2023/8/10
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NPO法人の役員変更登記について |
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平成7年1月に阪神・淡路大震災が発生し、市民ボランティアが大きな力を発揮したことをきっかけに、市民活動団体が簡便に法人格を得られるよう、平成10年3月に「特定非営利活動促進法(NPO法)」が制定され、「NPO法人制度」がスタートしました。NPO法人とは「特定非営利活動法人」と呼ばれ、株式会社と同じ法人の一種です。NPOは「Non-Profit Organization」の略で、株式会社とは異なり、利益を目的にしないという特徴を持ちます。 NPO法人には、役員として理事や監事を設置することとされており、特に理事が新しく就任した場合や辞任した場合や役員の任期満了後に同じ人がそのまま理事を継続する場合などには、その変更登記を法務局に申請しなければならない場合があります。 NPO法人の役員変更登記について
1.NPO法人の役員とは NPO法人の役員には理事と監事があり、そのうち登記しなければならないのは、代表権を有する理事のみです。 2.代表権を有する理事とは NPO法人の理事は、法律上、それぞれが単独で法人を代表する権限を有することが原則とされています。つまり、その定款において特に代表権を制限していない場合には、理事全員が代表権を有することになり、理事全員について住所と氏名を登記をする必要があります。 逆をいえば、定款において代表権の制限を行っており、理事長(代表理事)のみが代表権を有する場合には、理事長である理事のみを登記すれば足ります。 3.役員変更の手続 (1)役員の任期が満了した場合 NPO法人の役員の任期は、法律で「2年を超えない範囲で法人の定款で定める」こととなっています。したがって、どのNPO法人でも少なくとも2年に1回は役員の任期が満了します。この際、代表権を有する理事が交替する場合だけでなく、たとえ、再任する場合であっても、「再任という役員変更」が生じることから、法務局への役員変更登記が必要なことに注意する必要があります。 ① 定款に定められた方法で新しい任期の役員を選任する 定款に記載されている役員の任期規定から、役員の任期満了日を確認します。なお、設立当初の役員の任期は、一般的に定款の附則に記載されています。 仮に7月31日が、現在の役員の任期満了日であれば、8月1日から始まる任期の役員を、定款に定める方法で選任する必要があります。例えば、定款で「役員は総会で選任する」と定められていれば、通常は新しい任期が始まる前までに総会で役員を選出します。 なお、任期満了にともなう役員改選の場合、定款に別段の定めがなければ、原則として現在の役員の任期満了日の翌日から新しい任期が始まることになります。ときどき、定款に別段の定めがないにもかかわらず、役員改選の手続を行った日から新しい任期が始まるものと誤解されるケースもありますが、そうではないことに注意が必要です。また、任期満了に伴う役員変更の登記の申請は新しい任期の開始日以降に行わなければならず、新しい任期が始まる前に登記を申請することはできません。 登記事務の取り扱いとして、1ケ月程度の期間の予選(任期満了前に開催される総会等において、あらかじめ次期の役員の選出を行うこと)は認められていますが、半年や1年前に予選をして次の理事を決めることは認められていません。 ② 代表権を付与する理事を選任する 定款で代表権を付与する理事を制限している場合(登記する理事を1人ないし若干名に限定している場合)は、代表権を付与する理事を選任します。選任方法については定款の内容を確認する必要がありますが、一般的には理事の互選で選任することが多いと思われます。ただし、この場合でも互選であることが確認できる理事会によって選任することも可能です。 注意しなければならないのは、例えば、任期満了から1ケ月ほど前の総会で予選により次期の理事を決め、総会の終結後、直ちに理事会を開いて代表理事を予選した場合、理事が全て再任するのであれば認められますが、理事の交替がある場合は、予選としては認められないということです。 これは、交替した理事の任期がまだ始まっておらず、理事会を開いても理事会として認められないことと、実際に理事に就任したときの発言等が代表理事の選任に影響が出ないとも言い切れないことからです。理事全員が重任するのであれば、事実上そういった問題は起きないと思われることから、理事が全員重任する場合には、代表理事の予選も認められています。 つまり、代表理事を決める理事会については、その理事会を構成する理事が、その時点で理事としての資格があるのかに注意する必要があります。もし、理事の交替がある場合に、総会で次期の理事を選任し、総会の終結後、直ちに理事会を開いて代表理事を選任できるようにするためには、定款で任期の短縮伸長規定を定めておく必要があります。 なお、代表権を付与する理事を制限していない場合はこの手続は必要ではなく、理事全員を登記することになります。 (2)任期途中で役員に変更がある場合 ① 役員の住所や氏名の変更があった場合 法務局に登記している役員に住所や氏名の変更があった場合、その変更登記が必要です。 ② 役員が退任する場合 法務局に登記している役員が、任期途中で辞任,資格喪失,解任,死亡などにより退任する場合は変更登記が必要です。この際には、「辞任届」や「資格喪失を証する書面」「解任を証する書面」「死亡届」などの書類を添付します。なお、それにより登記している役員がいなくなってしまう場合は速やかに法務局に登記する役員を選任する必要があります。 (3)任期途中に役員を追加する場合 定款に定められた方法で新しい任期の役員を選任し、任期途中に追加された理事が、そのまま代表権を有する場合や、互選などの定款に基づく方法で代表権を付与する場合には選任手続を経たうえで役員変更登記を行う必要があります。なお、任期途中に追加された役員の任期は、一般的には前任または他の現任の役員の残存期間と定款に定められている場合が多いです。 4. 役員変更登記の必要書類 法務局に役員変更登記を申請する場合、一般的に次の書類が必要となります。 ① 役員変更登記申請書 法務局のホームページに役員変更の登記申請書の書式があります。役員変更が生じたケースごとの書式と記載例が用意されていますので、そちらからダウンロードし、法人の実情に応じて作成します。 ② 役員を選任したことを証する総会等の議事録 役員を選任した総会等の議事録には、選任された役員全員のフルネームと再任・新任の別を記載します(選任された役員全員のフルネームと再任・新任の別を別紙に記載し、議事録に綴じ込む方法でも構いません)。 議事録が複数枚にわたる場合は袋綴じもしくは綴じ目への契印(割印)が必要です。 なお、理事が各自法人を代表する場合には、社員総会議事録に押印した全員の印鑑につき市町村長の作成した印鑑証明書を添付しなければなりません。役員を選任した総会等の議事録には原則として議長または議事録署名人の署名または記名と実印の押印が必要となり、全員分の印鑑証明書の添付が求められます。 しかし、「法務局に法人の印鑑を登録している理事(通常は、理事長であることが多いと思います)」を再任し、かつ、その理事が議長または議事録署名人に選任されている場合、法人の印鑑を議事録に押印すれば他の方の押印は認印でもよく、印鑑証明書の添付は不要になります。 ③ 代表権を有する理事の互選書もしくは互選を証する理事会議事録(理事が各自法人を代表し、理事全員を登記する場合は不要) 理事の互選書には理事全員の、署名または記名と実印の押印が必要となります。しかし、「法務局に法人の印鑑を登録している理事」を再任し、かつ、その理事が法人の印鑑を互選書に押印していれば、他の方の押印は認印でもよく、印鑑証明書の添付は不要になります。同様に、理事会議事録には議長及び議事録署名人の署名または記名と実印の押印が必要となりますが、「法務局に法人の印鑑を登録している理事」を再任し、かつ、その理事が理事会の議長または議事録署名人に選任されている場合、法人の印鑑を議事録に押印すれば他の方の押印は認印でもよく、印鑑証明書の添付は不要になります。 ④ 定款 役員選任の手続が定款の内容に従って行われているかを確認するために添付します。 ⑤ 就任承諾書 再任の場合でも法務局には就任承諾書を提出しなければなりません。 なお、選任された席上で直ちに就任を承諾した場合に限り、議事録や互選書に「被選任者はその場で就任を承諾した」という旨を記載すれば、法務局への就任承諾書の提出は省略できます。 この場合、変更登記申請書には「就任承諾書は、社員総会議事録の記載を援用する。」などのように記載します。これは役員を選任する場合と代表権を有する理事を互選する場合のいずれも同じです。 ⑥ 印鑑証明書 ②と③の書類につき記名押印をする場合、原則として実印で押印し、全員分の印鑑証明書の添付が求められます。 しかし、「法務局に法人の印鑑を登録している理事」を再任し、かつ、その理事が権限をもって法人の印鑑を議事録等に押印すれば他の方の押印は認印でもよく、印鑑証明書の添付は不要になることは前述のとおりです。 ⑦ 「辞任届」や「資格喪失を証する書面」「解任を証する書面」「死亡届」など 法務局に登記されている理事が、任期途中で辞任・資格喪失・解任・死亡などにより退任する場合にはその事実があったことを証する書類が必要となります。 ⑧ 委任状 司法書士などの代理人に登記の申請を依頼する場合に必要となります。 ⑨ 印鑑(改印)届 代表権を有する理事が交替した場合、通常は「法務局に法人の印鑑を登録している理事」も変更となりますので、法人の印鑑の改印届も必要となります。 5.任期満了に伴う役員変更登記のポイント これまでに説明した内容から、以下のようにすると登記に関する実務上の負担を減らすことができます。 役員を選任する総会には新しい任期の役員が全員出席し、役員選任の際に全員が就任する意思を明確に示す。これによって就任承諾書を省略できますが、議事録の記載には注意が必要です。 役員を選任する総会の議長または議事録署名人のいずれかに「法務局に法人の印鑑を登録している理事A」が就任し、議事録の役員選任の項目には、選任された役員全員の氏名(フルネーム)新任・再任の別を記載と、全員がその場で就任を承諾した旨を明記し、議事録の記名押印欄のAのところに法人の印鑑を押印する。これによって、他の方が押印する印鑑は認印でよく、印鑑証明書も不要になります。 代表権を付与する理事の互選の場でも、選任された方が、その場で就任の意思を明確にし、記名押印欄のAのところに法人の印鑑を押印すれば、他の方が押印する印鑑は認印でよく、印鑑証明書も不要になります なお、この方法が利用できるのは、代表権を有する理事が再任する場合と、代表権を有する理事が変わっても旧理事長がいわゆる平理事として残る場合に限られます。 したがって、代表権を有する理事が同時に理事も退任する場合は、原則どおり、議事録や互選書には押印者全員の実印と印鑑証明書が必要となります。 また、前述のとおり、理事の交替がある場合には、あらかじめ代表理事を決めることができないため、次期の理事の任期開始日(現任の理事の任期満了日)以降に理事の互選または理事会を行う必要があります。しかし、法人を運営するうえでは総会と理事の互選または理事会を同じ日に開催して代表理事を決めることが効率的です。そのためには「定款に任期の短縮伸長規定を設ける」か「いったん理事全員が総会終結時で辞任する」の2通りの方法があります。 定款に伸長短縮規定を設ける場合の記載例は次のようになりますが、この規定を設けることができるのは役員を総会で選任することと定款で定めている法人に限られることと、これから定款変更をする場合には、所轄庁の認証を受ける必要があることに注意が必要です。
6.法務局への役員変更登記の申請 登記申請のために必要な書類の準備ができたら、法務局へ役員の就任もしくは重任(再任のこと)、または変更等の登記を申請します。定款で代表権の制限を行っており、理事長のみが代表権を有する場合でも「理事」の資格で登記を申請します。 申請先の法務局は、主たる事務所の所在地を管轄する法務局ですが、必ずしも最寄りの法務局とは限りませんので事前に調べておくようにしましょう。 株式会社などの法人が役員変更登記をする場合には登録免許税が必要ですが、NPO法人の登記に関して登録免許税は非課税となっています。 役員変更登記は、役員の変更日(就任日、辞任日など)から2週間以内に法務局へ申請しなければならず、登記を怠った場合には過料の制裁に処せられる可能性があるため注意が必要です。 7.所轄庁へ役員変更届を提出する NPO法人の役員に変更があった場合、都道府県などの所轄庁に届出を行う必要があります。変更の事由によって提出する書類が決まっていますが、共通して提出が必須なのは①「役員変更等届出書」と②「変更後の役員名簿」の2種類です。 新任の役員がいる場合は③「新任の方の就任承諾書及び誓約書の写し」、④「新任の方の住民票(提出日より6カ月以内に取得したもの)」の提出が必要です。 それまで理事だった方が間をおかずに監事に、また監事だった方が間をおかずに理事になる場合は③は必要ですが④は不要です。 9.おわりに NPO法人は少なくとも2年に1度は役員変更の登記が必要になりますが、定款の規定によって手続の内容が変わるため、まずは定款の定めを確認する必要があります。 ・所轄庁への届出は済んでいるが、法務局でNPO法人の登記手続をすることを忘れていた ・定期的に自分たちで手続きしていたが、何度も補正のために法務局に行くはめになることが多く、煩わしいので専門家に頼みたい ・法務局やネットの説明を見ても、よく分からない といった場合には、司法書士などの専門家に相談することも検討してはいかがでしょうか。
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