2022/12/1

遺産分割の対象となる財産の範囲

被相続人に相続が開始した後に相続人全員で遺産分割協議をする際、被相続人の財産のすべてが遺産分割の対象となるとは限りません。
 
相続財産ではあっても、法律上、遺産分割の対象ではないとされているものがあったり、反対に、相続財産でない財産であっても遺産分割の対象とするものが容認されているものがあったりするなど、相続財産と遺産分割の対象となる財産の範囲が一致しない点に注意する必要があります。
  
 
 
 
 
遺産分割の対象となる財産の範囲
 
 
 
目次
1.相続財産ではあっても当然には遺産分割の対象とならないもの
2.相続財産ではないが遺産分割の対象とすることができるもの
3.まとめ
 
 
 
1.相続財産ではあっても当然には遺産分割の対象とならないもの
 
 
民法896条では「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」と定められています。つまり、被相続人の一身専属権を除いた、相続開始時に被相続人の財産に属した一切の権利・義務が相続財産ということになります。
 
相続財産であれば、そのすべてが遺産分割の対象となるのではないかと考えてしまいますが、法律上、相続財産ではあっても、以下のものについては遺産分割の対象ではないとされています。
 
 
(1)可分債権
 
可分債権とは、例えば貸金債権や損害賠償請求権などのように、分割して実現できる給付を内容とする債権といいます。
 
そもそも遺産分割とは、相続が開始したことにより、相続人全員の共有となった相続財産を分割する手続ですので、相続が開始した時点で相続人に分割されてしまっている相続財産、言い換えれば、共有ではない相続財産については遺産分割をする必要はないはずです。
 
そして、可分債権については、各相続人がそれぞれその相続分に応じて権利を取得することになるため、遺産分割の対象とはならないことになります。
 
とはいえ、実務上では、相続人全員の合意があれば、可分債権を遺産分割の対象とすることも容認されており、裁判例においても「金銭その他の可分債権については、遺産分割前でも、同法(民法)427条に規定に照らし、各相続人が相続分の分割に応じ独立して右債権を取得するものと解するのが相当であり、相続財産が被相続人の信用金庫に対する預金払戻請求権である場合も、右債権と同様の金銭債権であり、別異に解すべき理由はない。しかし、被相続人が生前有していた可分債権も、共同相続人全員の合意によって、不可分債権に転化し、共同相続人らによる遺産分割協議の対象に含めることも可能と解される」(東京地判平成9.10.20)と判示しています。
 
なお、預貯金債権については、かつては可分債権として相続開始の時に当然に相続分に応じて各相続人が個別に取得するものと扱われていましたが、その後判例を変更して、預貯金債権は一般の可分債権にはあたらず、遺産分割の対象であると判示されています。
 
「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」(最大決平成28.12.19)
 
なお、祭祀財産や遺骨、身元保証契約上の保証人たる地位などは相続財産には該当しないとされています。
 
 
(2)債務
 
遺産分割は積極財産について行うとされており、借金などの債務は、遺産分割の対象とはならないのが原則です。
 
また、金銭債務等の可分債務について、判例は「債務者が死亡し、被相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである」(最判昭和34.6.19)としており、可分債務は、相続開始時において当然に法定相続分に応じて各相続人に分割され、したがって遺産分割の対象とはならないとされています。
 
そうはいっても、可分債務について、共同相続人全員の合意により遺産分割の対象とすることは、実務上、容認されるものと解されており、実際にそのような遺産分割も行われています。ただし、あくまでもそれは共同相続人間での内部負担割合を定めたものでしかなく、債権者の承諾がない限りは、債権者から各相続人に対する法定相続分に応じた請求を拒むことはできません。もし、債務を負担しない相続人が債権者からの請求に応じて弁済した場合には、内部負担割合に応じた求償の問題となります。
 
なお、不可分債務については、相続開始時に共同相続人全員に不可分的に帰属し、各相続人が債務の全部について責任を負うことになり、債権者は、相続人の誰に対してもその全部の履行を請求できるものと解されています。したがって、不可分債務について、共同相続人全員の合意により遺産分割の対象としたとしても、そのままでは内部的な合意にとどまり、債権者からの各相続人への請求に対して拒むことはできない点は可分債務と同じです。
 
 
 
2.相続財産ではないが遺産分割の対象とすることができるもの
 
 
相続財産でないものは、原則として遺産分割の対象とすることができないのは、当然のことのようにも思えますが、実務上では、共同相続人全員の合意があれば遺産分割の対象とすることが容認されているものがあります。
 
特に問題となるのは、相続開始後、遺産分割が成立するまでの間に、その相続財産に関連して発生する財産についてです。主なものには次の3つがあります。
 
 
① 代償財産
代償財産とは、相続開始から遺産分割までの間に滅失・逸失した相続財産が、他の財産に転化したもののことです。例えば、家屋が焼失した場合の火災保険金の請求権などがあります。
 
 
② 果実・収益
果実や収益とは、相続財産から発生するもので、例えば相続財産である賃貸物件から発生する賃料収入などがあります。
 
 
③遺産管理費用
遺産管理費用は、遺産を保存したり管理したりするために必要な経費で、例えば不動産の固定資産税などがあります。
 
 
 
3.まとめ
 
 
以上のように、遺産分割協議の場面においては、相続財産のすべてが当然に遺産分割の対象となるわけではない場合と相続財産ではないものの遺産分割の対象とすることができる場合がありますが、いずれの場合も、相続人全員の合意によって遺産分割の対象とすることが可能とされています。ただ、相続財産のうちの債務については、相続人全員の合意があったとしても、債権者の承諾がなければ、相続人間の内部的な負担割合を定めたものにすぎず、債権者に対して遺産分割協議の結果を主張できないことには注意が必要です。また、相続人全員の合意によって遺産分割の対象とする場合には、後日の紛争予防のために遺産分割協議書に明記することも大切です。