2023/6/13

死因贈与って何?遺贈とはどう違うの?

 
 
自分が死亡したときに特定の誰かに財産を譲りたい場合、遺言を書くことのほかに、死因贈与という方法があります。死因贈与は、生前に行う贈与とは異なり、自分の死亡を条件として財産を渡す方法で、遺贈と同じような効果が期待できます。
 
今回は死因贈与について、遺贈と比べながらその特徴や死因贈与をする場合の注意点を説明します。
 
 
 
 
 
死因贈与って何?遺贈とはどう違うの?
 
 
目次
1.死因贈与とは
2.死因贈与の特徴
3.死因贈与の注意点
4.まとめ
 
 
 
1.死因贈与とは
 
 
死因贈与は、贈与者(財産を譲る人)の死亡によって贈与の効力が生じる契約です。これと似た効果を生じさせるものに遺言による遺贈がありますが、遺贈は、遺贈者(財産を譲る人)の一方的な意思表示によって成立するのに対し、死因贈与はあくまで契約ですので、贈与者が生きている間に受贈者(財産を受け取る人)との間で合意が成立していることが必要です。
 
 
 
2.死因贈与の特徴
 
 
死因贈与も遺贈も、財産を譲る人の死亡によって効力が生じる点が似ていることから、死因贈与には、その性質に反しない限り、遺贈の規定が準用されると民法で定められています。
 
なお、死因贈与と遺贈は、どちらも贈与税ではなく、相続税の課税対象になります。
 
 
(1)死因贈与の方式
 
死因贈与の方式については、遺贈に関する規定の準用はないものとされています(最判昭32.5.21)。したがって、自筆証書遺言や公正証書遺言等の遺言の方式による必要はなく、贈与者と受贈者の意思の合致があれば、その合意内容を書面にする必要もありません。したがって、口頭で死因贈与をすることも可能ですが、その効力が発生するときには贈与者は死亡しているため、贈与者の遺族や相続人との間で死因贈与契約があったかどうかについてトラブルが起こる可能性もあります。そのような事態を避けるためにも書面(できれば公正証書)にしておくことが望ましいでしょう。
 
なお、遺贈の場合、遺言という厳格に定められた方式によって行う必要があります。
 
 
(2)仮登記による権利の保全
 
死因贈与は贈与者の死亡によって効力が発生するため、不動産を死因贈与する場合、贈与者の生存中は所有権移転の登記ができません。しかし、仮登記によって受贈者の権利を保全することが可能です。ただし、仮登記をしても贈与者による死因贈与の撤回を阻止できる効力はないことに注意が必要です。
 
これに対して、遺贈の場合には所有権移転仮登記はできません。そのため、仮登記によって財産を取得できる死因贈与の方が、不動産をもらう側にとってはその権利を保全できるメリットがあると言えます。
 
 
(3)執行者の指定ができる
 
遺贈の場合には、その手続を実際に行う遺言執行者をあらかじめ決めておくことができますが、死因贈与についても同様に、契約の内容を実現させるための執行者を指定することが可能です。
 
死因贈与の執行者を選任しておけば、贈与者が死亡した後の手続がスムーズに進みます。例えば、不動産を死因贈与した場合において、執行者がいなければ所有権移転登記をするときに贈与者の相続人全員の関与が必要になります。もし、相続人の中に死因贈与を快く思わない人がいると手続が煩雑になるおそれがありますが、執行者が指定されていれば、執行者が関与するだけで所有権移転登記をすることも可能となります。さらに、死因贈与の受贈者を執行者に指定することもできるので、受贈者を執行者に指定しておけば、受贈者が単独で登記手続が可能となります。
 
 
(4)より確実に財産を受け取ってもらえる
 
死因贈与は、贈与者と受贈者の合意に基づく契約です。したがって、財産をもらう人にとってはあらかじめもらえる財産の内容を知ることができ、そのうえで承諾を得ているわけですので、より確実に財産を受け取ってもらえることができます。
 
遺贈の場合、財産をもらった側が放棄する可能性があるため、財産を譲る人にとっては確実に受け取ってもらえるどうかが分からないということがあります。
 
 
 
3.死因贈与の注意点
 
 
死因贈与も遺贈も、財産を譲る人が亡くなったとき効力が生じる点は共通していますが、両者には大きな違いもあります。そのことがメリットになることもあれば、反対にデメリットとなることもあります。特に、死因贈与を選ぶときには、以下のような点に注意しなければなりません。
 
 
(1)不動産取得税の課税対象となる
 
不動産取得税は、有償・無償にかかわらず、不動産を取得した場合に都道府県により課税される税金です。
 
遺贈の場合、財産を受け取る人が相続人であれば、不動産取得税は非課税になりますが、死因贈与の場合は、財産を受け取る人が相続人であるか否かにかかわらず不動産取得税が課税されてしまいます。
 
もし、相続人に対して死因贈与を行う場合、遺贈であれば非課税となる税金が課税されることを認識しておかなければなりません。
 
 
(2)登録免許税が高くなる
 
遺贈や死因贈与によって不動産を取得した場合、その後に行う登記手続において登録免許税が発生しますが、ここでも遺贈と死因贈与で大きな違いが出てくることがあります。
 
相続人に遺贈した場合の登録免許税の税率は固定資産評価額の1000分の4ですが、死因贈与の場合の登録免許税の税率は、相続人かどうかにかかわらず1000分の20になります。
 
相続人に不動産を譲る場合には、遺贈か死因贈与かで登録免許税が大きく違ってきますので、この点も注意しておくべきでしょう。
 
 
(3)死因贈与の年齢制限について
 
遺言は、15歳以上なら単独でできることが民法で定められていることから、遺贈は15歳以上であれば単独ですることが可能です。一方、死因贈与は契約ですから、通常の契約ができる年齢、すなわち成年に達していない場合、単独ですることはできず、未成年者が死因贈与契約の当事者になるには、法定代理人である親権者等の同意を得るか、親権者が代理で契約を締結する必要があります。
 
 
(4)一方的に撤回することができない場合もある
 
遺贈は、遺贈者の一方的な意思表示で成立しますので、遺言者の意思によっていつでも撤回できます。また、財産を受け取る人も遺贈を受けたくなければ放棄することが可能です。
 
死因贈与の場合も、遺贈の規定を準用しているため、基本的には撤回が可能ですが、「負担付き死因贈与」の場合、撤回が認められないことがあります。
 
「負担付き死因贈与」とは、贈与を与える代わりに、贈与者に対して生活の面倒を見るなどの義務や負担を課している贈与契約です。この契約の内容である義務や負担が、たとえその一部であっても契約どおりに果たされているのであれば、自由に撤回を認めることは契約当事者の片方にとってのみ不利益となるため、撤回が認められないことがあります。
 
 
 
4.まとめ
 
 
死因贈与は、遺贈と同じ効果を期待できるにもかかわらず、遺贈のように厳格な方式が要求されていません。遺贈の場合、公正証書遺言を作成しようとすれば証人が必要ですし、自筆証書遺言を作成しようとすれば全文の自書などが求められ、家庭裁判所による検認の手続が必要な場合もあります。死因贈与では、これらのことが必要とされず、さらに仮登記による権利の保全ができるというのは、相当なメリットだといえます。
 
ただし、その一方で、死因贈与を快く思わない人からは贈与契約があったのかどうか、贈与契約があったとしても当時の贈与者の行為能力や意思能力について疑われることがあるかもしれません。
 
したがって、もし死因贈与をするのであれば、公正証書で契約書を作成するか、自分で死因贈与契約書を作成する場合には署名は自書し、さらに実印を押して印鑑証明書を添付するなど、後日起こりうるトラブルに対して配慮をしておくことが望ましいでしょう。