2023/8/22

「後追い遺言」の有効性について

例えば、夫が、妻に不動産を相続させて、その後妻が亡くなったら、妻に相続させた不動産を今度は長男に相続させたいという場合に、その内容を1通の遺言で作成することはできるのでしょうか。
 
今回は、このような形式の「後追い遺言」について解説します。
 
 
 
「後追い遺言」の有効性について
 
 
目次
1.後追い遺言とは
2.後追い遺言についての説の対立
3.実務的な対応
 
 
 
1.後追い遺言とは
 
 
遺言者が亡くなり遺言の効力が発生した後、今度は遺産を譲り受けた人が亡くなった場合には遺言者の指定する者に遺産を与えるとする内容の遺言を「後追い遺言」といいます。
 
「Aに甲土地を遺贈するが、Aが死亡した後はBに甲土地を遺贈する」というふうに、順次、財産を受け継ぐ者を指定する形の遺贈では「後継ぎ遺贈」ということもあります。
 
なお、遺言の効力が発生する「前」に受遺者が死亡した場合に備えて作成する「予備的遺言」というものがありますが、「後追い遺言」や「後継ぎ遺贈」は遺言の効力が発生した「後」に受遺者が死亡した場合に備えて作成するものですので、両者は異なります。
 
 
2.後追い遺言についての説の対立
 
 
「後追い遺言」あるいは「後継ぎ遺贈」については、民法に定めはなく、この形態の遺言が認められるかどうか解釈が定まっていません。
 
冒頭の例のように、夫が、妻に不動産を相続させて、その後妻が亡くなったら、妻に相続させた不動産を今度は長男に相続させたいという場合に、その内容を1通の遺言で作成していたとしても、夫の死亡により妻が相続した不動産は、もはや妻がどのように処分しても自由であるため、後追い遺言の後半部分は遺言者の希望にすぎないとして、無効だとする説があります。
 
これに対して、妻は、自分が死亡した場合には不動産を長男に相続させることを条件として不動産を相続し、長男は、妻が死亡したときを不確定期限として不動産を相続するとして、相続によって不動産を取得した妻は、その相続した不動産を自由に処分することはできず、後追い遺言も有効であるとする説もあります。
 
この点につき、最判昭和58年3月18日判決は、「本件遺言書による被上告人に対する遺贈につき遺贈の目的の一部である本件不動産の所有権を上告人らに対して移転すべき債務を被上告人に負担させた負担付遺贈であると解するか、また、上告人らに対しては、被上告人死亡時に本件不動産の所有権が被上告人に存するときには、その時点において本件不動産の所有権が上告人らに移転するとの趣旨の遺贈であると解するか、更には、被上告人は遺贈された本件不動産の処分を禁止され実質上は本件不動産に対する使用収益権を付与されたにすぎず、上告人らに対する被上告人の死亡を不確定期限とする遺贈であると解するか、の各余地も十分にありうるのである。」と判示し、遺言の解釈の問題であると述べました。この判決においては、後継ぎ遺贈の効力についてはっきりと判断していませんが、一般的には無効と解されています。
 
 
 
3.実務的な対応
 
 
上記のとおり、後追い遺言については見解が分かれていることから、そのような遺言を作成すると相続開始後の法的状態を不安定にし、かえって親族間でのトラブルの元となることもありますので、その作成は避けた方がよいでしょう。
 
ただ、例えば、夫が「第○条 遺言者は、その有する不動産を遺言者の妻○○に相続させる」という遺言に、付言事項として「妻○○は、第○条記載の不動産を相続したときは、その不動産を長女に相続させてください」と書き、加えて、妻に「遺言者、遺言者の夫○○が死亡した場合に同人から相続すべき下記不動産を遺言者の長男○○に相続させる」という遺言をしてもらうことで、遺言者である夫の意思を実現することができますので、現実的には、このように夫と妻がそれぞれ遺言を作成しておくのがよいでしょう。
 
また、同様の効果を得る方法として、家族信託(いわゆる後継ぎ遺贈型受益者連続信託)を活用する方法もありますので、そちらを検討するのもよいでしょう。