2023/8/30

その借金、もしかして時効かも!

突然届いた督促状。内容をよく見ると何年も前の借金の返済を求めるもので、しかも今までの分の遅延損害金を含めると、とんでもない金額になっている・・・。連絡をしなければ法的措置をとるという予告がある一方で、減額や和解に応じる用意もあるというのだが、いったいどうすればいいのだろう。
 
このような経験がある方もおられるかもしれませんが、もしかしたら、その借金は時効になっているかもしれません。
 
 
 
その借金、もしかして時効かも!
 
 
 
目次
1.時効とは
2.借金の消滅時効が成立する期間は?
3.時効だと思っていても認められない場合もある
4.時効が成立する期間が経過しただけでは督促は止まらない
5.時効を援用する場合の注意点
 
 
 
1.時効とは
 
 
「時効」とは、ある事実状態が一定の期間継続した場合に、真実の権利関係に合致するかどうかを問わずに、その事実状態を尊重して権利の取得や消滅を認める制度のことです。「時効」には、一定の期間の経過によって権利を取得する「取得時効」と、一定の期間ある権利が行使されない状態が継続した場合にその権利の消滅を認める「消滅時効」の2つがありますが、借金の時効という場合は「消滅時効」のことを指します。
 
 
 
2.借金の消滅時効が成立する期間は?
 
 
借金は、債権者、つまり貸主などから見ると「貸金債権」という権利にあたりますが、この権利も時効が成立すれば消滅することになります。その結果として、債務者である借りた側にとっては、返済する義務がなくなるというわけです。
 
督促などの請求をするのは、貸主だけとは限らない?

借金の返済を求めて督促状などを送ってくるのは、もともと借入をした相手だけとは限りません。貸主から債権譲渡や回収業務の委託を受けた債権管理会社や弁護士事務所などの場合もあれば、借金の肩代わりをした保証会社の場合もあります。
 
 
そして、借金の消滅時効が成立するために必要な期間ですが、消滅時効についての規定である民法166条は「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」または「権利を行使できる時から10年間行使しないとき」に時効によって消滅するとされています。
 
もっとも、借金の貸主は、お金を貸す際に返済の方法や期限などを決めておき、返済期限を過ぎれば返済を求める権利を行使できることを知っているのが通常です。したがって、借金の消滅時効の期間については「債権者が権利を行使することができることを知った時」、すなわち、借金の返済期限から5年ということになります。
 
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
 
 
なお、平成29年に時効についての改正が行われ、令和2年4月1日以降は改正された法律が適用されていますが、それ以前には、借金などの債権の消滅時効は、原則として「業者から借りた場合は5年」「個人から借りた場合は10年」とされていました。
 
この法改正に伴う経過措置として、債権が生じた時期によって改正前と改正後のどちらの法律が適用されるかどうかが定められていますが、これによると、借金をした時期が令和2年3月31日以前の場合、時効が成立する期間は、貸主が業者であれば5年、個人であれば10年となります。したがって、法改正以前の借金について消滅時効期間を判断する際には、貸主が業者なのか個人なのかがポイントとなります。
 
 
 
3.時効だと思っていても認められない場合もある
 
 
時効には、時効の成立が一定の期間引きのばされる「完成猶予」や、それまで経過した期間がリセットされてしまう「更新」といった規定があります。借金の貸主などの債権者としては、消滅時効により返済を受けられなくなる事態を回避しようと考えるのが通常ですので、このような完成猶予や更新によって、時効の成立を阻止することを考えるでしょう。また、借主のほうも、そうとは知らずに時効の更新事由に該当する行為をしていることもあります。
 
つまり、借金の消滅時効が成立する期間が経過していても、実は時効が成立していないというケースもあるということです。
 
 
(1)貸主が行う時効の完成猶予や更新事由
 
時効の成立を阻止するために、貸主などの債権者が取りうる代表的な手段としては、「催告」(時効の完成猶予)や「裁判で確定判決を得る」(時効の更新)があります。
 
例えば、時効の成立時期が間近に迫っていて、裁判をして判決を得るのが間に合わない場合には、いったん催告を行うことで、時効が成立するまでの期間を引き延ばし、その間に裁判で確定判決を得て時効を更新することが考えられます。ちなみに「催告」で完成猶予が認められる期間は6カ月であり、催告によって時効の完成が猶予されている間にもう一度催告をしても完成猶予の効果はありません。
 
ここで、注意すべきなのは、貸主などの債権者は、借主の住所が分からなくても裁判を起こすことや判決を得ることが可能であるということです。裁判には「公示送達」という方法があり、相手方の住所地がわからなくても訴状を送達した扱いにできるため、例えば、借金をした後に引っ越しをして、貸主に住所を知らせないでいると、知らない間に裁判を起こされて時効を更新されている可能性もあります。
 
なお、確定判決によって時効の更新があった場合、その後、再び時効が成立するまでの期間は10年となります。
 
 
(2)借主が行う時効の更新事由
 
借主から貸主などの債権者に対して、借金があることを認める行為をした場合には、時効が更新され、それまでの期間がリセットされることになります。この「借金があることを認める行為」のことを「債務承認」といいますが、具体的には次のような行為が該当します。
 
① 借金の存在を認める(返済を猶予してもらう、など)
 
② 和解をする(和解書を取り交わす)
 
③ 借金の一部を返済する
 
たとえ、時効の更新に該当することを知らずに債務承認を行った場合でも、その後再び時効が成立するためには5年の期間が必要となるため注意が必要です。
 
また、消滅時効の期間が経過した後に債務承認をした場合には、その後に消滅時効の主張をすることは認められないとされています。ただし、債務承認後に再び時効が成立するために必要な期間が経過すれば、新たに成立した消滅時効の主張をすることはできます。
 
 
 
4.時効が成立する期間が経過しただけでは督促は止まらない
 
 
上記のとおり、貸主などが借金の返済を求める権利は返済期限から5年を経過すると、時効によって消滅しますが、時効が成立する期間を経過したからといって、自動的に消滅するわけではありません。貸主などの権利を消滅させて借金の返済義務をなくすためには、時効期間が経過した後に、借主が消滅時効の「援用(時効が成立していることの主張)」をすることが必要です。
 
したがって、時効が成立しているからといって援用をせずに放置していると、貸主などから何度も督促が届く可能性がありますし、そのことがきっかけとなって、債務承認による時効の更新事由があれば、その後再び時効が成立するまでの間に、より強力な回収手段をとってくるおそれもありますので、時効が成立しているのであれば、その援用をして貸主などからの督促を止めることが重要です。
 
時効を援用する方法として、一般的には、時効を援用する旨の通知書を作成し、内容証明郵便によって貸主などに送る方法で行います。
 
その際、時効を援用する旨の通知書には以下の内容を記載するようにしましょう。
 
 
①差出人の住所・氏名・連絡先

時効を援用する人の(借主)を特定するための情報で、具体的には「住所」「氏名」「生年月日」です。
 
 
② 債権を特定する情報

時効を援用するためには、どの借金の時効が成立しているかを特定する必要があります。特に、同じ貸主から複数の借金をしている場合は、明確に特定しなければ時効の援用として認められない可能性があるので注意が必要です。具体的には、「貸主などの債権者の氏名・名称」「会員番号や契約番号」「契約日や借入日」「契約金額や借入金額」などがあります。
 

③消滅時効が成立していること

時効の援用をする場合は、その対象となる借金の時効が成立していることを通知書に記載する必要がありますので、借金の時効の起算日と、その起算日から時効期間が経過していることを記載するようにします。
 
 
④消滅時効を援用すること

通知書には、時効が完成したことだけでなく、時効を援用する旨の意思表示を記載しなければなりません。「時効を援用します」などの文言を忘れずに記載します。
 
 
 
5.時効を援用する場合の注意点
 
 
(1)時効が完成しているか確認する
 
時効援用の通知書を送る前には、時効が成立しているかどうかを必ず確認するようにしましょう。もし時効完成前に貸主に時効援用の通知書を送ると、それをきっかけにして時効の完成猶予や更新などの措置を取られてしまうかもしれません。時効が成立しているかどうかを確認する方法としては、過去に届いた督促状などがあれば、その書面に最後の返済日などの情報が記載されていることがありますので、それを基に計算して、時効の成立の有無を確認することが可能です。
 
 
(2)時効の更新の有無を確認する
 
前述のとおり、時効の成立に必要な期間が経過していても、時効が成立しないケースとして時効の更新がありますので、その有無を確認することも重要です。もし、過去に裁判などが起こされていれば、督促状などにその裁判の事件番号などが記載されていることもありますので、それで確認ができる場合もありますが、必ずしもそうとは限りません。何も手元に資料がない場合には、督促をしてきた貸主などに対して直接電話などをして確認する方法もありますが、その際には、その電話のやり取りで債務の承認にあたるような言動を取らないよう細心の注意を払う必要があります。
 
 
 
6.おわりに
 
 
消滅時効によって借金の返済義務をなくすことができるとはいえ、そのための手続は決して簡単なものではありません。ともすれば、それまで経過した期間が無に帰すことにもなるため、消滅時効の援用をする際には、慎重になる必要があるでしょう。
 
また、時効の制度は、貸主などの債権者が一定の期間、何もしなかった事実状態を重んじた結果であり、借金の返済義務がなくなることは、その反射的利益だとされています。消滅時効があるからといって、時効が成立するまで借金をわざと放っておくと、時効が成立する直前になって、多額の遅延損害金と共に請求を受けることにもなりかねないため、決してお勧めはできません。
 
借金の消滅時効に関して疑問や不安がある場合は、1人で判断せず専門家に相談するようにしましょう。
 
 
 

 
森山司法書士事務所では、消滅時効の援用に関するご相談・ご依頼を承っております(ただし、1社あたりの借金が元金140万円未満の場合のみに限ります)。
 
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