2023/7/9
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相続をしたくないときの選択肢~「相続放棄」「相続分の放棄」「遺産放棄」の違い~ |
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相続が開始した場合に、煩わしい相続手続に関わりたくないとか、他の相続人に遺産を取得させたいなど様々な理由で遺産を相続しないという選択をする場合があります。 ただ、相続しないという選択をした場合に取るべき方法を誤ると、あとで思いがけない目に遭うかもしれません。 今回は相続しないという選択をした場合に利用する「相続放棄」「相続分の放棄」「遺産放棄」について解説します。 相続をしたくないときの選択肢~「相続放棄」「相続分の放棄」「遺産放棄」の違い~
1.相続放棄とは 相続放棄とは、家庭裁判所に対して行う相続人という地位を放棄する旨の申述のことです。相続放棄をすると、はじめから相続人でなかったものとして取り扱われるため、被相続人の権利・義務の一切を放棄することができます。 相続放棄は、家庭裁判所という国家機関に対する申述であることから、対外的にもその効力を発揮します。したがって、被相続人の遺産の中に借金などの債務があった場合に、その債権者から法定相続分に応じた請求があったとしても、相続放棄を理由にその請求を拒むことができます。 注意点としては、相続放棄は、原則として相続が開始したことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述をしなければならず、被相続人の生前にあらかじめ申述しておくことはできません。また、遺産を処分するなどの一定の行為があると単純承認をしたものとみなされ、相続放棄をすることができなくなってしまいます。そして、一度、相続放棄をするとその後撤回をすることができず、相続放棄をした人の他に同順位の相続人がいない場合、次順位の相続人に相続権が移ることになります。 2.相続分の放棄とは 相続分の放棄とは、相続人が持っていた遺産に対する相続割合を放棄する、というものです。民法上、相続分の放棄に関する規定はありませんが、実務上は行うことができるとされています。もっとも、相続分の放棄は、家庭裁判所に対する意思表示に過ぎないと解されているため、裁判外での遺産分割の場合に、必ずしも遺産分割協議から離脱できるわけではないことに注意が必要です。 遺産分割協議の段階での相続分の放棄は、一部の相続人が自分の相続分を放棄することを他の相続人が承諾し、その後にほかの相続人全員による遺産分割が成立した結果なされるものです。放棄した以上、その後の遺産分割協議には関わらずに済みますが、最終的には放棄の意思表示をした人が相続財産を一切取得しない旨を遺産分割協議書に記載し、その人を含めた相続人全員が署名捺印をするか、放棄の意思表示をした人が署名し実印で押印して作成した「相続分放棄証書」を差し入れることで、相続分の放棄は完了します。もし、遺産分割協議が整わず、調停または審判が行われている場合には、家庭裁判所に相続分の放棄をしたことを示す書面を提出することで,家庭裁判所が,「排除決定」という決定をします。 排除決定がされると,遺産分割手続の当事者ではなくなり,原則として、その後の期日に出席する必要はなくなります。 注意点としては、あくまで相続人や利害関係者間での内部的な合意にすぎず、相続人としての地位は維持しているため、被相続人の債権者から法定相続分に応じた請求があった場合に、相続分の放棄を根拠として請求を拒むことはできません。 3.遺産放棄とは 相続分の放棄と似たものに「遺産放棄」というものもあります。これは、相続人として遺産分割協議に参加したうえで、自分が遺産を相続しないことについて合意が成立した場合をいいます。遺産放棄をするには、相続人全員で行う遺産分割協議で財産を相続しない意思表示し、遺産分割協議書を作成すれば完了します。 注意点としては、相続分の放棄と同様、あくまで相続人間での内部的な合意にすぎず、相続人であることに変わりはないため、被相続人の債権者から法定相続分に応じた請求があった場合に、遺産放棄を理由に請求を拒むことはできません。 4.まとめ 以上、相続放棄、相続分の放棄、遺産放棄の違いについて解説してきましたが、どの方法を選択するかの判断は慎重に行う必要があります。 特に相続放棄は一度その効果が発生すると、原則として撤回することができなくなりますので、相続をしたくないという考えが具体的にどのような目的に基づくものなのかをしっかりと確認し、その目的に沿う方法を選択するようにしましょう。
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