2023/7/17

自分の死後、残されたペットのために~負担付遺贈(相続)の活用~

新型コロナの流行による在宅勤務や外出自粛の影響で、家で過ごす時間が増えたことから、自宅での癒やしや安らぎを求めて新しくペットを家族として迎えた人もいるのではないでしょうか。もちろん、それ以前からも「動物が好き」「可愛い」など様々な理由でペットを飼っている人は多く、家族同様、あるいは家族以上にペットを大切にしている人は増えています。ただ、いくらペットの存在を大切にしていたとしても、ペットには人と同じような権利能力がなく、もしペットに自分の財産を残したいと考えて、例えば「全財産を愛犬〇〇に包括して遺贈する」という遺言をしても、それは無効であり何の効力もありません。
 
しかし、直接、ペットに自分の財産を残すことはできなくても、誰かにペットの世話を依頼して、そのために使ってもらうことは可能です。その点に着目して、自分の死後、大切なペットが生涯幸せに暮らせるようにするために利用される方法の1つとして「負担付遺贈」や「負担付相続」というものがあります。
 
 
 
 
 
自分の死後、残されたペットのために~負担付遺贈(相続)の活用~
 
 
 
目次
1.負担付遺贈とは
2.負担付相続とは
3.自分の死後、ペットの世話を依頼したいときの負担付遺贈(相続)
4.ペットの世話を依頼するための負担付遺贈(相続)をする場合の留意点
 
 
 
1.負担付遺贈とは
 
 
遺言によって特定の人に財産を取得させることを遺贈といいますが、負担付遺贈とは、財産を取得する人(受遺者)に対して、財産を取得させる代わりに一定の法律上の義務を負担させる遺贈のことをいいます。
 
 
(1)受遺者が負担する義務の限度
 
受遺者は遺贈の目的の価額を超えない限度において負担する義務を負います。つまり、遺贈により取得した財産の価値以上の負担をする必要はないということです。
 
 
(2)受遺者の放棄
 
遺贈した場合、受遺者に遺贈を受諾する義務はなく、遺言者の死亡後はいつでも遺贈の放棄をすることができますが、それは負担付遺贈においても同様です。ただし、負担義務の履行のみを拒絶して、財産を取得する事はできず、拒絶する場合は、負担とセットとなっている財産と併せて放棄することとなります。
 
 
(3)受遺者が負担する義務を履行しない場合
 
負担付遺贈は、受遺者が負担する義務を履行しない場合であっても、当然には無効となりません。この場合、相続人等が相当の期間を定めてその履行を催促することができ、その期間内に履行がなければ、家庭裁判所に対してその負担付遺贈に係る遺言の取消しを請求することができます。負担付遺贈に係る遺言が取り消されると、その負担付遺贈ははじめからなかったことになり、負担付遺贈の対象となっていた財産は相続人に帰属することになります。
 
 
 
2.負担付相続とは
 
 
負担付相続とは、遺言により、相続人に対して財産を相続させる代わりに一定の法律上の義務を負担させる相続のことです。負担付相続については、負担付遺贈とは異なり民法上は規定されていませんが、負担付遺贈についての民法の規定を類推して負担付相続も同様に可能であると考えられています。したがって、負担付遺贈における上記(1)(2)(3)の内容は、負担付相続にも当てはまります。
 
 
 
3.自分の死後、ペットの世話を依頼したいときの負担付遺贈(相続)
 
負担付遺贈(相続)は、財産を取得させる代わりに一定の義務を負担させることができますので、これを活用して、例えば、自分の死後、信頼できる人に対して財産を遺贈するか相続させ、その代わりにペットの世話をみてもらったり、ペットが死亡したときには相当な方法で埋葬、供養しなければならないといった義務を負わせることが可能となります。
 
 
 
4.ペットの世話を依頼するための負担付遺贈(相続)をする場合の留意点
 
 
(1)負担付遺贈(相続)の相手
 
遺贈する、または相続させる相手は、遺言者と同じようにペットを可愛がり、親身になって世話をしてくれる人であることが望ましいでしょう。相手からすれば、負担付遺贈はいつでも放棄することができますので、適切な人でなければ負担付遺贈を放棄してペットの世話をすることを拒否されてしまうかもしれません。
 
 
(2)負担の内容
 
ペットの世話をみてもらう受遺者または相続人は、遺贈または相続の目的の価額を超えない限度において負担する義務を負います。つまり、遺贈または相続によって取得した財産の価値以上の負担をする必要はないということですので、遺贈をしようとする人は、受遺者の負担が過度に大きくならないよう、遺贈する財産と負担させる義務の内容をよく考える必要があります。ペットの寿命を考慮して、毎月の食事代やトリミングの費用、病気になった時の医療費など予想できる出費の総額だけでなく、受遺者や相続人に対する謝礼を含めたところで遺贈するまたは相続させる財産の内容を決め、遺贈または相続の目的の価額が不足しないよう遺言をする必要があるでしょう。
 
 
 
4.まとめ
 
 
負担付遺贈または負担付相続という方法を利用すれば、自分の死後、残されたペットの世話をしてもらうことが期待できます。
 
しかし、ペットの世話をすることになる人には放棄する自由があり、また、負担する義務にも一定の限度があります。
 
残されたペットがその生涯にわたり幸せに暮らせることを願うのであれば、ペットを安心て預けられる適切な相手を選ぶ必要がありますし、また、その相手の負担が過度に大きくならないよう、遺贈や相続の対象にする財産と負担する義務の内容についてよく考える必要があるでしょう。場合によってはペットの世話をお願いしようと思っている相手とよく相談することも大切です。
 
 
 

 
森山司法書士事務所では、負担付遺贈に関するご相談・ご依頼を承っております。
 
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