2023/8/5

親亡き後の障がい者のための任意後見

知的障がいや精神障がいのある子がいる場合、親が元気な間はその生活をサポートすることができますが、親が亡くなったり身体能力や判断能力が低下したりすると、子の世話を十分にできる人がいなくなり、様々な問題に直面する可能性があります。
 
そのような問題を回避して、障がいのある子の生活を守る方法の一つとして、任意後見制度を活用することが考えられます。
 
 
 
親亡き後の障がい者のための任意後見
 
 
目次
1.障がい者の「親亡き後問題」
2.任意後見制度の活用方法
3.事前の備えが大切
 
 
 
1.障がい者の「親亡き後問題」
 
 
障がい者は、その障がいの程度にもよりますが、日常的に誰かの支援を必要とする場合も多く、特に、障がいのある子の面倒を全面的にみている両親にとっては、将来その子を支えられなくなったときに、誰が子の財産管理や身上監護を担ってくれるのだろうかという漠然とした不安や心配を抱えていることが少なくありません。
 
このことは、いわゆる「(障がい者の)親亡き後問題」などと言われていますが、親が亡くなる場合に限らず、親の身体能力や判断能力が低下した場合にも同様の問題が生じることになります。
 
 
 
2.任意後見制度の活用方法
 
 
このような障がい者の親亡き後問題に対処する方法の一つに任意後見制度を活用することがあります。

(1)親自身が任意後見契約を締結する
 
これは親自身が委任者となって、任意後見契約を締結するというものです。その具体的な内容としては以下のようなものが考えられます。
 
① 親の判断能力が低下した後の財産管理の内容の一つとして、子の生活費を定期的に支給する代理権を与える
 
② 併せて、子の介護等の事実行為を任せるための委任契約を締結する
 
③ 子の判断能力が低下する場合に備えて、子に関する法定後見開始申立の代理権を任意後見の委任事務の内容に含めておく
 
これらに加えて、
 
④ 親が亡くなった後の対策として、遺産を子に相続させるなど、子の保護を内容とする遺言を作成し、その際に任意後見契約の受任者を遺言執行者に指定する
 
⑤ 親が亡くなった後の役所などへの届出や各種の支払、葬儀や埋葬について、任意後見の受任者との間で死後事務委任契約を締結しておく
 
これにより、親が高齢になって判断能力が衰えたとしても任意後見人による財産管理を.通して障がいのある子の生活を守ることができ、さらに財産管理等委任契約や死後事務委任契約を締結したり、遺言を作成しておくことによって、判断能力が低下する前の段階でも財産管理を委ねたり、親が亡くなった後の諸手続についてもサポートを受けることができ、また、親が亡くなった後の遺産相続が円滑に進むことを期待することができます。
 
 
(2)子が任意後見契約を締結する
 
これは、障がいのある子自身が委任者となって、任意後見契約を締結する方法です。ただし、子の状況によっては、任意後見制度を利用できない場合があるため注意が必要です。
 
① 子に任意後見契約を締結する意思能力がある場合

子自身が信頼できる第三者を任意後見契約の受任者として、任意後見契約を締結することができます。子が未成年の場合であっても、親権者の同意を得ることにより、自ら任意後見契約を締結することができます。
 
なお、親が元気でいる間は、親自身が子の世話を行うことを希望するのが通常であるため、任意後見契約締結後すぐにその効力を発生させるのではなく、親が亡くなった後または身体能力・判断能力の低下後に、任意後見受任者が任意後見監督人の選任を裁判所に申し立てて、任意後見契約の効力を発生させるという方法もあります。
 
任意後見契約の効力が発生した後は、子は任意後見人の保護を受けることができますが、任意後見人として、親ともう一人信頼できる人の複数を後見人とするのもよいでしょう。

② 子に任意後見契約を締結する意思能力がない場合

この場合、子自身が任意後見契約を締結することはできず、法定後見制度を利用することになります。しかし、子が未成年の場合は、親権者が代理して任意後見契約を締結することができるとされています。
 
法定後見制度は家庭裁判所を利用する手続であり、家庭裁判所へ申立てをして後見人を選任してもらう必要があります。この際、親自身を後見人の候補者として裁判所へ申し立てることもできますが、後見人は家庭裁判所の職権で選任されるため、必ずしも就任できるとは限らず、弁護士や司法書士等の第三者が後見人に選任される可能性があります。
 
 
 
3.事前の備えが大切
 
 
今回、親亡き後問題への対策として任意後見制度を活用する方法を紹介しましたが、任意後見制度以外にも家族信託(民事信託)を利用する方法もあります。どのような方法を利用するのがいいのかは各家庭の状況にもよりますが、いずれにしても、親が亡くなったり、身体能力や判断能力が低下した後も障がいのある子が不自由なく平穏に生活していけるように、親が元気でいる間に備えをしておくことが大切です。