2023/9/6

債権者からの督促を止めさせる!受任通知とは

自己破産や個人再生、任意整理といった債務整理を弁護士や司法書士といった専門家に依頼すると、依頼を受けた専門家は、まず債権者に対して「受任通知」というものを送ります。
 
これは、その専門家が債務整理の依頼を受けたことを伝えるために送る文書なのですが、その効果はただの通知のみにとどまることはなく、それ以後、督促等の取り立て行為を止めさせる効果もあります。督促等が止めば、その間に家計を見直したり、精神的にもゆとりが生まれるなどのメリットがある一方で注意しなければならない点もあります。
 
今回は「受任通知」について、その効果や注意点について解説します。
 
 
 
債権者からの督促を止めさせる!受任通知とは
 
 
目次
1.受任通知とは
2.受任通知の効果
3.受任通知を送付する際の注意点
4.おわりに
 
 
 
1.受任通知とは
 
 
「受任通知」とは、債務整理の依頼を受けた弁護士や司法書士が、金融機関や貸金業者などの債権者に「依頼者の代理人として債務整理の手続を始める」ことを知らせる通知です。専門家が介入したことを通知することから「介入通知」と呼ばれることもあります。
 
受任通知には一般的に「専門家が介入する旨」「取立停止の要請」「取引履歴の開示請求」「債務の承認に当たらない旨」が記載されており、受任通知をどのタイミングで送るかは、依頼を受けた弁護士や司法書士によって異なりますが、多くの場合は債権者に対して速やかに受任通知を送付します。
 
 
 
2.受任通知の効果
 
 
受任通知を受け取った債権者は、お金を借りた人である債務者に対して直接の取立てを行うことができなくなります。つまり、専門家に依頼することで、債権者からの借金の督促や取立て、連絡などによって生活を脅かされることがなくなるということです。
 
これは、消費者金融やクレジットカード会社などの貸金業者に関する規制などを定めた「貸金業法」で規定されています。また、債権の回収を専門に行う債権回収会社(サービサー)に対しても「債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)で同様のことが規定されています。
 
この規定に違反した場合は、罰金や業務停止などの罰則を科されます。
 
ただし、上記の規定は貸金業者や債権回収会社(サービサー)に対するものなので、貸金業者ではない銀行や信用金庫、一般の債権者に対して効力はありません。しかし、受任通知を受け取った場合、闇金などの無登録業者でない限り、ほとんどの債権者は督促や取立てを止めてくれる可能性が高いです。
 
受任通知の効力は、債務整理の手続が終了する、あるいは何らかの事情によって債務整理の手続を解除し、専門家が債権者に対して「辞任通知」を送るまで続くのが通常です。その間は、督促・取り立てや返済はストップすると考えていいでしょう。
 
 
 
3.受任通知を送付する際の注意点
 
 
受任通知を送付してもらう場合には、いくつか注意しておかなければいけないことがあります。具体的には以下の4つがあります。
 
 
(1)信用情報機関へ情報が登録される
 
受任通知を送ると、これから債務整理を始めることが債権者にも知られることになります。そこで、債権者に受任通知が届くと、債務者について個人信用情報機関に「事故情報」を登録します。これが、いわゆる「ブラックリストに載る」という状態です。
 
ただ、専門家に依頼した時点で何回か返済を滞納している場合には、すでに事故情報は登録されていると考えてよいでしょう。
 
個人信用情報機関へ事故情報が登録されると、それが消えるまで、クレジットカードの新規作成・利用、新たな借入、住宅ローンや車のローンなど各種ローンの利用、スマートフォン本体の割賦契約(分割払い)のようなことはできなくなりますので、注意が必要です。
 
 
(2)裁判などを止める効果はない
 
受任通知には、督促や取立てを止める効果はありますが、裁判や差押えまで止める効果はありません。もし、専門家へ依頼した後で債権者が裁判を起こした場合、裁判所からの通知は本人へ届きますので、その時はすぐに専門家に知らせるようにしましょう。
 
また、すでに財産が差し押さえられた場合、その財産が戻ってくることはありませんので注意が必要です。
 
 
(3)連帯保証人に請求がいく可能性がある
 
受任通知の効力が及ぶのは債務者本人のみとなるため、保証人・連帯保証人への請求を止めることはできません。したがって、保証人や連帯保証人がついている借金の場合、債権者は受任通知を受け取ると保証人・連帯保証人に対して請求することになります。その場合は、基本的には一括での返済を求めるものとなります。
 
もし、保証人や連帯保証人が返済できない場合には、同様に債務整理をしなければならなくなる可能性もあります。保証人や連帯保証人がいる場合に債務整理をするのであれば、事前に伝えておいたほうがよいでしょう。
 
 
(4)銀行口座が凍結される可能性がある
 
銀行や信用金庫などの金融機関からの借金、カードローンなどについて債務整理の受任通知を送付してもらうと、その金融機関にある口座が凍結される可能性があります。
 
これは、口座にある預金残高で借金やカードローンを相殺しようとするためです。しかも、銀行口座が凍結されると、口座からの引落しや振込といった取引もできなくなってしまいます。したがって、受任通知を送ってもらう前に以下の対処をしておくのがよいでしょう。
 
①あらかじめ預金を引き出しておく
 
②年金や給与の振込先を変更する
 
③公共料金や携帯電話料金の支払方法を変更する
 
④クレジットカードの利用料金、保険料などの支払方法を変更する
 
また、消費者金融であっても銀行の系列会社の場合には、消費者金融に対して受任通知を送ることで、その系列にある銀行の口座が凍結されてしまう可能性もあるため注意が必要です。
 
 
(5)クレジットカードは強制解約される
 
クレジットカード会社からの借金について債務整理の受任通知を送付してもらうと、通常、そのクレジットカードの会員資格は取り消され強制的に解約されることになります。したがって、以後そのクレジットカードを使うことはできません。
 
ただ、注意すべき点としては、公共料金や携帯電話などの各種料金を支払っているクレジットカードを任意整理の対象とする場合には、支払方法を変更しないと毎月クレジットカードを利用したことになり、そうなると、和解の前提となる請求額が確定しないために、和解が成立するまで通常よりも長い時間がかかることもあります。
 
また、クレジットカード会社が発行したETCカードも利用できなくなりますので、その後も本人や家族がETCカードを利用し続けていると大きな事故を起こす危険性があります。
 
 
(6)受任通知の送付後に撤回しても元の状態には戻らない
 
いったんは債務整理を依頼して受任通知を送付してもらった後でも、家族や親戚からの援助があったり、臨時収入があって返済の目処がつくことで債務整理の必要がなくなる場合があるかもしれません。
 
その場合は、債務整理の依頼を解約することで、司法書士や弁護士から債権者に対して辞任通知を送付してもらうことになります。
 
しかし、一度、受任通知を受け取った債権者は、債務者が「支払不能」の状態にあるものとして個人信用情報機関に事故情報を登録している(ブラックリストに載る)可能性もあります。事故情報の取消は債権者から信用情報機関への通知があって初めて行われるため、信用情報機関が自ら事故情報を取り消すことはしません。つまり、受任通知を撤回しただけでは信用情報機関に登録されている事故情報が消えるとは限りません。
 
また、受任通知を撤回することで、その効果もなくなりますので、督促や取立てが再開されることになります。債権者との交渉の余地はあるものの、基本的には依頼前の分割払いには戻らず、一括で請求される可能性が高いでしょう。任意整理を取り消したタイミングによっては、最初に受任通知の発送した時から期間が経過していることもあり、その間の遅延損害金が上乗せされている可能性もあるでしょう。
 
さらには、債務整理を依頼した弁護士や司法書士に対して、すでに支払った費用が返金されることも基本的にはありませんので、債務整理の依頼を解約する場合には、その後の影響まで考慮して慎重に検討すべきでしょう。
 
なお、任意整理の場合で、すでに債権者と和解が成立した後には、受任通知の撤回はできないことにも注意が必要です。和解が成立したということは、つまり、任意整理の手続が完了していることになりますので、もはや撤回の余地はなく、成立した和解の内容に従って返済をすることになります。
 
 
 
4.おわりに
 
 
借金の返済でお悩みの方には、債権者からの督促や取立てなどで精神的に余裕がない状態で生活を送られている方も少なくありません。債務整理を依頼して受任通知を送ってもらうことで債権者からの督促や取立ては止まりますし、手続が終了するまではいったん債権者への返済も止めてもらうことになりますので、精神的にも余裕が生まれ、その間にじっくりと家計を見直すことも可能となります。
 
ただ、受任通知を送っただけでは、借金問題は解決したことにはなりません。債務整理を依頼する人のなかには、受任通知を送ってもらい督促が止まったことで安心するためか、その後に連絡が取れなくなるなどして、辞任に至るケースもあります。
 
借金問題は、きちんと向き合えば解決できる問題です。受任通知の効果だけにとらわれず、借金問題の解決まで見据えることが大切です。
 
 
 
 

 
森山司法書士事務所では、債務整理(※)に関するご相談・ご依頼を承っております。
 
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※債務整理において司法書士が可能な手続は、債権者1社あたりの借金が140万円未満の任意整理、裁判所に対する自己破産や個人再生の申立書類の作成に限られます。