2023/9/4

遺言に条件をつけることができる?

遺言は、本来、遺言者が亡くなった時点で効力が発生します。ところが、遺言者に何らかの思惑があるような場合において、遺言で定めた条件が成立したときに遺言の効力を発生させることが可能です。
 
今回はそのような「停止条件付」の遺言について解説します。
 
 
 
 
遺言に条件をつけることができる?
 
 
目次
1.停止条件とは?
2.遺言にも停止条件をつけることができる
3.停止条件をつけた遺言の効力発生を条件成就前にさかのぼらせることもできる
4.停止条件付遺言を作成する場合の注意点
5.おわりに
 
 
 
1.停止条件とは?
 
 
停止条件とは、法律行為の効力発生を、将来発生することが不確実な事実の成否にかからせるときの、その不確実な事実のことをいいます。あまり聞き慣れない言葉のため、分かりにくいかもしれませんが、ここでは、日常的に使用される「条件」と同じ意味だと考えてもよいでしょう。
 
例えば、「大学に合格したら、100万円あげる」というような約束をした場合、「大学に合格する」という事実が、100万円をあげることの「停止条件」となります。
 
 
 
2.遺言にも停止条件をつけることができる
 
 
民法985条2項は「遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。」と規定しており、遺言には停止条件をつけることができます。
 
例えば「遺言者は、その有する金1000万円を、遺言者の長女○○○○(生年月日)が婚姻したときに、同人に相続させる。」という遺言をしていた場合、この遺言は、遺言者の死亡によって効力が発生するのではなく、長女が婚姻したときに効力が発生することになります。
 
ところで、もしここで遺言者の長女が、遺言者が死亡する前に婚姻した場合はどうなるでしょうか。
 
この場合は、民法131条1項に「条件が法律行為の時に既に成就していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし、(中略)」という規定がありますので、遺言者の遺言は、条件のついていない遺言となります。つまり、遺言者の長女は遺言により、無条件で相続することができるということです。
 
 
 
3.停止条件をつけた遺言の効力発生を条件成就前にさかのぼらせることもできる
 
 
停止条件付の遺言については、その条件が成就したときに効力が発生することになりますが、ここで、民法985条2項と民法127条3項の「当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。」という規定を活用して、停止条件をつけた遺言の効力発生を条件成就前にさかのぼらせることもできます。
 
例えば
「遺言者は、その有する下記土地を遺言者の二男○○○○(生年月日)が婚姻したときに、同人に相続させる。遺言者の二男○○○○は、遺言者の死亡の日にさかのぼって下記土地の所有権を相続人より取得する。
(不動産の表示) 略
という遺言をすることで、遺言者の二男が婚姻したときに土地を相続するものの、その所有権移転時期については遺言者の死亡時にさかのぼらせることが可能となります。

 

4.停止条件付遺言を作成する場合の注意点
 
 
(1)相続税との関係
 
相続税の申告期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」とされています。しかし、遺言につけられた停止条件が、遺言者の死亡後すぐに成就できる条件ばかりとは限りません。ではもし遺言につけられた停止条件が10か月以内には成就できないような場合、相続税の申告はどうすればよいでしょうか。
 
停止条件が成就するまでは遺言の効力が発生しない以上、このようなケースでは、停止条件が付されている財産については、とりあえず法定相続分で取得したものとして計算し、その後、停止条件が成就して遺産を取得したときには「条件が成就した日の翌日から4か月以内」に「更正の請求」を行います。
 
 
(2)条件が成就するまでの期間
 
停止条件付遺言は遺言者の死亡後、条件が成就するまでの間、その効力が発生することはありません。つまり、条件が成就するかどうかが確定するまでの間は、その遺産についての権利関係が不安定な状態に置かれてしまいます。遺言に停止条件をつける場合には、その条件が成就するかどうかが確定するまでの期間があまりに長期に及ばないように工夫する必要もあるでしょう。
 
 
(3)あいまいな条件は避ける
 
例えば、「Aが『生活に困っていたら』、金1000万円を相続させる。」というように、条件の内容があいまいで、条件が成就したのかどうかが客観的に判断できないような場合、その解釈をめぐって相続人の間で紛争が生じるおそれがあります。したがって、そのようなあいまいな内容を条件とすることは避けたほうがよいでしょう。
 
 
 
5.おわりに
 
 
以上のように、遺言には、遺言者の想いや目的に応じて条件をつけることが可能です。ただしどのような条件をつけるかによっては、せっかくの遺言が無効になったり、相続人の間で混乱が生じてしまうおそれもあるため、その内容については注意が必要です。条件付き遺言を作成する際は、専門家に相談してみることをお勧めします。
 
 
 

 
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