2023/8/27
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遺産分割を禁止できる!?その方法と注意点 |
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被相続人が遺言を残さずに死亡した場合に、いったん相続人全員の共有状態なった遺産を、その話し合いによって具体的に分けることを遺産分割といいます。 状況にもよりますが、一般的には、被相続人の死亡後、速やかに遺産分割をすることが望ましいとされています。しかし、すぐには遺産分割をしないほうがよい事情がある場合などには、一定の期間、遺産分割を禁止することができます。 今回は遺産分割の禁止について解説します。 遺産分割を禁止できる!?その方法と注意点
1.遺産分割の禁止とは 遺産分割は、被相続人の死亡後、いつでも遺産分割を行うことができるのが通常ですが、遺産分割をすることで問題が起こりそうな場合には遺産分割を禁止することもできます。ただし、遺産分割を禁止できる期間は無制限ではなく、相続開始の時から5年を超えない期間、または相続開始の時から10年を終期とする5年以内の期間とされています。このように遺産分割を禁止できる期間が定められているのは、分割禁止の期間が長期にわたると、遺産についての権利が確定しない不安定な状態がそれだけ継続することになるためです。 分割を禁止する遺産の範囲は全部でも一部でも構いませんが、一部の遺産について遺産分割を禁止する場合には、その遺産を特定しておく必要があると考えられています。 2.遺産分割の禁止を必要とする事情 遺言で、一定の期間遺産の分割を禁止することについて、特に理由は必要ありません。 状況にもよりますが、一般的には遺産分割は被相続人の死亡後、速やかに行うほうが望ましいでしょう。ただ、なかには一定の期間は遺産分割を禁止したほうが良いと判断されるケースもあり、遺産の範囲や相続権の有無が確定しないときや遺産の状態や相続人の状態が、すぐに遺産分割をするには適さない場合などがあります。 具体的な例としては以下のとおりです。 (1)被相続人に未成年の子がいる場合 例えば、被相続人の相続人が、配偶者と未成年の子である場合、親権者である配偶者が、未成年の子の法定代理人となって遺産分割協議をすることになりそうですが、この場合には配偶者と未成年の子の利益が相反することになるため、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらい、その特別代理人が未成年の子の代理人として遺産分割協議を行うことになります。 そこで、被相続人が、未成年の子が成年に達した後に自らの意思で遺産分割協議に参加させたほうがよいと考える場合に、遺産分割を禁止することが考えられます。 (2)相続財産や相続人の調査に時間がかかる場合 相続財産が多く、漏れなく全てを把握するのに調査に時間がかかる場合や、親族関係が複雑であり、相続人の特定を慎重に行う必要がある場合などに、一定の期間、遺産分割を禁止することがあります。 3.遺産分割を禁止する方法 遺産分割を禁止する方法としては、「遺言」や「相続人全員の合意」、「家庭裁判所の決定」の3つがあります。 (1)遺言による方法 被相続人は、遺言によって遺産分割を禁止することができます。遺言によってすることができると定められているため、生前に遺産の分割禁止をしても無効となります。 遺言で遺産分割を禁止する場合、禁止できる期間は相続開始の時から5年を超えない期間とされています。もし、5年を超えていたとしても無効とされるわけではなく、5年間の分割を禁止するものとして効力が認められます。 なお、遺言で遺産分割が禁止されている期間中に、それに反して遺産分割協議が行われたとしてもその内容は無効となります。 (2)相続人間の合意による禁止 相続人全員の合意がある場合にも、遺産分割を禁止することができます。 相続人全員の合意によって遺産分割を禁止できる期間は5年以内ですが、その期間満了時にさらに5年以内の期間を定めて更新することが認められます。ただし、遺産分割を禁止する期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることはできません。 なお、もしこの期間中に相続人全員の合意により成立した遺産分割協議は、遺産分割禁止の合意を上書きしたものとして有効と扱われます。 (3)家庭裁判所による禁止 共同相続人は、遺産分割協議が調わないとき、または遺産分割協議をすることができないときは、遺産分割を家庭裁判所に請求することができます。 しかしこのとき、特別の事由があるときは、家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁止することができます。 特別な事由として考えられるのは、相続権の有無や遺産の範囲などに争いがあり、ただちに遺産分割をすることが適当でない場合や、分割をしないほうが相続人全体にとって利益となると考えられるような場合です。 4.遺産分割を禁止する場合の注意点 (1)不動産について遺産分割を禁止した場合 遺産分割を禁止した対象が不動産の場合、その旨の登記をしなければ、遺産分割禁止の効果を相続人以外の第三者に主張することができないことに注意が必要です。 (2)相続税との関係 遺産分割が禁止されていたとしても、相続税の申告について申告期限が延長されることはないため、原則どおり相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。この場合、法定相続分で遺産分割をしたと仮定して相続税の仮申告を行い、遺産分割が完了したら更正の請求又は修正申告を行うことになります。 もし、遺産分割の禁止期間後に、各種特例(配偶者控除、小規模宅地等の特例、特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例、特定事業用財産についての相続税の課税価格の計算の特例)を受けたい場合には、相続税の仮申告時に分割見込書を提出するか遺産分割が完了した日の翌日から4ヶ月以内に修正申告又は更正の請求を行う必要があります。 なお、相続税の申告期限の翌日から3年を経過しても、相続等に関する訴えが提起されているなどの理由で遺産分割が完了しない場合には、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、その申請につき税務署長の承認を受ければ、特例の適用を受けることができます。ただし、その場合は、分割が行われた日の翌日から4か月以内までに「更正の請求」を行う必要がありますので注意が必要です。 5.おわりに 遺産分割の禁止には、相続開始後すぐに遺産分割を行うことによるトラブルを防止できるメリットがある一方で、分割を禁止した遺産が不動産の場合にはその旨の登記をしなければ第三者に対抗できない、不動産相続税申告の手続きが煩雑になる、といったデメリットもあります。 実際に遺産分割を禁止するかどうかは、これらのメリット・デメリットを比較して慎重に判断する必要がありますので、専門家のアドバイスを受けながら検討するのが望ましいでしょう。 森山司法書士事務所では、遺言作成に関するご相談・ご依頼を承っております。 どうぞお気軽にお問い合わせください。 |
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