格者は相続人でないものとして、相続財産は他の相続人に分配されることになりますが、欠格者に直系卑属である子がいる場合には、その子が欠格者に代わって代襲相続することになります。 ②相対的効力 相続欠格事由があっても、あらゆる相続において相続する権利を失うわけではありません。ある特定の被相続人との関係で相続欠格事由に該当する場合には、その被相続人の相続に関してのみ相続する権利を失うだけで、他の被相続人の相続する権利が失われることはありません。 3.効力発生の時期 相続開始前に相続欠格事由が発覚した場合には、その発覚時から相続する権利を失います。相続開始後に相続欠格事由が発覚した場合には、相続開始の時に遡って相続する権利を失うことになります。 このとき、すでに遺産分割がなされてしまっている場合には、他の相続人はその欠格者に対して相続財産の取戻しを請求することになります。 4.相続欠格事由 相続欠格が発生するのは、以下の5つの事由がある場合です(民法891条各号)。1号と2号は、被相続人に対する生命侵害等の行為が、3号から5号までは、被相続人の遺言作成等に不当に干渉する行為が、それぞれ相続欠格事由とされています。 ①故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者(1号) 被相続人や先順位の相続人を殺害又は殺害しようとして刑に処せられた場合です。例えば、被相続人等に対する殺人罪や殺人未遂罪で刑に処せられた場合には、相続する権利を失うことになります。 刑に処せられていることが要件ですので、刑に処せられていない場合には、相続欠格とはなりません。また、故意が必要ですので、過失致死や傷害致死は含まれません。 ②被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。(2号) 被相続人が殺害されたことを知りながら告訴や告発をしなかった者は相続する権利を失うというものです。 ただし、被相続人の殺害について、すでに捜査機関による捜査がなされているときには、告訴・告発をしなくても相続欠格事由には該当しないと解されています。 また、この条文のただし書きで、「是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない」とされており、是非弁別能力がない場合や、殺害者が配偶者や直系血族の場合は相続欠格事由には該当しないとされています。 これは、配偶者や直系血族といった近しい関係にある場合、告発又は告訴することを期待することができないと考えられるからです。 ※是非弁別能力とは、簡単に言うと、良いことと悪いこととの区別をつけることができる能力を言います。年少者など精神の発達が未熟な状態の場合、是非弁別能力が否定される可能性があります。 ③詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者(3号) 被相続人を騙したり又は強迫したりして、相続に関する遺言をしようとしたり、又は撤回・取消し・変更しようとしているのを妨げた者は相続する権利を失うというものです。 ④詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者(4号) 被相続人を騙し又は脅迫して、相続に関する遺言をさせたり、又は撤回・取消し・変更をさせたりした者も相続する権利を失うことになります。 ⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者(5号) 被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者が相続する権利を失うというものです。 偽造とは、被相続人名義で遺言を作成することをいい、変造とは、被相続人が作成した遺言書に訂正などの変更を加えることをいいます。破棄には、物理的な破棄だけでなく、文字を塗り潰したりするなど遺言の効力を失わせるような全ての行為が含まれており、隠匿とは遺言の発見を妨げるような状態に置くことをいいます。 なお、判例の立場では、遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿の故意に加えて、相続に関して不当な利益を得る目的が必要とされています。 5.おわりに 相続欠格は、廃除とは異なり、被相続人の意思に関わらず当然に相続する権利を失うものです。そして、相続欠格に一度でも該当することになれば、相続する権利を取り戻すための規定などは用意されていないため、いくら欠格者に対して財産を相続させたい場合でも、被相続人の意思によって、欠格者の相続する権利を回復させることはできないことになります。 もっとも、被相続人に宥恕(ゆうじょ=許してもらうこと)してもらうことで、再度相続する権利を認められたケースもあります(広島家裁呉支部平成22年10月5日審判)。 ただし、こういった判例が出ているものの、欠格者に対する宥恕によって、再度、相続する権利を認めるかどうかは、専門家でも意見が分かれている状態です。 なお、相続欠格となった場合でも、その欠格者に対して生前贈与を行うことは禁止されていないことから、生前贈与によって宥恕と同じような状況を実現することは可能ですが、実際問題として、重大な非違行為を行った欠格者に対して、生前に贈与することは考えにくいかもしれません。 いずれにしても、相続欠格に該当した場合、遺産を相続することは非常に困難となります。知らなかったでは済まない話ですので、絶対にこのような行為に及ぶことはやめましょう。
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