2023/8/3

認可地縁団体が所有する不動産の登記申請の特例

地方自治法等に定められた要件を満たし、一定の手続を経て法人格を得た自治区、自治会等の地縁による団体を「認可地縁団体」といいます。認可地縁団体は不動産登記の名義人になることができますが、認可地縁団体が不動産登記をしようとする際に、現在の登記名義人やその相続人の所在が不明なためにその協力が得られないといった理由で、不動産の登記申請に支障をきたしている場合がありました。

この問題を解消するため、地方自治法が一部改正され、平成27年4月1日から、認可地縁団体が所有する不動産については、市町村長が一定の手続を経て証明書を発行することにより、認可地縁団体が単独で不動産の登記を申請をすることができるようになりました。  
 
 
 
認可地縁団体が所有する不動産の登記申請の特例
 
 
目次
1.認可地縁団体とは
2.特例制度の創設
3.特例制度が適用される不動産の要件
4.認可地縁団体による公告の申請手続 
5.疎明事項及び疎明資料
6.特例制度を利用した手続の流れ
7.公告に対する異議の申出
 
 

1.認可地縁団体とは
 

従来、自治会や町内会は、「権利能力なき社団」と位置づけられ、法人格を取得することができなかったことから、自治会や町内会が不動産を持っているとしても、当該団体の名義での不動産登記ができませんでした。
そのため、不動産の登記名義は便宜上、当該団体の会長個人や構成員全員の共有名義としなければならず、当該名義人の死亡による相続や、当該名義人の債権者による不動産の差押え等の財産上の問題が生じることがありました。
このような問題を解消するため、平成3年の地方自治法の改正により「認可地縁団体」の制度が創設されました。これにより、不動産を保有又は保有を予定している自治会や町内会が法人格を取得し、当該団体名義での不動産登記が可能となりました。
 
 
 
2.特例制度の創設
 
 
認可地縁団体は不動産の登記名義人になることができるようになりましたが、認可地縁団体になるより前に、便宜上登記をしていた不動産の登記名義人が多数に上っており、しかもそれらの名義人に相続が発生して相続関係を確定させることが困難となる場合があったり、そもそも登記名義人やその相続人の所在が分からないなどの理由により、登記名義人の協力を得ることが非常に困難であることから、不動産登記法に則った手続をとることが難しく、認可地縁団体への移転登記が進まない問題が多数生じていました。
 
そこで、地方自治法に「認可地縁団体が所有する不動産に係る登記の特例」が設けられ、一定の条件を満たした認可地縁団体が所有する不動産については、認可地縁団体が市町村へ公告申請を行い、市町村が「公告した結果、異議申出がなかった」旨を証する書面を交付し、それを法務局に提供することで、特例により認可地縁団体が単独で不動産の保存または移転の登記を申請することができるようになりました。
 
この改正は平成27年4月1日から施行されています。
 
 
 
3.特例制度が適用される不動産の要件
 
 
市町村に対して公告を求める申請をするためには、次の①~④のすべての要件を満たしている必要があります。
 
① 当該認可地縁団体が当該不動産を所有していること。
 
② 当該認可地縁団体が当該不動産を10年以上所有の意思を持って平穏かつ公然と占有していること。
 
③ 当該不動産の表題部所有者又は所有権の登記名義人のすべてが当該認可地縁団体の構成員又はかつて当該認可地縁団体の構成員であった者であること。
 
④ 当該不動産の登記関係者の全部又は一部の所在が知れないこと。
 
 
 
4.認可地縁団体による公告の申請手続 
 
 
認可地縁団体が所有する上記の要件を満たした不動産について、認可地縁団体が単独で不動産の保存または移転の登記を申請しようとするには、まず、当該認可地縁団体が市町村に対して以下の資料を提出して公告の申請をします。
 
 
(1)所有不動産の登記移転等に係る公告申請書
 
当該申請の提出先となる市町村のホームページ等で取得することができます。なお、申請書に記載する「申請不動産に関する事項」については、同ホームページ等で別途掲載されている記載要領に基づいて記載します。
 
 
(2)公告申請書の添付資料
 
公告申請書には以下の資料を添付する必要があります。
 
① 申請の対象となる不動産の登記事項証明書
 
② 保有資産目録又は保有予定資産目録等

認可地縁団体の申請時に提出した保有資産目録又は保有予定資産目録が該当しますが、目録に申請対象の不動産の記載がない場合は、当該不動産の所有に至った経緯等について分かる書類(総会議事録等)を提出します。
 
③ 申請者が代表者であることを証する書類

認可地縁団体の申請時(代表者変更時)に提出した代表者選出の議決を行った議事録や就任承諾書の写し等が該当します。
 
④ 地方自治法第260条の46第1項各号に掲げる事項を疎明するに足りる資料
 
 

5.疎明事項及び疎明資料
 
 
上記4.(2)④(地方自治法第260条の46第1項各号に掲げる事項を疎明するに足りる資料)については、次の①~③のすべてを疎明できる資料を提出します。
 
① 認可地縁団体が今回申請の不動産について所有及び10年以上所有の意思を持って平穏かつ公然と占有していること。(地方自治法第260条の46第1項第1号及び第2号関係)

具体的には、申請する不動産の所有又は占有に係る事実が記載された認可地縁団体の事業報告書等(申請時点及びその10年以上前の時点のもの)に加えて、次のような資料で疎明します。
・公共料金の支払い領収書(原則として、宛名が認可地縁団体名義となっているもの)
・閉鎖登記簿の登記事項証明書又は謄本
・旧土地台帳の写し
・固定資産税の納税証明書(原則として、宛名が認可地縁団体名義となっているもの)
・固定資産課税台帳の記載事項証明書  など
 
これらの資料の入手が困難な場合は、当該不動産の所在地に係る地域の実情に精通した者の証言を記載した書面等により疎明することが可能と考えられますが、この場合は、資料の入手が困難であった理由を記載した書面を併せて提出する必要があります。
 
② 申請の対象となる不動産の登記事項証明書の表題部所有者又は所有権登記名義人のすべてが認可地縁団体の構成員又はかつて構成員であった者であること。(地方自治法第260条の46第1項第3号項関係)

具体的には以下のものが考えられます。
 
・認可地縁団体の構成員名簿
・市町村が保有する地縁団体台帳
・(申請不動産が墓地である場合)墓地の使用者名簿など
 
なお、申請の対象となる不動産の登記事項証明書の表題部所有者又は所有権登記名義人のすべての住所が認可地縁団体の区域内にある人であれば、構成員又はかつて構成員であった者であることの証明になります。
 
 
③ 申請の対象となる不動産の登記関係者(表題部所有者もしくは所有権登記名義人又はこれらの相続人)の全部又は一部の所在が知れないこと。(地方自治法第260条の46第1項第4号関係)

具体的には以下のものが考えられます。
 
・登記記録上の住所の属する市町村の長が、当該市町村に登記関係者の「住民票」及び「住民票の除票」が存在しないことを証した書面
・登記記録上の住所に宛てた登記関係者宛ての配達証明付き郵便が不到達であった旨を証明する書面
・申請不動産の所在地に係る地域の実情に精通した者等が、登記関係者の現在の所在を知らない旨の証言を記載した書面 など。
 
なお、所在が判明している登記関係者からは、事前にこの申請についての同意を得ておきます。
 
 
 
6.特例制度を利用した手続の流れ
 
 
(1)事前準備
 
まず、事前に役所等の担当部署と協議を行います。併せて申請の対象となる不動産の所有者を把握したり、所在が判明している登記関係者から特例制度を利用した登記申請についての同意を得ておきます。
 
 
(2)総会の開催
 
規約に従い総会を開催し、特例制度を利用した登記申請をすることを協議、可決します。
 
 
(3)公告申請
 
市町村の担当部署に申請に必要な書類を提出します。市町村は、提出された書類により申請要件を満たしているかどうかを判断します。
 
 
(4) 公告
 
申請要件を満たしていると判断すれば、申請の対象となる不動産の登記をすることについて異議のある関係者等は、市町村に異議を述べるよう公告します。この公告期間は3ヶ月を下ってはならないとされています。
 
 
(5)情報提供
 
異議の申出がなかった場合、登記関係者等の同意があったとみなし、市町村は認可地縁団体に対して公告結果を証する情報を書面により提供します。もし、異議の申出があった場合には、登記の特例手続に必要な「公告結果を証する情報」の提供は行われません。市町村は認可地縁団体に対して異議があった旨及び異議申出書の内容を通知します。
 
 
(6)登記
 
認可地縁団体は、上記(5)で提供された「公告結果を証する情報」を含む必要書類を用意し、法務局で登記手続を行います。
 
 
 
 7.公告に対する異議の申出
 
 
公告内容に異議のある当該不動産の登記関係者又は当該不動産の所有権を有することを疎明する者は、市町村に申し出ることができます。
 
異議の申し出があったときは、市町村は申請を行った認可地縁団体に対し、その旨を通知することになり、特例制度に関する手続は中止されます。
 
以後、当事者間での協議を経て同意が得られれば、申請を行った認可地縁団体は再度、市町村に対して公告を求める申請を行うことになります。