2023/7/20
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【令和6年4月1日施行】DV被害等を受けていて不動産登記簿上に住所を公開されたくないときは、どうすればいい? |
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現行の不動産登記法では、登記記録に登記名義人の氏名及び住所が記録され、誰でも登記事項証明書の交付を請求することができます。つまり、登記名義人の氏名や住所は誰もが知りえる状態に置かれています。 これにより、不動産の権利関係などの状況が誰にでもわかるようにし、取引の安全と円滑が図られている一方で、登記名義人等がいわゆるDV被害者等である場合に、その加害者が登記事項証明書を取得することでDV被害者等の現住所を知られてしまうと、その生命や身体に危害が及ぶ可能性もあります。 そこで、DV被害者等といった、住所が明らかにされることで生命や身体に危害が及ぶおそれがある者を保護する観点から登記事項証明書の交付に関して令和3年に法改正が行われました。 【令和6年4月1日施行】DV被害等を受けていて不動産登記簿上に住所を公開されたくないときは、どうすればいい?
1.問題の所在 近年、個人情報に対する意識が高まる中で、不動産登記簿において所有者等の登記名義人等の住所を広く公開していることについて様々な問題点が指摘されています。一例として、相続登記を行うなどした後に、不動産業者からのダイレクトメールが届くようになることがあったり、住所が詐欺行為等の不正な目的で利用されることがある、などです。 これらの指摘を受けて、住所の公開を制限すべきではないかとの要望が存在する一方で、不動産に関する権利を公示することにより国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資するという不動産登記制度の目的に照らし、公共事業の実施や民間の取引において、不動産の登記名義人等にアクセスを試みる際の基本的な情報が不動産登記に記録された住所であることなどの理由から、登記名義人の住所情報を非公開とすることは相当ではないという考えもあります。 2.法改正以前の状況(現状) 法改正以前においても、登記実務上は、例えば、登記名義人等がDV被害者等の被支援措置者である場合には、被支援措置者の保護の観点から現住所を秘匿する必要性が高いことに配慮して、一定の場合に、現住所への住所の変更の登記を不要とする取扱いや、前住所又は前々住所を登記権利者の住所として申請することを許容したり、登記申請書等に記載されている被支援措置者の住所の閲覧制限の取扱いを行っていたりします。 例えば、不動産の売買において登記上の住所が変わっている売主は、原則として、現在の住所へ変更登記をしてからでなければ、買主へ名義を変更することができません。しかし、 DV被害者が、支援措置を受けていることを証する書面を添付した場合には、例外として、現在の住所への変更登記を省略することができます(平成25年12月12日法務省民二第809号通達。ドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為等の被害者支援に係る住民基本台帳事務処理要綱)。 また、不動産を購入した買主は、現在の住所で登記することが原則ですが、下記の要件をすべて充たしている場合には、前住所・前々住所等で登記することができます(平成27年3月31日法務省民二第196号通知)。 ①支援を受けていることを証する書面の登記申請書への添付 ②「住民票上の住所を秘匿する必要がある」旨及び「住民票に現住所として記載されている住所地は、配偶者等からの暴力を避けるために設けた臨時的な緊急避難地であり、飽くまで申請情報として提供した住所が生活の本拠である」旨の上申書(実印の押印及び印鑑証明書の添付が必要) ③登記申請書に記載された住所が、前住所又は前々住所等として公務員が職務上作成した住所を証明する書類に記載があること。 しかし、これらの特例的な取扱いはあくまでも運用上のものにすぎず、また、これから義務化される相続登記や住所等の変更登記など、不動産登記簿の情報を最新のものにするための方策を実施するにあたり、DV被害者等を保護する観点からその住所を非公開とする取り扱いの必要性も一層高まっていることから、これらの措置に法的根拠が設けられました。
3.改正の内容 今回の改正により設けられた不動産登記法119条6項では、登記記録に記録されている個人の住所が明らかにされることにより人の生命・身体に危害が及ぶおそれがある場合や生命や身体への危害とはいえないまでもそれに準ずる程度の有害な影響が及ぶおそれがある場合には、登記事項証明書等にその住所に変わる事項を記録することとされています。 (1)適用対象者 現在の不動産登記の実務では、DV防止法第1条第2項に規定する被害者、②ストーカー行為等の規制等に関する法律第7条に規定するストーカー行為等の相手方、③児童虐待の防止に関する法律第2条に規定する児童虐待を受けた児童のほか、これらに準ずるものとされています。 しかし、上記に限らず、例えば、第三者から生命や身体に危害を加える内容の脅迫行為を受けている者なども、その住所を登記記録上秘匿する必要性は高いでしょう。そこで、住所が明らかにされることで人の生命や身体に危害が及ぶおそれがある場合やこれに準ずる程度に心身に有害な影響が及ぶおそれがあるものとして法務省令で定める場合には、改正による措置の対象とすることとされています。 なお、法人については、上記のようなおそれが及ぶことが想定されていないため、この措置の適用対象とはされていません。 (2)住所に代わる事項として記録する内容 登記記録に記録されている者の住所に代わる事項として、登記事項証明書等に記録する場合の具体的な方法としては、実際の住所の代わりにその者から申出のあった場所(例えば、委任を受けた弁護士等の事務所や被害者支援団体等の住所、あるいは法務局の住所などが想定されていますが、詳細は法務省令で定めることとされています。 関連記事: ・登記事項証明書等における代替措置について |
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