2023/5/24

先買権行使による財産の取得

 
相続の方法には、単純承認や相続放棄のほかに限定承認という方法があります。
 
限定承認とは、簡単に言うと、承継した財産を換金して負債の弁済に充てるけれど、それ以上は責任を負わないという、いわば単純承認と相続放棄の中間的な相続の方法です。
 
限定承認の手続において、債権者がいる場合は、原則として、相続財産を清算する人が競売の方法によって換金し、債権者に配分することになりますが、相続財産の中には、相続人にとって愛着のある財産やどうしても手放したくない財産もあります。そこで、例外として、裁判所が選任した鑑定人の鑑定価額以上の金銭を支払うことによって、相続人が相続財産を買い取る方法が認められています。
 
この例外的な方法のことを実務上「先買権による財産の取得」と言います。
 
 
 
 
 
先買権行使による財産の取得
 
 
目次
1.限定承認とは
2.先買権行使による財産の取得
3.先買権を行使する場合の手続
4.先買権の行使と登記手続
 
 
 
1.限定承認とは
 
 
限定承認とは、相続人によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務や遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承継をする方法です。つまり、承継した財産を換金して負債の返済に充てれば、それ以上の責任を負わずに済みますので、たとえ負債が多額に上ったとしても、相続人自身の固有の財産は守ることができます。
 
 
2.先買権行使による財産の取得
 
 
限定承認では、相続財産の範囲内で被相続人の債務等を弁済することになりますが、相続財産を管理する人が恣意的に相場よりも低い金額で換金したりすると、債権者にとっては配分を受ける金額が少なくなる危険性があります。そこで、相続財産の換金については、競売によることが法律で定められています。
 
しかし、相続財産の中には、中古の家財道具などのように換金することが難しい場合や、相続人にとって特に思い入れの強い財産があって、これだけは自分がお金を払ってでも承継したいという場合もあります。
 
そこで、競売という原則的な換金方法に加えて、裁判所が選任した鑑定人による鑑定価額以上の金銭を相続人が支払うことによって、相続人が相続財産を買い取るという方法が例外的に認められています。
 
ただし、これは裁判所が選任した鑑定人の評価価額で換金することによって債権者の利益を害することを回避することができるとともに、相続人の相続財産に対する愛着心にも配慮して認められた方法であることから、この方法は相続人にのみ認められていることに注意が必要です。
 
 
 
3.先買権を行使する場合の手続
 
 
先買権を行使する場合、次のような流れで行うことになります。なお、以下の手続を行うには、その前提として家庭裁判所に対して限定承認の申述を行い、受理される必要があります。
 
①  家庭裁判所に対して、先買権を行使して特定の相続財産を買い受けるための鑑定人選任を申し立てる。
 
② 家庭裁判所により鑑定人が選任される。
 
③ 選任された鑑定人による時価価格の鑑定が行われる。
 
④ 相続財産を清算する者に対して、鑑定価額以上で先買権行使を行う旨の意思表示を行う。
 
⑤ 相続財産を清算する者に対して、鑑定価額以上の金銭を交付する。
 
⑥ ⑤の金銭交付により、先買権行使の目的となった財産は相続財産から解放される。
 
⑦ 先買権行使の対象財産が不動産の場合は、登記手続を行う。
 
 
4.先買権行使と登記手続
 
 
先買権の行使により相続財産の中の特定の不動産を買い受けた場合には、不動産の名義を変更するために登記を申請することになります。
 
その場合の登記手続ですが、限定承認による相続は、相続財産の限りにおいて、相続財産及び負債のすべてを承継するという相続形態であることから、登記記録上にもいったん相続人がその法定相続分に応じて相続した旨を反映させる必要があります。したがって、まず法定相続分の割合による相続登記をしたうえで、先買権を行使した相続人に対して「〇年〇月〇日民法932条ただし書による価額弁済」を原因として、他の相続人の持分を移転する登記を申請することになります。