2023/8/24

株券発行会社と株券不発行会社について

株券とは株主の法律的な地位を表す有価証券です。平成16年に法律が改正される前はすべての株式会社に株券の発行が義務付けられていましたが、現在は株券を発行しないことが原則となっています。しかし、法改正以前から存在する株式会社については、改正に伴って当然に株券を発行しない会社(株券不発行会社)になるわけではなく、現在でも株券を発行することとされている会社(株券発行会社)が、これから株券不発行会社に変更しようとするのであれば、法律で定められた一定の手続を経る必要があります。
 
ところで、「株券発行会社」と「株券不発行会社」ではどちらの方がメリットがあるのでしょうか。今回は両者のメリットとデメリットについて解説します。
 
 
 
株券発行会社と株券不発行会社について
 
 
目次
1.株券とは
2.株券不発行会社のメリット・デメリット
3.株券発行会社のメリット・デメリット
4.おわりに
 
 
 
1.株券とは
 
 
企業に資金を出資するとその証及び株主としての権利を表すものとして株式が発行されます。そして、株式をめぐる法律関係を目に見える形にするとともに、取引しやすい形にして、その流通により株式譲渡を容易にすることができる手段として交付するものが「株券」です。
 
株券には、法令で定められた一定の事項及び株券の番号を記載し、株券発行会社の代表取締役がこれに署名し、又は記名押印しなければならないと定められています。
 
冒頭でも述べたとおり、平成16年の法改正により、株式会社は原則として株券を発行しないこととされており、株券を発行するには、その旨の定款の定めが必要です。なお、「社債、株式等の振替に関する法律」に基づき、株券の電子化(株式のペーパレス化)が進められ、平成21年1月5日以降、紙に印刷された上場会社の発行する株券はすべて廃止され、証券保管振替機構や金融機関の口座で電子的に管理されることになっています。
 
 

2.株券不発行会社のメリット・デメリット
 
 
株券不発行会社には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
 
(1)メリット
 
① 株券発行、保管にかかる手間やコストがない

株券を発行するためには、偽造防止の措置をして株券を印刷したり、会社で株券を保管する場合にはそのための台帳も作成する必要があるなど、その手間やコストがかかりますが、株券を発行しなければ、これらの手間やコストを省くことができます。
 
② 株券の偽造や紛失等のリスクが抑えられる

株券を発行しないとすれば、株主にとっても、株券を保管する必要がないため、株券を紛失したり、偽造されるリスクがないというメリットがあります。
 
 
(2)デメリット
 
① 株主であることが対外的にわかりにくい

株券を不発行とした場合、会社が作成する株主名簿でしか株主を管理・把握できないため、株主であることが対外的に分かりにくいというデメリットがあります。これは、例えば株券不発行会社の株主が亡くなった場合に、相続人が、被相続人の遺産に当該会社の株式が含まれていることに気づかなかったり、株主が第三者に対して株式を保有していることを証明しにくいといった事態が生じる可能性があるということです。
ただし、株主は、会社に対して、「株主名簿記載事項証明書」の交付を請求することができるので、この株主名簿記載事項証明書を取得しておけば、このような事態に対応することが可能です(会社法122条)。
 
 
株主名簿記載事項証明書とは

株主名簿記載事項証明書とは、会社の株主名簿に記載された事項について証明する代表取締役の署名や記名押印がされた書類のことです。
 
 
 
3.株券発行会社のメリット・デメリット
 
一方、株券発行会社においては次のようなメリットとデメリットがあります。
 
(1)メリット
 
①株主であることが対外的にわかりやすい

株券を持っている人が株主なので、株主であることを対外的にも証明しやすいという点があります。
 
 
(2)デメリット
 
①株券発行、保管にかかる手間やコストがかかる

株券を発行するためには、偽造防止の措置をして株券を印刷したり、会社で株券を保管する場合にはそのための台帳も作成する必要があるなど、会社にとっては手間やコストがかかります。
 
②株券の偽造や紛失等のトラブルが起こるリスクがある。

株券という存在がある以上、偽造や紛失等のリスクは避けられません。特に株主にとっては、株券を紛失した場合、第三者にその紛失した株券を善意取得されてしまうというリスクがあります。
 
善意取得とは

株券の占有者は真の権利者と推定されるため(会社法131条1項)、例えば、紛失した株券をAが拾い、第三者Bに譲渡された場合、Bが「Aが真の権利者ではない」ということを知っていたか、知らないことについて重大な過失が認められない限り、Bがその株券に係る株式を有効に取得することができるという制度を善意取得といいます。
 
   
なお、株券を紛失した株主は、会社に対して、株券喪失登録をするよう請求することができ、(会社法223条)、この登録後1年を経過するまでの間に喪失登録された株券を所持する者から喪失登録の抹消申請がされなければ、株券を紛失した株主は新たな株券の発行を受けることができます(会社法228条)。つまり、株券を紛失した株主は、最低でも1年間は新たな株券を発行してもらうことはできません。
 
 

4.おわりに
 
 
株券発行会社と株券不発行会社には、それぞれメリットとデメリットがあるものの、会社にとっても株主にとっても、株券を発行しないことによるメリットのほうが比較的多いため、現在でも株券発行会社となっている場合、今後、株券不発行会社への変更を検討することもあるでしょう。
 
ここで注意しなければならないのは、「株券発行会社」と「株券不発行会社」には、法律上の定義があり、現実に株券を発行していないからといって「株券不発行会社」ということにはならない、ということです。特に、法改正以前に存在した株式会社については、定款に「株券を発行する」旨の定めがあるものとみなされることとなったため、改正法の施行時に職権で登記簿に「株券を発行する」旨の登記がなされています。したがって、その後に定款を変更し、その登記をしていないのであれば、現在でも「株券発行会社」であり、現実に株券を発行しているかどうかは関係ありません。
 
自分の会社が「株券発行会社」なのか「株券不発行会社」なのかを確認するには、まず会社の定款や登記簿を確認することが大事です。
 
そのうえで、株券発行会社が株券不発行会に変更するには定款変更や法務局への登記申請が必要となりますので、手続を検討する際は専門家に相談することもお勧めします。
 
 
 

 
森山司法書士事務所では、株券発行会社や株券不発行会社への変更手続に関するご相談・ご依頼を承っております。
 
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