2023/4/25

「相続させる」旨の遺言でもらった不動産の権利が脅かされる場合がある?~平成30年改正民法による相続の権利承継の対抗関係~

平成30年の民法の改正によって、それまでのルールが変更されたものの一つに「共同相続における権利の承継の対抗要件」(民法899条の2第1項)があります。
 
これは、相続による権利の承継に関して、法定相続分を超えて承継した部分については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないことを定めたもので、これにより、従来のいわゆる「相続させる遺言(特定財産承継遺言)」による権利承継については「登記なくして第三者に対抗できる」とする最高裁判例の理論が変更されました。つまり、登記に関して「早いもの勝ち」の状況が生じることになるため、遺言執行者に選任された人は、速やかに登記申請をすることが求められることになり、その業務についてより注意を払う必要があります。
 
今回は、この改正内容について説明します。
 
 
 
 
 
「相続させる」旨の遺言でもらった不動産の権利が脅かされる場合がある?~平成30年改正民法による相続の権利承継の対抗関係~
 
 
目次
1.従来の取扱い
2.改正後の内容
3.改正後の相続手続における注意点
4.できるだけ早めの相続登記を!
 
 
 
1.従来の取扱い
 
 
遺産相続においては、被相続人が残した遺言によって、共同相続人が法定相続分と異なる割合で遺産を取得する場合がありますが、従来、遺言によって不動産を取得した相続人と第三者との関係について、民法上、明確な規定は置かれていませんでした。
 
一方、判例では、遺贈により不動産を取得した場合については、登記をしなければ自己の所有権取得を第三者に対抗できない(最判昭和39年3月6日)、指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる(最判平成5年7月19日)、相続させる旨の遺言により取得した権利についても、登記なくして対抗することができる(最判平成14年6月10日)とされており、権利取得の原因によってその取扱いが異なっていました。
 
 
 
しかし、判例の考え方によると、相続分の指定や遺産分割方法の指定により権利を承継した相続人は、いつまでも登記なくして第三者に所有権を対抗することができることになるため、法定相続分による権利の承継があったと信頼した第三者にとって不測の損害を被るおそれがあるという問題点も指摘されていました。
 
 
 
2.改正後の内容
 
 
改正された民法では、相続による権利の承継は、それが遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超えて承継した部分については対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないものとしています。
 
この改正による影響が出るのは、以下のような場面においてです。
 
①共同相続人の一人が法定相続分による登記をした後に持分を譲渡した場合
 相続人がAとBの2人である場合において、Aが単独で法定相続分による登記を申請し、その後、Aが自己の持分を第三者Cに譲渡して、その登記も行ったところ、その不動産について「Bに相続させる」という内容の遺言があることが判明したようなケースです。従来であれば、Bは登記をしていなくてもCに優先していましたが、現在は登記をしたCが優先することになります。
 
 
②相続人に対する債権者がいる場合
 相続人がAとBの2人である場合において、Aに対してお金を貸している債権者は、一定の要件を満たせば、差押えの準備として債権者代位により法定相続分で登記をすることができます。その後、Aの持分について差押えの登記をしたところ、その不動産について「Bに相続させる」という内容の遺言があることが判明したようなケースです。
 
 
上記①②の場合のいずれも、従来であれば、Bは登記をしていなくてもその不動産の所有権をCに対して主張することができたのですが、現在では、先に登記をしたCに対して、Bはその不動産の所有権のうち法定相続分を超える部分についてはCに対して所有権を主張することができません。つまり、Cの権利が優先されるというわけです。
 
 
 
3.改正後の相続手続における注意点
 
 
民法の改正によって、遺言によって不動産を取得した相続人がその登記をするよりも先に、第三者が所有権に関する登記をしてしまった場合、その相続人の相続分を超える部分については、自分が不動産の所有者であることを主張することが極めて難しくなります。
 
このような「早いもの勝ち」といった状況が生じる以上、遺言がある場合の相続人や遺言執行者に選任された人は、速やかに登記を申請することが要請されます。登記をするのはまだ先でもいい、と思って何もしないでいると、遺言によって不動産を取得した相続人の所有権が脅かされるおそれがあります。
 
ただし、これはあくまでも遺言により法定相続分を超える権利を取得した相続人と第三者との関係であり、相続人同士では登記の先後で所有権の優劣を決することにはなりません。
 
 
 
4.できるだけ早めの相続登記を!
 
 
今回の改正は、令和元年7月1日以降に発生した相続について適用されることとされていますので、それ以前に発生した相続については、従来の取扱いどおり、遺言があれば相続登記をしなくても第三者に対抗することが可能です。
 
しかし、令和元年7月以降に相続が発生したのであれば、遺言によって不動産の所有権を取得した相続人が、その権利を第三者へ対抗するためには登記が必要となります。
 
遺言によって不動産を取得したはずなのに、その権利の一部を失ってしまうことがないよう、できるだけ早く相続登記をすることが重要です。
 
 
 

 
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