2023/8/6

「権利証」って何なの?

不動産の売買や融資を受ける際の担保を設定する場面において必要な書類のひとつに「権利証」というものがあります。ただ、この「権利証」(「権利書」)という言葉は一般的な呼び方であり、正式な呼び名ではありません。また、権利証という言葉は知っていても具体的にどの書類のことを指しているのかが分からず、登記事項証明書(登記簿謄本)のことを権利証だと思われる方もいたりします。
 
今回は、いわゆる「権利証」とはいったい何なのかを解説します。
 
 
 
「権利証」って何なの?
 
 
目次
1.権利証とは
2.現在の権利証について
3.登記済証と登記識別情報との違い
4.権利証が無くても登記手続は可能
5.権利証の管理は厳重に
 
 
1.権利証とは
 
 
権利証(権利書)とは、平成16年の不動産登記法改正(以下「法改正」という。)まで、登記が完了した際に、法務局から不動産の買主等の登記名義人に交付された書面のことをいいます。
 
例えば、売買や贈与、相続などによって不動産を取得し、その登記を法務局に申請する際には、必要書類を添付した申請書を提出することになりますが、その登記が完了すると、法務局が申請書の写しに登記済みの旨と受付年月日と受付番号が書かれた朱色の印を押して登記名義人に交付します。
 
これがいわゆる権利証(権利書)ですが、正確には「登記済証」といいます。
 
登記済証の印版イメージ
 
 
 

登記済証は、次に権利を移転したり抵当権を設定したりするときの登記申請の際に必要となるので非常に重要な書類ですが、登記済証そのものに不動産の権利が表われているわけではなく、その不動産に関して登記された権利者であることを証明する書類の1つにすぎません。
 
例えば、不動産の所有者が持っている登記済証は、その不動産の所有者であることを証明するための一つの書類にすぎないということです。
 
もし、不動産の所有者がその登記済証を失くしてしまったり、あるいは誰かに盗まれたとしても、登記済証は所有権そのものではありませんので、不動産の所有権を失うことにはなりません。
 
 

2.現在の権利証について
 
 
従来は、登記を申請するときには、法務局に出頭して書面で申請することになっていたのですが、平成16年の法改正により、法務大臣の指定を受けた法務局(オンライン庁)では、インターネットで申請できることとなりました。
 
ところが、登記済証は、書面のままではオンラインにより法務局に提出することも、反対に法務局から通知されることもできないため、オンライン申請の制度と両立できません。そこで、オンライン申請でも利用可能な「登記識別情報」の制度が導入されました。登記識別情報は、アラビア数字その他の符号の組み合わせからなる12桁のパスワードで、不動産及び登記名義人ごとに定められます。
 
登記識別情報通知(見本)※左側が折込方式、右側がシール方式
 
 
オンライン庁では、登記済証の交付に代えて、登記名義人に対し登記識別情報を通知することとされていますので、登記済証は順次、登記識別情報に切り替わることになりました。今ではすべての法務局がオンライン庁となっているため、(ほんの一部の例外を除いては)登記済証ではなく、登記識別情報が発行されています。
 
なお、オンライン庁に指定される前に既に交付されていた登記済証が無効とされることはなく、権利の移転や抵当権の設定に伴い登記を申請する場合にはそのまま利用することができます。
 
 
 
3.登記済証と登記識別情報との違い
 
 
登記済証も登記識別情報も登記手続における本人確認手段としての制度ですが、登記済証は、登記済証という書面そのもので本人確認を行うのに対し、登記識別情報は12桁のパスワードで本人確認を行うことが両者の異なる点です。なお、登記識別情報は通知書として書面で発行もされますが、書面そのものにはあまり意味はなく(というのは語弊がありますが)、コピーやパスワードをメモしたものでも有効であるのに対し、登記済証のコピーでは本人確認手段としての有効性はありません。
 
ところで、登記識別情報というパスワードで本人確認を行うということは、つまり、登記識別情報を他人に見られることは、紙の登記済証が盗まれることと同じことを意味します。したがって、その管理には十分気を付けなければなりません。登記識別情報通知が発行された時点では、登記識別情報が記載された箇所には目隠しシールあるいは折込による方法で封がされていますので、必要が生じるまでは開封しないほうがよいでしょう。
 
もしも登記識別情報が盗まれた場合や、管理が難しいと考える方のために、あらかじめ登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をしたり、事後的には登記識別情報の失効制度も用意されていますが、登記識別情報の通知を希望しなかったり、失効させたりした場合に、あとで再発行や再通知してもらうことはできませんので注意が必要です。
 
同様に、一度発行された登記済証や登記識別情報を失くしたり盗まれたりした場合でも、再発行や再通知はなされませんので、その管理には十分に注意する必要があります。
 
 
 
4.権利証が無くても登記手続は可能
 
 
登記済証や登記識別情報は、あくまで本人確認手段の一つであるため、もし無かったとしても、登記官による事前通知制度や司法書士等の資格者代理人による本人確認情報の提供の制度、公証人の認証による事前通知の省略の制度を利用すれば登記手続は可能です。ただし、権利証がある場合に比べて、費用や手間がかかったり、登記が完了するまでに時間を要することになります。
 
 
 
5.権利証の管理は厳重に
 
 
繰り返しにはなりますが、登記済証や登記識別情報は登記手続における本人確認手段としての制度であり、もし失くしたりしてもそれだけで権利を失うわけではありません。ただ、そうはいっても、所有権などの権利を持っていることを証明するための最も基本的な書類である点で非常に重要な意味を持っていますので、容易に他人に見られたり発見されたりしないよう厳重に管理しておきましょう。