2023/6/20
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遺産分割調停ってどんな手続? |
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遺言を残さないまま相続が発生すると、亡くなった人の財産については法定相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。 ここで法定相続人全員の合意が得られればよいのですが、中には全員の合意が得られない場合やそもそも話し合いの場を持つことすら難しい場合があるかもしれません。そのような場合に、弁護士に遺産分割についての交渉を依頼するという手段もありますが、そのほかにも家庭裁判所の調停手続を利用するという方法もあります。 遺産分割調停ってどんな手続?
1.遺産分割調停とは? 遺産分割調停とは、被相続人の遺産分割について相続人の間で話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所の関与のもとで遺産分割について相続人全員の合意を得ることを目指して行われる話し合いです。 調停の手続では、裁判官のほかに公正中立な第三者として選任された調停委員が、相続人全員から事情を聞いたり、必要な場合には資料等を提出してもらったり、あるいは遺産について鑑定を行うなどして事情をよく把握したうえで、各相続人の遺産分割に対する希望や意向を聞いて、解決案の提示や助言をして合意を目指します。 調停委員は、弁護士、司法書士、元裁判官、元裁判所職員、元銀行員、元公務員等、法的な知識を有する人、社会人として豊富な経験知識の持ち主などの中から選ばれます。その役割は、当事者の自主性を重んじつつ、法律的な評価に基づき、実情に応じて助言し互いの歩みよりを促すことです。 2.遺産分割調停のメリット 遺産分割調停をするメリットとしては次のようなものがあります。 (1)相手方と顔を合わせなくてよい 調停の手続では、基本的に調停委員が間に入って話し合いを進めるため、相手方と顔を合わせて交渉する必要はありません。裁判所ではそれぞれが別室で待機し、交互に呼び出しを受けて話をするため、相手方と顔を合わせることを避けることができます。 (2)第三者が入ることで冷静な話し合いができる 相続人同士が直接話し合いをしようとすると、感情的に対立して話し合いがまとまらない場合もありますが、第三者である裁判所や調停委員が公正中立な立場で、それぞれの相続人の主張を法的に整理、調整することで、冷静に話し合いを進めることが期待できます。 (3)非公開なのでプライバシーが守られる 調停の手続は非公開であり、また、調停委員には守秘義務があるため、周りの人に調停を行なったことは知られず、プライバシーを守ることができます。 (4)調停調書は、確定判決と同じ効力を持つ 調停が成立した場合に作成される調停調書は確定判決と同一の効力を持ちます。この意味するところとして、例えば、遺産分割調停に基づいて行う相続登記は、不動産を取得する相続人が単独で申請することができ、他の相続人に協力を頼む必要はありません。 3.遺産分割調停のデメリット 調停手続にはメリットがある反面、次のようなデメリットもあります。 (1)必ずしも合意できるとは限らない 調停手続は合意を目指した話し合いの場であり、必ず合意が成立することを保証するものではありません。当事者間の主張が折り合わない場合、調停不成立となることもあります。 話し合いがまとまらず調停不成立となった場合には自動的に審判手続が開始され、裁判官が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して、審判をすることになります。 (2)長期化する可能性がある 調停は、一般的に1ヶ月または2ヶ月に1回のペースで行なわれるため、解決するまでには半年以上かかることも多く、ある程度長期化することは覚悟しておく必要があるでしょう。 4.遺産分割調停の申立て 遺産分割調停は、相続人のうちの1人もしくは何人かが「申立人」として、他の相続人全員を「相手方」として、相手方の住所地の家庭裁判所に申し立てます。相手方が複数いる場合は、そのうち1人の住所地の家庭裁判所に申し立てることができます。また、相続人間の合意により、特定の家庭裁判所を管轄とすることも可能です。 (1)申立てに必要な書類 調停を申し立てる際は一般的に以下の書類を揃える必要があります。 ① 被相続人の出生から死亡までの連続戸籍 ② 相続人全員の現在戸籍 ③ 被相続人及び相続人の住民票又は戸籍附票(除票) ④ 遺産に関する資料(不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し又は残高証明書、有価証券写し等) ただし、相続人の範囲によっては、さらに多くの戸籍が必要となる場合や上記のほかに必要となる書類もありますので、申立てをする家庭裁判所に確認することが望ましいでしょう。 また、審理のために必要な場合は、追加書類の提出を求められる場合もあります。 (2)申立てに必要な費用 被相続人1人につき収入印紙1200円分 このほか、裁判所から各当事者へ通知をする際の郵便切手をあらかじめ提出しておく必要があります。具体的な額については、申立てをする家庭裁判所に確認するようにしましょう。 5.遺産分割調停の手続の流れ 裁判所によって多少運用は異なることもありますが、概ね以下の①~⑤の順番で、段階的に進行していくことが多いと思われます。 (1)相続人の範囲の確定 なお、戸籍の記載が真実の親子関係とは異なる、養子縁組や結婚が無効だといった主張をする場合には、遺産分割の前に、別途、人事訴訟や訴訟に代わる調停をして戸籍を訂正したり、縁組や結婚の有効・無効を確定させる必要があります。 (2)遺産の範囲の確定 被相続人にどのような遺産があるのかについては、相続人自身で必要な資料を集める必要があり、原則として、裁判所が何らかの調査をして遺産を探すようなことはしてくれません。ます。また、被相続人の所有している財産か、他の人の所有している財産かについて争いがある場合、遺産分割の前に、民事訴訟を行って所有者を確定させる必要があります。 (3)遺産の評価を合意 例えば、不動産や非公開株式について評価額の合意ができなければ、鑑定をすることになります。鑑定費用は、原則として、相続分の割合で全員が分担することになります。 (4)相続分を修正する事情の考慮(特別受益、寄与分) 特別受益や寄与分を評価して法定相続分を修正し、各相続人の取得額を算出します。寄与や特別受益の事実は、争いがあれば、主張したほうが資料を提出するなどして特別受益や寄与分の存在を証明する必要があります (5)遺産の分割方法の合意 (4)で決まった取得額に応じて、現存する個々の遺産についての分割方法を取り決めます。分割方法としては、以下のようなものがあります。 ① 現物分割 個々の財産の形状や性質を変更することなく、各相続人に単独で取得させる手段です。 ② 換価分割 遺産を第三者に売却し、換価した後、その売却代金を相続人間で配分する分割手段です。 ③ 代償分割 一部の相続人がある財産を取得する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う方法です。 ④ 共有分割 遺産の一部または全部を、相続人の共有とする分割手段です。 1回の調停の時間は概ね2時間程度で、1~2か月に1回のペースで開かれ、問題が解決するまで調停を行います。ただ、合意できるめどが立たなくなると、調停委員会が不成立の判断をする場合があります。 なお、使途不明金、葬儀費用、祭祀承継、扶養や介護などに関する争いは、いわゆる付随問題として、本来の遺産分割の問題ではないため、話し合いのめどがつかないようであれば、遺産分割とは別に申立てをする必要があります。 6.遺産分割調停を専門家に任せる場合 遺産分割調停はご自身で行うことも可能ですが、弁護士や司法書士にサポートを依頼することができます。ただし、それぞれサポートできる範囲が異なります。 弁護士に依頼すれば調停の申立てから調停への出席、主張の代弁まで包括的にサポートしてもらうことができます。また、ただサポートするだけでなく、法的知識やノウハウを駆使して依頼者の利益を最大となることを目指すことが弁護士の仕事でもあります。 これに対し、遺産分割調停において司法書士に依頼できることは、調停申立てのサポートです。具体的には調停申立書の作成と申立てに必要な書類の収集を依頼することができます。 弁護士と違い、相続人の代理人として調停に出席したり、主張を代弁したりすることはできない点に注意しましょう。 |
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