2022/9/21

相続人の資格を失わせる制度~廃除~

 
 
民法上、ある一定の事由がある場合には、相続人の相続権が失われる制度が定められています。以前に説明した「相続欠格」もそのうちの一つで、これは民法で定められた「欠格事由」に該当すると自動的に相続権を失うというものです。
 
その一方で、被相続人の意思に基づいて、相続の権利を剝奪する制度も存在します。それが今回説明する「推定相続人の廃除」です。
 
 
 
 
 
 相続人の資格を失わせる制度~廃除~
 
 
 
目次
1.廃除とは
2.廃除の対象者
3.廃除の事由
4.廃除の方法
5.廃除の効果
6.効力発生の時期
7.廃除の取消
8.おわりに
 
 
 
1.廃除とは
 
 
「廃除」とは、相続人からの虐待や重大な侮辱を受けたり、その他の著しい非行が相続人にあったときに、被相続人が家庭裁判所に請求して、その相続人から相続権を剥奪する制度です。
 
民法892条では「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。」と定められています。
 
 
 
2.廃除の対象者
 
 
廃除の対象となるのは「遺留分を有する推定相続人」とあり、具体的には、配偶者、子や孫などの直系卑属、親や祖父母などの直系尊属です。兄弟姉妹には遺留分はありませんので、廃除はできませんが、兄弟姉妹に相続をさせたくない場合には、遺言で兄弟姉妹以外の者に相続させれば足りることになります。
 
なお、推定相続人とは「相続が開始した場合に相続人となるべき者」、つまり、法定相続人のなかでも現時点で最も先順位にある相続人のことをいいますので、例えば、子(第1順位の相続人)がいるにもかかわらず、あらかじめ父母などの直系尊属(第2順位の相続人)を廃除することはできません。
 
 
 
3.廃除の事由
 
 
推定相続人を廃除するためには、一定の事由が必要です。民法上は、推定相続人について①被相続人に対する虐待②被相続人に対する重大な侮辱③その他の著しい非行のいずれかがあることを要件としています。
 
①及び②については、推定相続人から被相続人に対して行われた虐待や重大な侮辱であることは明らかですが、③については必ずしも被相続人に対して向けられたものに限らないと考えられています。
 
また、行為の程度については、具体的に諸般の事情を考慮し、相続権を奪うに値するとみられる程度のものであることを要すると考えられており、軽度の虐待や非行では、廃除が認められないことが多いと思われます。
 
 
 
4.廃除の方法
 
 
廃除の方法には、被相続人による「生前廃除」と被相続人が遺言で廃除の意思表示をする「遺言廃除」があります。生前廃除は、被相続人が、自己の住所地を管轄する家庭裁判所に対して廃除の請求を申し立てることにより行い、遺言廃除は、遺言の効力が発生した後に、遺言執行者が相続開始地を管轄する家庭裁判所に対して廃除の請求を申し立てることにより行います。なお、遺言廃除による廃除の請求は遺言執行者しか行うことができませんので、遺言執行者がいない場合には家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を求める必要があります。
 
 
 
5.廃除の効果
 
 
①家庭裁判所による廃除の審判の確定により、相続権を失う
家庭裁判所で廃除を認める審判がなされ、その後、審判が確定すると、当該相続人はその相続権を失います。また、廃除された推定相続人は、最低限の遺産取得割合として保障されている遺留分も認められなくなってしまいます。ただし、廃除された推定相続人でも遺贈を受けることは可能です。
 
廃除された推定相続人は、相続人でないものとして、相続財産は他の相続人に分配されることになりますが、廃除された推定相続人に直系卑属である子がいる場合には、その子が代襲相続することになります。
 
 
②相対的効力
廃除があっても、あらゆる相続において相続する権利を失うわけではありません。廃除を請求した被相続人の相続に関してのみ相続する権利を失うだけで、他の被相続人の相続についての相続する権利が失われることはありません。
 
 
 
6.効力発生の時期
 
 
相続開始前に審判の確定があった場合には、即時に相続する権利を失います。相続開始後に審判の確定があった場合には、相続開始の時に遡って相続する権利を失うことになります。
 
このとき、すでに遺産分割がなされてしまっている場合には、他の相続人はその欠格者に対して相続財産の取戻しを請求することになります。
 
 
~廃除されたことは戸籍に記載される~
 
廃除の審判が確定したときは、家庭裁判所の裁判所書記官は遅滞なく、廃除された推定相続人の本籍地の市町村長に対して、その旨を通知しなければならず、また、申立人は審判の確定の日から10日以内に市町村長への届出をしなければなりません。これにより廃除された推定相続人の戸籍に廃除された旨が記載されます。
 
 
 
7.廃除の取消
 
 
被相続人が廃除によって推定相続人の相続権を失わせた後、いったん発生した廃除の効果を失わせることを廃除の取消といいます。廃除は被相続人の意思や感情を考慮して行われるものですので、被相続人は、いつでも、特別な理由を挙げなくても、家庭裁判所に対して廃除の取消の請求を申し立てることができます。被相続人が遺言によって廃除の取消の意思表示をした場合には、遺言執行者が家庭裁判所に対して廃除の取消の請求を申し立てることになります。
 
廃除の取消の審判があったときは、廃除された推定相続人の相続権が回復します。家庭裁判所の裁判所書記官による市町村長への通知と、申立人による戸籍上の届出が必要な点は、廃除の場合と同様です。
 
 
 
8.おわりに
 
 
廃除は、被相続人の意思によって相続権を失わせる制度ですが、実際に相続廃除が認められることはあまり多いとはいえず、相続廃除の申立てがあった場合、家庭裁判所は慎重に判断を行うケースが多いのが実情です。
 
その理由は明確ではありませんが、一時的な感情の対立に過ぎない場合や安易に廃除を認めることが親子間の関係に影響を及ぼしてしまうことなどが挙げられます。
 
もし、家庭内のトラブルなどにより、どうしても特定の相続人に対して相続させたくないと感じた場合には、生前贈与や遺言といった廃除以外の方法も有効な手段となり得ることもありますので、専門家に相談してみることをお勧めします。