2023/7/4

葬儀費用は誰の負担?

相続が開始すると、比較的短期間の間にいろいろな手続をしなければならず、それに伴って費用も発生することになります。とりわけ、最も経済的な負担が大きいのが葬儀費用だと思います。
 
葬儀費用は、相続が開始して直ちに必要となる費用ですが、その多くは喪主や相続人が自身の財産から支払うか被相続人の現預金といった相続財産の中から支払うことになるでしょう。そのような場合に、葬儀費用を支払った喪主や相続人がほかの相続人に対して負担を求めたり、相続財産から葬儀費用を負担することに反対する相続人がいたらどのように取り扱うのがよいでしょうか。
 
今回は、誰が葬儀費用を負担することになるのかという点について解説します。
 
 
 
 
 
葬儀費用は誰の負担?
 
 
目次
1.葬儀費用は遺産分割の対象となる?
2.葬儀費用の負担についての学説・裁判例
3.実際にはどうすればよい?
 
 
 
1.葬儀費用は遺産分割の対象となる?
 
 
葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解されています(名古屋高判平成24.3.29)。
 
通常、葬儀費用は相続が開始した後に発生する債務であるため、相続財産そのものとは考えにくく、したがって、遺産分割の対象とはならないのが原則です。
 
ただし、被相続人が生前に自分の葬儀に関する契約を結んでいた、といった特別な事情があれば、葬儀費用も相続財産に含まれると考えることはできるでしょう。
 
 
 
2.葬儀費用の負担についての学説・裁判例
 
 
葬儀費用が相続財産(債務)そのものではないとすると、相続人が法定相続分に応じて負担することにはなりません。それでは、いったい誰が葬儀費用を負担するのかという問題があるわけですが、法律上、明文の規定はなく、学説や裁判例なども統一した見解を示しているわけではありません。
 
葬儀費用の負担者についての主な説としては次の4つがあります。
 
 
① 喪主負担説
葬儀費用は葬儀を主宰した喪主が負担すべきであるとする説です(名古屋高判平成24.3.29など)。
 
 
② 相続人負担説
葬儀費用は相続人が共同して負担すべきであるとする説です(東京高決昭和30.9.5)。
 
 
③ 相続財産負担説
葬儀費用は相続財産から負担すべきであるとする説です(東京地判平成24.5.29など)。
 
 
④ 慣習・条理説
葬儀費用の負担は、その地方や親族団体内における慣習や条理によって決めるべきであるとする説です(甲府地判昭和31.5.29など)。
 
この中では、①の喪主負担説が優勢ともいわれていますが、近時の裁判例の中には②の相続財産負担説を採用しているものもあり、必ずしも見解が一致しているとは言い難い状況です。
 
結局のところ、学説や裁判例が一致した見解を示していない以上、まずは相続人同士での話し合いにより解決を目指すことになり、もしそこで争いが生じてしまうようであれば、裁判によって判断を仰ぐことになるものと考えられます。
 
 
 
3.実際にはどうすればよい?
 
 
では、いざ相続が開始して葬儀費用の負担が問題となった場合ですが、葬儀費用の負担については法律上の規定はないため、まずは当事者の話し合いによって決めることになるでしょう。その際には、前述の学説や裁判例などを参考にしてもよいかもしれません。
 
なお、前述のとおり、葬儀費用は相続財産そのものとは考えにくく、原則として遺産分割の対象とはなりません。ただ、葬儀費用も被相続人の相続に関連するものであり、相続人間の合意があれば遺産分割協議の内容とすることも可能であると考えられます。したがって、相続人間で葬儀費用の負担について合意が成立し、それを遺産分割協議の内容とすることを希望する場合には、後日のトラブルを防止するためにも、その合意内容を遺産分割協議書に明記しておくのが望ましいでしょう。
 
そして、もし当事者間で葬儀費用の負担について争いが起こった場合、遺産分割とは別に民事訴訟等に手続で解決を図ることになるでしょう。