2023/5/18

相続開始から遺産分割協議が成立するまでの遺産の管理費用について

遺産の中に不動産や借家などがある場合、相続の開始後にその維持・管理をするために必要な費用が発生することがあります。具体的には、固定資産税などの公租公課、家屋の修繕費や改築費、火災保険料、上下水道料金や電気料金などの光熱費、地代や家賃などが挙げられます。 
  
遺産について遺産分割協議が成立した後であれば、遺産を取得した人の固有の財産となりますので、そこから発生する管理費用も遺産を取得した人が負担することになるのは当然ですが、相続開始から遺産分割協議が成立するまでの間に発生した相続財産の管理費用は誰が負担することになるのでしょうか?
 
 
 
 
 
相続開始から遺産分割協議が成立するまでの遺産の管理費用について 
  
 
目次
1.遺産の管理費用は遺産から支払ってOK
2.管理費用の清算方法を遺産分割協議で決めてよい?
 
 
 
1.遺産の管理費用は遺産から支払ってOK
 
 
相続開始から遺産分割協議が成立するまでの間に発生した遺産の管理費用の負担について、民法885条1項では次のように定められています。
 
「相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。」
 
つまり、遺産に関して発生した費用は、その発生の原因が相続人の不注意によるものでない限り、遺産の中から支払うということです。
 
通常、遺産を相続する場合において、その遺産についての管理費用をどこから捻出するかは、相続人が自由に決めればよいことです。したがって、例えば、遺産である建物について相続開始後に発生した電気料金が、同じく遺産である預貯金から自動引き落としがされていたり、相続人全員が合意したうえで、遺産である現金から支払うような場合は、特に問題は生じないものだといえるでしょう。
 
しかし、遺産である現金や預貯金の額が不十分だったり、相続人全員が遺産である現金の中から支払うことに合意しないような場合には、どうしても一部の相続人が立て替えて支払うことになってしまうことでしょう。そのような場合に立て替えた費用をどのように清算すべきかが問題となります。
 
この点について、相続開始から遺産分割協議が成立するまでの遺産は、共同相続人の共有となるとされており、その性質は、民法249条以下に定める「共有」と異なるものではないという判例(最判昭和30年5月31日)があることから、各共有者がその持分に応じて管理費用を負担することになると考えられます(民法253条1項)。
 
したがって、遺産の管理費用を遺産から負担しない場合には、相続人全員がその相続分に応じて負担することになり、もし、一部の相続人が立て替えたような場合には、他の相続人に対して、その相続分に応じた負担分を請求することになるでしょう。
 
ただ、例えば、相続人の一人が、被相続人の生前から遺産である建物に居住しており、建物を相続したうえで今後もそこに住み続けるといったような場合には、公平の観点から、その建物についての管理費用はその相続人が単独で負担すべきという考えもあるので注意が必要です。
 
 
相続税は遺産の管理費用になる?

相続税は、遺産を相続によって承継することに対する課税です。つまり、遺産を取得した相続人個人に課されるものであり、相続財産に関する費用には含まれません。
 
 
 
2.管理費用の清算方法を遺産分割協議で決めてよい?
 
 
遺産の管理費用について、少額であったり、発生する頻度が低い場合には、毎回、相続人全員から集めて支払ったり、あるいは一部の相続人が立て替えた後に清算しても問題はないかもしれませんが、管理費用が高額になったり、頻繁に発生するような場合には、話が変わってくるかもしれません。手続きが煩わしく感じることもあれば、相続人の中に支払いを拒む者が現れたりして、場合によっては裁判を起こさざるを得ないケースがあるかもしれません。
 
では、そういった場合を想定して、遺産の管理費用の清算方法を遺産分割協議の中で決めることはできるのでしょうか。つまり、一部の相続人が立て替えた管理費用や未払いとなっている管理費用の清算方法を遺産分割協議の内容に含めることができないか、ということです。
 
この点については、次の3つの説があります。
 
① 積極説
遺産の管理費用は、相続財産に関する費用にあたるため、相続財産の負担として、遺産分割に際して、遺産から清算されるべきという考え方です。
 
 
② 消極説
遺産の管理費用は、相続開始後に発生する費用(債務)であり、相続財産とはいえないため、遺産分割の対象ではないという考え方です。
 
 
③ 折衷説
消極説と同じ考え方をするものの、遺産分割の当事者が遺産の管理費用を遺産分割の対象とすることに合意すれば、遺産分割の対象となるという考え方です。
 
 
実務上は、折衷説に基づき、相続人全員の合意のもとに遺産の管理費用を遺産分割の対象とすることが多いようです。その際には、後日の紛争を予防するためにも、遺産の管理費用の負担について遺産分割協議書に記載しておくのが望ましいでしょう。
 
なお、折衷説の立場をとった場合でも、相続人全員の合意が得られなければ遺産分割協議の外で当事者間が清算しなければならず、そこで争いが生じれば裁判によって解決を図ることになる点には注意が必要です。