2023/7/14

農業の法人化について

個人事業主が株式会社や合同会社などの法人を設立し、それまで個人で行っていた事業を引き継ぐことを、法人化(法人成り)と呼びますが、農業においても、それまで個人事業主として行っていた農業を、法人化して行う場合があります。
 
その活用の仕方としては、例えば、自己所有の農地を、一定の要件のもとで自ら設立した法人に貸すことがあります。こうしておけば、もし農地所有者が高齢などの理由で自ら農業に従事できなくなってしまった場合でも、その法人が従業員を雇うことで農地を耕作することが可能になり、また、農地所有者の相続人が農業を継がないような場合でも、農地を手放すことなく農地を守ることも可能となります。
 
 
 
 
 
農業の法人化について
 
 
目次
1.法人化のメリット・デメリット
2.農地所有適格法人
3.農地所有適格法人以外の法人
4.おわりに
 
 
 
1.法人化のメリット・デメリット
 
 
農業を法人化することのメリットとしては、株式会社などの法人を設立し登記することで社会的な信用度が高くなる点があります。農業だけに限らず、事業を行っていくうえで信用は欠くことのできない要素ですが、個人事業の場合だと事業主本人の属人的な信用のみに頼ることになるケースが多いと思われます。一方、法人化すれば事業主の死亡などによる廃業もなくなり、また経営体制を整えることで信用度が上がることやその安定性が期待できます。
 
法人化して信用度が上がれば、設備投資などのために金融機関から融資を受ける際に有利に働くこともあるでしょう。また、求職者は個人事業よりも法人のほうに信用度が高いと感じていることが多いため、従業員を雇う場合の人材の確保にも有利に働くことが期待できます。
 
ただし、法人化する場合、法人設立のための費用や社会保険の加入による保険料の負担が発生するなど、経済的な面でのデメリットがあることには注意しなければなりません。
 
 
 
2.農地所有適格法人
 
 
農業を法人化する際、法人が農地を所有する場合には「農地所有適格法人」としての要件を満たすことが必要です。
 
農地所有適格法人とは、農業経営を行うために農地を取得することができる法人をいい、以下に挙げる要件をすべて満たしているものをいいます。
 
 
① 法人形態
 株式会社(公開会社でない)、農事組合法人、合名会社、合資会社、合同会社であること
 
 
② 事業内容
 売上高の過半が農業(販売・加工を含む)によるものであること
 
 
③ 議決権
農業関係者が総議決権の過半数を占めること
 
 
④ 役員
役員の過半数が、農業に常時従事する者(原則として年間150日以上)によって構成されていること。役員または重要な使用人が1人以上農作業に従事すること(原則として年間60日以上)
 
「農地所有適格法人」は平成28年の農地法改正によって定められた概念です。それ以前は、農地を所有できる法人は「農業生産法人」という名称でしたが、改正により「農地所有適格法人」となりましたので、現行法上「農業生産法人」という概念はありません。ただ、改正後も引き続き「農業生産法人」の呼称を使用している法人もあります。
 
農地所有適格法人としての要件を満たせば、個人が所有している農地を現物出資するなどの方法で、法人の所有とすることができます。
 
 
 
3.農地所有適格法人以外の法人
 
 
法人化して農業経営を行ううえで農地を所有しないのであれば、農地所有適格法人としての要件を満たさない法人という方法もあります。
 
農地所有適格法人でないため、農地を所有することはできませんが、農地を借りることは認められますので、例えば、自分が出資して設立する法人で役員に就任し、農地の所有者個人として法人に農地を貸すことは可能です。
 
また、農地を利用した福祉や地域貢献活動を考えるのであれば、一般社団法人やNPO法人といった非営利団体を設立する方法があります。これらの法人は農地所有適格法人になることはできないため、農地を所有することはできませんが、農地を借りることは可能ですので、農地の所有者がこれらの団体を設立し、農地を貸すという方法があります。
 
 
 
4.おわりに
 
 
農業を法人化することにより、農地の柔軟な活用という面では一定の効果を期待できるでしょう。ただし、例えば、相続税の納税猶予など、何らかの制度を利用している場合に、法人に対して農地を貸し出すことによって、利用中の制度に影響が及ぶ場合もあります。また、不動産を現物出資する場合は、それは資産の譲渡とみなされ所得税の課税対象になります。
 
農業の法人化を検討する場合には、専門家の意見を聞くなどして様々な観点から考える必要があるでしょう。