2023/7/21
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任意後見制度について |
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平成29年度高齢者白書によると、2012年は認知症患者数が約460万人、65歳以上の高齢者人口の15%という割合だったものが、2025年には20%、つまり5人に1人が認知症になるという推計があります。 高齢になるほど認知症の発症リスクは高まるといわれており、平均寿命の延びとともに今後、認知症患者は増加することが予測されます。もはや他人ごとではありません。 認知症などによって物事を判断する能力が十分でなくなってしまうと、本人が不動産や預貯金などの財産を管理・処分したり、医療・介護などのサービスや施設に入所するための契約を結んだりすることが難しくなります。 既に認知症などによって判断能力が不十分な状態であれば、利害関係人の申立によって家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見」の制度を利用することになりますが、「法定後見」では一般的に司法書士や弁護士などの専門職が後見人に選任されることが多く、必ずしも申立人や本人の希望が通るとは限りません。 このような「法定後見」の制度に対して、あらかじめ自分の後見人になってもらう人を決めておく「任意後見」という制度があります。 任意後見制度について
1.任意後見契約とは 任意後見契約とは、まだ判断能力が十分に備わっているか、衰えたとしてもその程度が軽く、自分で後見人を選ぶ能力を持っている人が、将来、精神上の障がいにより事理を弁識する能力が不十分な状況になったときに備えて、自分の財産管理、処分、介護等の手配をする後見人を選び、その事務についての代理権を与える契約のことです。 2.任意後見契約の形態 (1)将来型 将来、本人の判断能力が低下した時点ではじめて任意後見による保護を受けようとする場合の契約形態です。 (2)移行型 判断能力には問題はないものの、身体能力の低下などを理由に財産管理を誰かに任せたいといった場合に、通常の任意代理の委任契約に基づいて、契約時から将来の後見人となる人に財産管理等の事務を任せ、本人の判断能力の低下後は任意後見監督人の公的な監督下で後見人に事務処理を継続してもらう場合の契約形態です。 (3)即効型 任意後見契約を結んだ直後に、その効力を発生させる必要がある場合の契約形態です。 3.任意後見契約の当事者 (1)任意後見契約の委任者 ここでの「委任者」とは、将来、自分の判断能力が低下したときに後見の事務を行ってもらうように依頼する人のことですが、この委任者については法律上、特に制限は設けられておらず、意思能力があれば、誰でも委任者になることができます。 ① 未成年者 未成年者でも意思能力があれば、法定代理人(親権者・未成年後見人)の同意を得たうえで、自ら委任者となることができます。 ② 法定後見が開始している人 法定後見(後見・保佐・補助)が開始している場合でも、本人の自己決定権を尊重する観点から、本人に意思能力があれば法定後見人の同意や代理等によって任意後見契約を結ぶことができます。 ただし、本人に意思能力があるかどうかは、医師の診断書、本人の応答の状況、関係者の供述などを総合的に考慮して、慎重に判断されることになります。 ③ 任意後見契約を締結している人 既に任意後見契約を締結している人が、別の任意後見契約を締結することも可能です。また、任意後見が開始した後でも、本人に意思能力があれば新たな任意後見契約を締結することができるとされています。 (2)任意後見契約の受任者 ここでの受任者とは、任意後見人になる人のことですが、未成年者、破産者、行方不明者、家庭裁判所から法定代理人などを解任されたことがある人、本人に対して裁判をしたことがある人とその配偶者と直系血族、不正な行為や著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある人は任意後見人となることはできません。つまり、これらの人以外の成人であれば基本的には誰でも任意後見人になることができます。したがって、身内の中で信頼できる人がいればその人に依頼するのもよいですし、適任者がいないようであれば、弁護士、司法書士、行政書士、社会福祉士等の専門家や福祉に関わる法人に依頼してもよいでしょう。なお、任意後見契約では複数の受任者を選任することもできます。ただ、その場合はそれぞれの受任者の代理権の範囲をどのように定めるかをよく検討する必要があります。 4.任意後見契約の方式 任意後見契約を締結するには、法律により公正証書で行わなければならないと決められています。公正証書は、公証役場にいる公証人が作成しますので、自分たちで書面を作成しても無効となります。 5.任意後見契約の登記 任意後見契約の公正証書が作成されると、公証人からの嘱託により、法務局で登記されます。その登記に基づいて法務局から発行される登記事項証明書(本人の本籍・住所・生年月日、任意後見人の住所・氏名、代理権の範囲等が記載されたもの)があれば、任意後見人は自己の代理権を証明することができますし、取引の相手方も登記事項証明書の提示を受けることで安心して本人との取引を行うことができます。 6.任意後見の開始時期 任意後見契約の受任者や親族等が、本人の同意を得たうえで(本人がその意思を表示することができない場合はこの限りではありません)、家庭裁判所に対し、本人の判断能力が衰え、任意後見事務を開始する必要が生じたので「任意後見監督人」を選任してほしい旨を申し立て、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任すると、その時から任意後見人として契約で定めておいた仕事を開始します。
7.任意後見人の仕事 任意後見人の仕事は、本人の財産管理と介護や生活面の手配です。具体的なものには以下のものがあります。 ① 本人の財産管理 自宅等の不動産や預貯金の管理、税金や公共料金の支払いなど ② 介護や生活面の手配 要介護認定の申請等に関する諸手続、介護サービス提供機関との介護サービス提供契約の締結、介護費用の支払い、医療契約の締結、入院の手続、入院費用の支払い、生活費の交付や送金、老人ホームへ入居する際の体験入居の手配や入居契約の締結など なお、任意後見契約は後見人に代理権を与えるものであるため、その内容は契約等の法律行為に限られ、おむつを替えたり、掃除をするといった介護サービス等の行為は含まれないことに注意が必要です。 8.任意後見契約の終了 任意後見契約が終了する事由には以下のものがあります。 (1)任意後見契約の解除 ① 任意後見監督人の選任前 任意後見監督人の選任前であれば、本人または任意後見契約の受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができます。 ② 任意後見監督人の選任後 任意後見監督人の選任後は、本人または任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができます。 (2)任意後見人の解任 任意後見監督人の監督などを通じて任意後見人の不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由が判明した場合には、家庭裁判所は任意後見監督人、本人、その親族または検察官の請求により、任意後見人を解任することができます。 (3)法定後見の開始 任意後見監督人が選任された後に法定後見(後見・保佐・補助)の開始の審判がされたときは、両者の権限の重複・抵触の防止等の観点から、任意後見契約は当然に終了します。 (4)契約当事者の死亡・破産等 任意後見契約も委任契約の一種であることから、委任契約の終了事由に該当した場合には終了します。具体的には、本人または任意後見人の死亡、破産のほか、任意後見人が後見開始の審判を受けた場合などがあります。 9.任意後見に関する費用 任意後見に関する費用には、主に以下のようなものがあります。 (1)公証役場の手数料 ① 任意後見契約書の作成費用 任意後見契約は、1契約につき1万1,000円です。受任者である任意後見人が2人の場合で、それぞれが単独で委任者と契約する場合には2契約となり、2万2,000円となります。ただし、受任者である任意後見人が2人の場合でも、2人が共同して代理する契約を締結する場合には1契約となりますので1万1,000円です。 また、契約書の枚数が4枚を超えると以後1枚につき250円が加算されます。 ② 正本、謄本の作成手数料 本人や任意後見の受任者に交付する任意後見契約書の正本等の作成手数料として1枚250円×枚数分の費用がかかります。 ③ 公正証書作成のために公証人が出張した場合の手数料加算 出張して任意後見契約書を作成した場合は、通常の手数料に病床執務加算(手数料額の 10 分の 5)があり、また、日当(4時間までは1万円、それを超える場合には2万円)と現場までの交通費が加算されます。 (2)法務局の費用 任意後見契約の公正証書が作成されると、公証人からの嘱託により、法務局で登記がされますが、その登記に関する費用として、収入印紙代2,600円と登記嘱託料1,400円のほか、法務局に登記の申請書類を郵送するための書留料金として実費相当額が必要です。 (3)任意後見人・任意後見監督人に対する報酬 任意後見人に対する報酬は、契約を締結する当事者が決めることになります。受任者が身内であるような場合、通常は無報酬とすることが多く、受任者が司法書士などの専門家の場合は、毎月○○円などのように決めたうえで契約書に記載します。 任意後見監督人にたいする報酬は、家庭裁判所が、本人の財産の額、監督事務の内容、任意後見人の報酬等の諸事情を考慮してその額を決定します。 |
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