2023/8/26

自筆証書遺言の落とし穴?

 言の中でも「自筆証書遺言」は、手軽に、しかもあまり費用もかけずに作成することができるため、遺言を作成する際にこの方法を検討される方もおられると思います。特に、令和2年7月10日から始まった 「自筆証書遺言書の保管制度」は、法務局に手書きの遺言書を預けることができるようになり、遺言書の紛失や改ざん等のリスクを防ぐだけでなく、相続開始後に家庭裁判所における検認が不要となることからも、より一層利用しやすい方法になっています。
 
しかし、遺言を作成する時点では利用しやすい自筆証書遺言も、いざそれを使って相続手続をするためには、少し面倒な手続を経なければならない場合もあるため注意が必要です。
 
 
 
自筆証書遺言の落とし穴?
 
 
目次
1.自筆証書遺言は「検認」の手続が必要
2.「自筆証書遺言保管制度」を利用すれば検認は不要。だが・・・
3.公正証書遺言は検認が不要で、すぐに相続手続を進めることができる。
4.さいごに
 
 
 
1.自筆証書遺言は「検認」の手続が必要
 
 
「検認」とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。自筆証書遺言は家庭裁判所でこの検認という手続を経なければ遺言の内容を実現することができません。
 
したがって、相続が開始したら、まず検認の申立てをすることになるのですが、そのためには、相続人が誰であるかを証明するための戸籍謄本等の必要書類を集めなければなりません。
 
具体的には次の戸籍謄本等が必要になります。
 
(1)共通する書類
 
① 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
 
② 相続人全員の戸籍謄本
 
③ 遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
 
 
(2)相続人が遺言者の(配偶者と)父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合
 
① 遺言者の直系尊属(相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母と祖父))で死亡している方がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
 
 
(3)相続人が不存在の場合、遺言者の配偶者のみの場合、又は遺言者の(配偶者と)兄弟姉妹及びその代襲者(甥姪)(第三順位相続人)の場合
 
① 遺言者の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
 
② 遺言者の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
 
③ 遺言者の兄弟姉妹で死亡している方がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
 
④ 代襲者としての甥姪で死亡している方がいる場合、その甥又は姪の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本・被相続人の死亡が記載されている戸籍謄本
 
上記のほかにも、家庭裁判所によっては以下の書類が必要な場合もあります。
 
・遺言者の住民票除票または戸籍附票
 
・申立人及び相続人全員の住民票または戸籍附票
 
このように、検認の申立てをするために場合によっては膨大な書類を過不足なく集めなければならず、非常に大変な労力を伴うこともあります。
 
 

2.「自筆証書遺言保管制度」を利用すれば検認は不要。だが・・・
 
 
自筆証書遺言保管制度(自筆証書遺言を法務局で保管する制度)を利用すれば、検認が不要なので、前述のように戸籍謄本等を集める必要はないと思われるかもしれません。
しかし、自筆証書遺言保管制度を利用した遺言については、家庭裁判所での検認は不要ではあるものの、相続手続をするためには法務局に対して遺言書情報証明書(遺言の内容を確認するために印刷された遺言書の画像情報)の交付請求や遺言書の閲覧(モニター/原本)請求をすることになり、その際には次のような書面の添付する必要があります。
 
①遺言者の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)謄本
 
②相続人全員の戸籍謄本
 
③相続人全員の住民票(作成後3か月以内)
 
④請求人の住民票(受遺者や遺言執行者が請求する場合)
 
⑤請求人が法人であるときは、代表者事項証明書(作成後3か月以内)
 
⑥法定代理人によって請求するときは、戸籍謄本その他のその資格を証明する書類(作成後3か月以内)
①②③の代わりに「法定相続情報一覧図の写し」を添付することもできますが、「法定相続情報一覧図の証明書」を法務局で取得するには、上記①②③の書類が必要となるため、かかる手間は同じです。
また、相続人が第二順位(直系尊属)や第三順位(兄弟姉妹)であるような場合は、検認の申立の際と同じように集める書類の量は膨大なものとなります。
 
 

3.公正証書遺言は検認が不要で、すぐに相続手続を進めることができる。
 
 
公証役場で作成する公正証書遺言は、公証人が遺言書を作成し、なおかつ証人2名以上の立会いの下で作成します。このように厳重な体制の下で作成するので遺言書の偽造・変造の危険がないため、検認の必要がありません。したがって、相続開始後にはすぐに相続の手続を進めることが可能となります。
 
ただ、もし遺言書が見つからない場合には公証役場で謄本の請求をすることがなり、例えば、相続人が請求する場合には、次の書類を集める必要があります。
 
① 遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本
 
② 遺言者と相続人との続柄のわかる戸籍謄本
 
 
 
4.さいごに
 

このように、自筆証書遺言は保管制度を利用するとしないとにかかわらず、その内容の実現するまでに非常に手間がかかってしまいます。遺言は作成すること自体が目的ではないと思いますので、その内容を実現するところまでを考えて作成してみてはいかがでしょうか。